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その吸血鬼は、ゲーム世界でもツイてない。  作者: 果実夢想
四章【変わりやすい愛情】
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助け合いの等価交換

「僕たちで闇の竪穴に行ってみよう」


 僕の宣言に、ランは嬉しそうに微笑みを浮かべ、ヴェロニカは愕然として僕を見る。

 が、イベリスだけは瞳を輝かせて楽しそうに口を開く。


「ワタシも賛成デスよー。行ってみたいデス」


 正直、イベリスの場合は観光気分な気もするが。

 でもまあ、反対されるよりはいい。僕に、反対する者を説得させるほどの話術はあまりないし。


 しかし、同意を示してくれたのはイベリスだけなわけで。

 ヴェロニカは口角を引きつらせ、おずおずと言ってくる。


「ほ、ほんとに……? 行くの?」


「ヴェロニカは行きたくないんデスか?」


「別に、そういうわけじゃないんだけど……。危険じゃないのかなって。魔物とかもいるんでしょ? 今のあたしたちで大丈夫なのかしら」


 確かに、ランが言うには凶暴な魔物も出現するらしい。今まで、何とか魔物にも勝ってきてはいるものの、次も上手くいくという保証はどこにもない。

 だから、そうやって不安に思うのも仕方ないことだとは思う。


 いや、魔物だけの話ではないか。

 どうやら謎の女性が出入りしているみたいだし、その人が危険な人だという可能性だってもちろんある。


 どちらにしろ、戦闘になるのは必至かもしれない。

 けど、危険であれば危険であるほど、その奥には何か秘密が隠されている……気がするのだ。

 もちろん本当に危険でこれ以上は無理だと判断したら、さすがに戻るつもりではある。


 でも、何故だろう。

 自分でも不思議なくらい、その出入りしているという女性が気になってしまうのだ。


「気持ちは分かるけど、行ってみる価値はあるんじゃないかな。どうしても嫌っていうなら、無理強いはしないけどさ」


「ん、んん……でも、暗いんでしょう? 灯りはどうするのよ」


「ヴェロニカの精霊、クリムがいるよ。炎で周りをちょっと明るくして、それを頼りに進むことはできると思う」


「う、うぅん……そうね……」


 それでも尚、乗り気にはなってくれないようだ。

 嫌がる人に無理矢理やらせるのは気が引けるから、次で最後の説得にしよう。

 その結果まだ行くのに反対してくるのであれば、ランには申し訳ないがやめておくことにする。

 僕たちは三人でパーティなのだから、二人だけで行っても意味がない。


「ランは性格がちょっとアレで問題あるけど、一応それでも世話になってるし……できれば、困っているなら助けてあげたいんだよ。もちろん、ヴェロニカが反対しなければ、だけどね」


「……あー、もう分かったわよ。確かにお世話にはなってるものね、性格はアレだけど。あたしも一緒に行くわよ」


 暫しの逡巡の後、ヴェロニカはついに折れた。

 最後の決め手は、恩義だったようだ。

 ヴェロニカも、想像以上に律儀なところがある。


 実際、この大きな家を使わせてもらっている上に、食事や風呂など、お世話になりっぱなしである。

 当然、ホテルなんかより何倍も贅沢なことをしていると思う。

 だから、ランが困っていて、僕たちで助けられるのなら助けてあげたいという気持ちがあった。


「ほんと、シオンは優しいわね。あんたが救恤なんじゃないの?」


「いや、さすがにデイジーには敵わないってば」


 正直、そこまで自分のことを優しい人間だとも思わない。

 今のは、あくまで僕たちも助けられている身分なのだから、何もしないまま家を使わせてもらうのは気が引けるだけ。

 等価交換というやつだ、うん。


「ありがとうございます。シオン様、ヴェロニカ様、イベリス様。そこでご提案なのですが、わたくしもついて行ってよろしいでしょうか」


「へ?」


 ランの提案とやらに、僕たちは一様に素っ頓狂な声をあげた。

 あれ、ランが自分では戦ったりできないから、僕たちに頼んでるんじゃなかったっけ。

 訝しんでいると、更に続ける。


「もちろん、邪魔にはならないよう後ろで控えておくつもりです。戦闘も、全て皆様にお任せします」


「だったら、何でついて来るのよ」


「一緒にいると、皆様の可愛らしいお姿をもっとたくさん見れるかな、と……あ、いえ、違います。今のは嘘です。うふふ、冗談ですよ」


「本音がダダ漏れじゃない! むしろ、今の本音しかなかったわよね!?」


 ランの言う、僕たちの可愛らしい姿って……。

 つまり、困っていたり泣いていたり恥ずかしがったりしているところっていうことだろう。

 分かりたくなかったけど、もう分かるようになってしまったよ。


「シオン、どうするんデス? ワタシは一緒に行ってもいいと思ってマスよー、ランも可愛いデスし」


「可愛ければ何でもいいのか……」


 ランのことまで守備範囲内だったことに若干驚きつつ、僕は思案する。

 どんな危険があるのか分からないし、戦闘になってしまった場合、ランを守りきれる自信もない。

 でも、奥まで行ったことはないとは言っていたが、実際に出入りしている女性を見たり、入口付近まで行ったことのある者はランだけ。

 連れて行くというのも、あながち間違いではないような気もする。


「……本当に、危険かもしれないよ? 守れるかどうか分からないよ?」


「はい。わたくしのことなど、道端の石ころのように放っていただいて構いませんよ。シオン様たちは、遠慮なく暴れてくださいな」


 そこまでして、一緒に来たいのか。

 まあ、そんなに放っておくことは不可能だとは思うが、僕たちは三人もいるのだ。

 二人が戦闘を行い、一人がランを守る……という風に役割分担もできるかもしれない。


「分かった。ランも来ていいよ」


「ありがとうございます、シオン様」


 僕が承諾すると、ランは嬉しそうに微笑み、頭を下げる。

 と、何やらヴェロニカが頬杖をつきながらジト目になっていた。


「……うちのリーダーは優しいわねぇ」


「僕は特にリーダーだなんて思ってないんだけどな……」


 そもそも、自分がリーダーだったことをついさっきまで忘れていたくらいだ。

 成り行きでリーダーになりはしたものの、大してリーダーらしいことをしていない。リーダーらしいことが何なのか、いまいち分からないけども。


「でも、ラン。家にいなくても大丈夫なの?」


「はい。夜までに帰ることができれば問題はありません」


「夜までに帰れるかなぁ」


 今は、およそ昼。

 闇の竪穴がどれほどの深さなのか、そしてここからどの程度の距離にあるのかなど、何も知らないため正確には分からないが。

 半日以内で終わらせられるほど、簡単なものではないだろうに。


「とりあえず、デイジーとヤマブキさんに言っておくか」


 そう呟いた僕が立ち上がったのを見て、みんなも順に立ち上がる。

 そして、部屋を出た。

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