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その吸血鬼は、ゲーム世界でもツイてない。  作者: 果実夢想
四章【変わりやすい愛情】
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使用人からの依頼

 三人で話し合い、ひとまず今後の目的が決まったところで。

 ふと思い出し、僕はヴェロニカとイベリスに問う。


「そういや、あの仮面ってどこ行ったの?」


 そう。デイジーから貰っていたヒースの仮面が、気づけばなくなっていたのだ。あれから、ずっと持っておいたはずなのに。


「あたしも気になって、ヒースを倒したあと、シオンをベッドに運んでるときに確認してみたのよね。そのときから、既になくなってたわ」


 ヒースとの戦闘中も、一応ずっとふところに仕舞っていた。

 それなのに、倒したあとに確認して仮面が消失していたのなら。


「……プレイヤーが死んだ場合、所有物も一緒に消えてしまうってことかな」


 そう考えるのが、妥当な気がした。

 だが、仮面のような小さなものならまだしも、家などではどうなるのか。それも同じく、家が建っていた場所が丸々、何もなくなってしまうのか。

 そういったことは、まだ全然分からないけど。


「ていうか、僕の体を確認したの……? どっちが……?」


「あ、大丈夫よ。イベリスが調べたがってたけど、ちゃんとあたしがやったから」


「そうなんだ、よかった。ありがとう、ヴェロニカ」


「それ、どういう意味デスかぁっ」


 涙目でイベリスが抗議してきたが、そんなもの言わずもがなである。

 イベリスなら、どさくさにまぎれて何か変なことをしそうで怖い。

 こいつが如何いかに変態なのかっていうのは、さすがにもう分かってるからなぁ……そりゃ当然、不安に思ってしまうのも無理はない。


 と、三人でそんなやり取りをしていたら。

 不意に扉が開き、ランが部屋に入ってきた。


「あら、みなさんご一緒だったんですね」


「何か用デスか?」


「はい。少々気になることがあるので、みなさんにお話しておこうかと思いまして」


 そして、ランは僕の隣に腰を下ろす。

 床に正座で座り、両手を膝の上に乗せている。

 いつも朗らかな笑みを浮かべていたのが、今の表情に笑みはなく、真剣な様子が伝わってくる。


 僕たちは訝しみながらも、次の言葉を待つ。

 すると、若干首を傾げつつ言ってきた。


「みなさんは、『闇の竪穴たてあな』をご存知ですか?」


「闇の、竪穴……?」


 ランから発せられた聞き覚えのない単語に、ヴェロニカが鸚鵡返しで問う。

 僕もイベリスも当然知らず、ランに説明を促す。


救恤きゅうじゅつ大陸ミントスペアのどこかにあるという、竪穴のことです。誰が名付けたのかは知りませんが、灯りを持参していなければ何も見えないほど暗いことから、いつしかそう呼ばれるようになったようです」


 闇の……と言われるくらいだから、相当暗いのだろう。

 窓などは当然あるわけないし、外の明かりもあまり中に入らないのかもしれない。

 ゲームによく登場する、ダンジョンのようなものだろうか。


「当然、人間が暮らせるような場所ではありません。実際に奥まで行ったことがあるわけではないのですが、どうやら凶暴な魔物も出るらしいのです。ですが、つい先日、少し気になることがありまして」


「何かあったんデスか?」


「……はい。その闇の竪穴に、人が出入りしているのを目撃したのです。しかも、女性が一人で、です。何かを持っている様子もありませんでした」


 何も持たず、女性が一人で出入り、か。

 話を聞いた感じだと危険な場所らしいし、確かに不思議ではある。

 が、別に有り得ないことでもないような気がした。


「その人も、探索してたんじゃないの? 何か用事があったりとか」


「ですが、灯りがないと何も見えないほどの暗さなのですよ? どうやって、中を探索するのでしょう」


「魔法で明るくしたり、とかは?」


「……そうなのでしょうか。どうにも、中に入り浸っているように思えてしまって」


「どうして、そう思うんデス?」


「一回だけなら、まだ分からなくもなかったのですが……。わたくしが目撃した回数は、およそ六回。毎回同じ女性が、一人で中に入っていたのです」


 六回も見たのなら、確かに気になってしまうのは当然とも言えるか。

 ただ探索していた場合、一回か二回くらいで済む話だろうし。

 ホームレスで、そこを家にしているとも考えにくい。

 わざわざ魔物も出現する上に暗くて周りが見えない場所にするより、もっと他にいい場所はあると思うから。


「それで、何であたしたちにそんな話を?」


「わたくしからのお願い……いえ、依頼です。闇の竪穴を、探索していただきたいのです」


 そう告げ、ランは座ったまま深々と頭を下げた。

 僕たちは驚き、三人で顔を見合わせる。

 まさか、ランから依頼をされるとは思わなかった。


「でも、何で? あんたには、何も関係ない話じゃない」


「確かにそうなのですが……一度気になってしまったら、何だかモヤモヤしてしまいまして。真相が分からないままですと、気になって仕事にも集中できなくて困っているのです」


「え? 家事は完璧だったと思うわよ?」


「とんでもありません! いつものわたくしの、五分の一程度の力しか出せておりません」


「いつものあんたって、ほんとにすごいのね……」


 でもまあ、少し気持ちが理解できるかもしれない。

 僕も気になることがあったら、モヤモヤして物事に集中できなくなるときもよくある。

 たとえ、自分と直接的な関係は何もなくても。

 自分とは、全く無関係なところだったとしても。


 それに、今の話を聞いて僕も少し、少しだけ気になった。

 少なくとも、誰かがいることに違いはないだろう。

 その人がどんな人なのかは知らないが、僕たちと同じプレイヤーである可能性だって当然あるのだ。

 もちろん、〈キーワ〉の一員である可能性も。


「でも、それならランが行けばいいんじゃないデスか?」


「わたくしは、ただのメイドです。そういった危険な場所へは、シオン様たちのようなお強い方にお任せします」


「デイジーは、どうなんデス?」


「確かにお強いのですが、お嬢様に行かせるわけにはまいりません」


 メイドなのだし、デイジーを行かせたくないのは仕方ない。

 まあ、何かしらの収穫がある可能性に賭けよう。

 そう思い、僕はみんなに向かって。


「……分かった。じゃあ、僕たちで闇の竪穴に行ってみよう」


 そう、宣言した。

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