最果てに眠る疑念
城を出て、僕たちは歩く。
場所を知っているのがランだけなので、ランを先頭に、僕たちはついて行くだけ。
その道中で、不意にランは僕たちのほうを振り向き、いつもの微笑を浮かべながら口を開く。
「念のためにお伺いしておきますが、準備はもうよろしいのですか?」
「準備、デスか?」
「はい。お店で武器や防具を買ったりなどもできますが」
僕たちは、三人で顔を見合わせる。
最初にこの街に着たとき、もっと街の中を見て回ろうとしていたものの、色々なハプニングが積み重なって結局一度も店には行けていない。
だから、今から向かう闇の竪穴とやらが危険な場所であるなら、何か武器か防具くらいは買っておいてもいいかもしれないけど。
ただ、僕の場合は血で戦っているため武器は必要ないし、イベリスは既に一振りの剣を持っており、ヴェロニカには精霊がいる。
なので、武器は購入しなくても大丈夫だろう。
「あ、じゃあ防具だけ、ちょっといいかしら」
するとヴェロニカに視線が集まり、若干控えめに続けてきた。
「いや、ほら。あたしは精霊で戦うスタイルなんだけど、あたしが傷つくと精霊もちょっと力を失うみたいなのよ。だから、せめて防具とかで自分の身は守っておいたほうがいいんじゃないかと思って」
確かに一理ある。
精霊の前に自分が重傷を負ってしまえば、精霊を使役することすらままならなくなる。
そう考えると、ヴェロニカは特に身を守るものが必要な気がする。
「分かりました。でしたら、防具屋に行きましょう」
うふふと微笑みを携え、ランは道を右折する。
僕たちはまだ店の場所を把握できていないため、ランの後ろについて行く。
やがて、街の門の近くに位置する、一軒の建造物を前にして立ち止まった。
扉の前に建っている看板には、防具屋と書かれた達筆な文字。
その右隣には、似たような外観の武器屋もあった。
門から近いし、僕たちも何回か通り過ぎたはずだが……こんなところに防具屋と武器屋があったとは知らなかった。
そんなに、いちいち周りを見たり看板を確認したりしなかったからなぁ。
ともあれ、ランに続いて店の中へ入る。
鎧や盾など、様々な防具が店の至るところに飾られていた。
「どれになさいます? 値段も性能も様々ですが」
ランは頬に手を当て、首を傾げながら問う。
思っていた以上に、種類が多い。
案の定、ヴェロニカは多数の防具を見比べつつも、首を傾げたり眉を顰めたりして迷っていた。
「どういうのがいいんデスか?」
「そうねぇ……鎧はちょっと、着ていくのは大変そうだから……どっちかって言えば盾のほうがいいかも」
まあ、盾のほうが身動き取れやすそうではある。
ただ、鎧とは違って盾の場合は防げる範囲が狭い。
一長一短で、どっちがいいのかはその人次第といったところか。
僕も、並んでいる防具を一つ一つ見ていく。
こんなのゲームやアニメでしか知らないから、単純にこの光景をもっと目に焼き付けておきたい。
と、とある一つの盾で僕の視線は固定された。
中央に丸い金の装飾が施された、六角形の白銀の盾だ。
概要欄には、『相手の魔法を吸収する』と記載されている。
「ねぇねぇ、ヴェロニカ。これとかいいんじゃないの?」
未だに迷っているらしいヴェロニカに声をかけると、訝りながらも僕のもとへと歩み寄ってくる。
そして、盾と説明の文字を見て唸っていた。
「確かにいいけど……た、高いわね……」
値段は、およそ5000ウィロ。
宿で宿泊した際の、42泊分である。
ヴェロニカも僕も一応所持金は足りてはいるものの、いつお金が必要になるか分からない以上あんまり使いすぎるのも少し怖い。
「ま、半分くらいなら僕も出せるけど」
「じゃあ、ワタシも入れて一人三分の一デス!」
僕の発言に感化されたかのように、イベリスがびしっと挙手をして言う。
三人で分けるとしたら、一人1700ウィロ弱。
それでも充分高いことに変わりはないが、幾許かはマシだろう。
「えっ!? い、いや、さすがにそれは悪いわよ。魔法を使ってくる敵がいるのか分からないし、別にこれじゃないとだめってわけでもないんだから」
が、僕たちの申し出に対し、ヴェロニカは両手と首を左右に振っていた。
確かにそれはそうかもしれないけど……今から初のダンジョン探索に赴くのである。どうせなら、ちょっといいものを使いたいじゃないか。
僕のゲームプレイは、武器や防具を買い揃えることにあまり躊躇しないタイプなのである。
「あらあら、美しい友情ですね。少しばかり、引き裂いてみたいものです」
「……不穏なこと言うのやめて」
いつも通り微笑みを湛えながら恐ろしいことを宣うランに、僕はジト目で突っ込む。
この人は、本気なのか冗談なのか分からなくなるから余計に怖い。さすがに冗談だと思いたいけども。
「ヴェロニカ様、わたくしも少しでしたらお出しすることができます。わたくしの下らない依頼を引き受けてくださったお礼です」
「えっ……う、うん、ありがと……」
ランにも言われ、ヴェロニカは申し訳なさそうに頷いた。
と思いきや、お金を取り出しながら続ける。
「でも、さすがに四等分は悪いから……あたしが2000ほど払うわ。みんなは、1000ずつお願いしてもいい?」
「ん、分かった」
結局僕が選んだ盾に決めたらしく、全員でお金を出し合って購入した。
そして、用が済んだことで店の外に出る。
「強そうデスけど……あんまり似合わないデスね」
「うっさいわね。あたしも、ちょっとそう思ってたとこよ」
どちらかと言うと、戦士系の職業が装備していそうな盾だしな……。
精霊使いで、尚且つかなり軽装であるヴェロニカには、お世辞にも似合っているとは言い難い。
選んだ僕のせいでもあるのだが。
ともあれ、僕たちは再びラン主導のもと闇の竪穴へ歩を進める。
ひたすら草原を歩き、歩き、歩いて、歩く。
どれくらいの時間が経過した頃だろうか。
かなりの時間を要し、僕たちはようやく到着した。
大きな穴が穿たれた、ゴツゴツとした岩壁。
その穴を覗き込んでみると、下へ下へと道が続いているように見えた。
しかし、やはりランが言っていた通り、あまりにも暗くて先が全く見えない。
それにしても、僕は胸中に蟠る不安や疑問を拭えずにいた。
あの街から、この闇の竪穴までは、徒歩だったとはいえ長時間かかってしまうほどの遠いところに位置している。
しかも、こんな岩壁の、こんな隅っこにある大穴なんか。
たとえ誰かが出入りしていたとしても、偶然それを目撃してしまうものなのか……?
ましてや、六回も。
僕は、思わずランを見る。
右手を頬に当て、いつもと何も変わらない微笑みを浮かべていた。




