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その吸血鬼は、ゲーム世界でもツイてない。  作者: 果実夢想
四章【変わりやすい愛情】
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下ネタの応酬

 去っていくヒゴロモの背中を、最後まで見送り。

 やがて姿が完全に見えなくなってきた頃、僕は踵を返して再び家の中へと戻った。


 扉を開け、中に入ると。

 すぐ目の前にいたイベリスと、ふと目が合う。

 もしかして、僕がヒゴロモと話している間ここで待っていたのだろうか。


「ヒゴロモは、どうしたんデス?」


 開口一番に問われ、僕は先ほど話した内容を余すことなく説明した。

 僕たちのパーティに入らないかと誘ったけど、断られたこと。

 ヒゴロモなりにやりたいことがあって、自分のパーティを結成したいと言っていたこと。

 そんな話をした後、どこかへ立ち去ってしまったことを。


「え~、もうどっか行っちゃったんデスか? 残念デス……」


 僕が話している間はずっと黙って聞いていたイベリスだったが、終わるや否や、途端にオーバーなリアクションを取り出す。

 僕が眠っていたのは丸二日だったみたいだし、イベリスたちとヒゴロモが接していたのは最低でも二日だけ。

 まあ、少し名残惜しいと感じるのも無理はないか。特に、イベリスのようなタイプだと尚更に。


「ヒゴロモも可愛かったデスし、もっと仲良くなりたかったデスよーっ! せ、せめて、もうちょっとだけ、あの可愛らしい顔と体を、この目に焼き付けておくべきデシタ……」


「……イベリスはそればっかだね。まあ、そうだと思ったけど」


「もしかして、妬いてるんデスか? 大丈夫デスよ、今のところはシオンが一番好みドストライクデス!」


「嫉妬じゃないからっ!」


 僕の突っ込みを完全にスルーし、抱きついてスリスリと頬同士を擦りつけてくる。

 女の子に抱きつかれたことは……この世界では初めてじゃないものの、やっぱりまだ慣れない。


 しかもイベリスは、何というか、スキンシップが激しくて困る。

 現に今も、ほっぺスリスリだけでなく、さり気なく僕の胸やら尻やらを触ろうとしてきている。何だ、このおっさんのセクハラみたいな行為。

 とにかく触ろうとしてくるイベリスの手を掴み、阻止する。


「ひどいデスよ、シオン! もうお互いの裸を見た関係じゃないデスか!」


「一緒に風呂入っただけだしっ!?」


 いや、僕の中身が男だということを考えれば一緒に風呂も充分おかしいのだが……イベリスはまだ知らないのだから、イベリスにとっては全然普通のことのはず。

 思い出したら、またちょっと恥ずかしくなってきたけども……。


「だったら、次はベッドの上で裸を見せ合いマショウ!」


「見せ合わないからっ」


「なら、穴を見せ合いマス?」


「穴っ!? 穴って何!?」


「え? そりゃもちろん、ま――」


「言うなぁっ!!」


 だ、だめだ……イベリスの下ネタがとどまるところを知らない。心なしか、いつも以上に生き生きしているような気さえしてしまう。

 ていうか、穴を見せ合うってどういう状況だよ……。


「やははー、シオンは初心うぶデスねぇ。でも『ま』の時点で止めるってことは、完全に分かってるじゃないデスかー。もしかしたら、マンホールかもしれないデスよ?」


「うるさいなっ! マンホールの穴を見せ合うほうが意味不明だわ!」


「でも、マンホールって言葉の響き、ちょっとえっちぃデスよね」


「もう黙ってくんない!?」


 どうしよう……めっちゃ疲れる……。

 未だかつてない突っ込み量に、僕は既に息が切れそうになっていた。

 何、この苦行。


「ふぅ……初めて、こんなに堂々と下ネタを言えた気がしマス。おかげでスッキリしマシタ。ありがとうございマス」


「あれ、何で感謝されたの?」


 イベリスと出会ってから、気づけば結構経っているけど。

 未だに、よく分からないやつだった。というか、これからも分かるようになる気がしない。


 と、そんな不毛にも程があるやり取りをしているうちに。

 二階のほうから、ヴェロニカが下りてくるのが見えた。

 僕たちの姿を視界に捉えた途端に、怪訝そうな表情で首を傾げる。


「……あんたたち、そんなとこで何やってんのよ」


「やははー。ちょっと、シオンと猥談してただけデスよー」


「わ、猥談!? ほんとに何やってたのよ!」


「違うから!」


 下ネタも、ある意味猥談と言えなくもないのかもしれないが、僕は不本意ながら巻き込まれてしまっただけである。

 あまり変な誤解を生まないよう、ヴェロニカに注意を促しておく。


「ヴェロニカも、あんまり騙されないで……。ほら、イベリスだからさ」


「……確かに、そうね……。イベリスよりは、シオンのほうがまだ信用できるわ」


「ひどいデスっ!?」


 よかった。イベリスより信用されていなかったらどうしようかと思ったが、それはさすがになかったらしい。

 イベリスが涙目で何やら抗議していたが、まあ当然だから僕たちには何も言うことはない。


「……フォローもなしデスか……そうデスか……」


 見るからに、頭を下げて落ち込んでしまった。

 それを見て、ヴェロニカが「冗談よ、冗談」と励ましていた。

 そしてイベリスはすぐさま復活。単純だな、おい。


「そういやヴェロニカ、僕たちに何か用でもあったの?」


「あ、そうだわ。特にシオンに訊きたいことがあったのよ」


 二階から下りてきたため何かしらの用があったのかと思って訊ねてみたら、どうやら本当にそうだったみたいだ。

 訝しみながらも、次の言葉を待つ。


「簡単に言うと、これからのことなんだけど。ヒースは帰る方法なんてないって言ってたし、どうするのかなって思って」


「あー、それのことか……」


 確かに、それに関しては話し合っておくべきだろう。

 とはいえ、僕にも何か考えがあるわけではないのだが。


「これからって何デス? 結婚デスか?」


「あんたは黙ってて」


 イベリスのとぼけた一言に、ヴェロニカが冷たく一蹴した。

 なんか、最近は特にイベリスの扱いが雑になったというか冷たくなったというか。

 まあ、いちいち真面目に取り合っていたらキリがないっていうのが分かったんだろうなぁ。


「じゃあ、今は三人しかいないし、今のうちに話し合っておこう」


「今のうちにって、デイジーたちと一緒じゃいけないの?」


「いや、いけないってことはないんだけど。ただ、デイジーたちはたぶん僕たちとは違うからさ。元の世界に帰るとか、そういう話はしないほうがいいのかなって、ちょっと思ったんだ」


「なるほど、確かに一理あるわね」


 本来のゲームでも、テストプレイの時点で七つの美徳という存在は既にあった。

 ということはつまり、美徳の人たち――デイジーは最初からゲーム内に設定されていたということだ。

 そして、デイジーの兄であるヤマブキさんや、デイジーに仕えているメイドのランも、おそらく同じ。


 だから、僕たちのように突然この世界へと飛ばされたプレイヤーとは異なるはず。

 そう思って言ってみると、ヴェロニカもイベリスも特に反論はないようだった。


 立ったままというのも疲れるので、僕たちは二階に移動した。

 デイジーやヤマブキさんの部屋とは違う、僕が使ってもいいと与えられた一室だ。


 僕は床、ヴェロニカは椅子、イベリスはベッドに座り。

 今後についての話し合いを開始した。

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