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望まない形

 このゲームのテストプレイは、妹と一緒にプレイした。

 だから、妹がどんなキャラを作ったのかも、逆に僕がどんなキャラにしたのかも、お互いに全てを知っている。


 そう。

 僕は、この世界で妹がどんな姿になっているのかを把握しているのだ。


 だから、目の前にいる少女が。

 妹――緋衣ひえであることなんて、火を見るよりも明らか。

 本当は、間違っていてほしいけど。


「……ごめんね、にぃ


 本人から、そう言われてしまっては。

 もう微塵も疑う余地など残されていなかった。

 残して、くれなかった。


「シオン、もしかして」


「……うん。僕の、妹だよ」


「そ、そんな……っ」


 ヴェロニカが、驚愕のあまり口元を手で覆う。

 イベリスも、いつもとは違って、どう声をかければいいのか分からないのか視線が泳いだり俯いたりしていた。


 あの少女が緋衣であることは、間違いないだろう。

 でも、少しだけ違う部分もある。

 緋衣は――緋衣が作ったキャラは、あんなに目が虚ろではない。

 あんなに無表情で、それでいて、あんなに泣きそうな顔と声をしていない。


「……う、うぅ……く、うはぁ……ッ! は、だめ、逃げ、て……にぃ……ッ!」


 ――ふと。

 突然頭を抱え、苦痛なうめき声をあげたかと思いきや。

 その数秒後には、緋衣の瞳に、光など少しも宿っていなかった。さっきまで微かに残っていた光も、全て跡形もなく。


 緋衣が、無表情で、無感情で、右手を前に突き出す。

 その動作に呼応するかのように、キマイラが動き出した。

 五匹とも、全員同時に。


 そうか……緋衣が、キマイラを操っていたのか。

 緋衣が、キマイラに命令してペンダントを奪わせたのか。


 今思い出したが、緋衣は自分の職業クラスを魔物使いに設定している。

 だから、魔物を操ることだって可能だったのだろう。


 でも、何で。

 どうして、緋衣はそんなことをしたんだ。

 何が目的で、どういう心境の変化で――。


「シオン。今は、とりあえずキマイラを何とかするわよ」


「そうデス! 妹の件は、そのあとでゆっくりすればいいんデス」


「……うん。そうだね、ごめん」


 そうだ、まずはキマイラを倒さないことには緋衣と話すことすらままならない。

 五匹はあまりにも厄介だが、そんなことも言っていられない。


「……シオン。あたしの血を、ほら」


 言って、ヴェロニカが首筋を僕に見せてくる。

 僕は、戦うためにはまず誰かの血を吸う必要がある。自分のでも問題はないようだが、そのためには自分がどこかを出血しないといけない上、他人の血のほうが戦闘能力の上昇率は高い。


 僕は、ヴェロニカに近づき。

 華奢な首筋に、己の牙を突き立てた。


 瞬間――ドクン、と心臓が高鳴り始める。

 ステータス画面を確認してみれば、運勢以外の全ての数値が十倍ほどになっていた。

 しかも、五感も跳ね上がっているはずだ。

 いくら五匹もいるとはいえ、キマイラごときに負けるわけがない。負けてなんて、いられない。


 僕たち三人は、一斉に駆け出す。

 キマイラたち五匹は、ゆっくりと大きな歩幅で歩く。


 先制攻撃したのは、一匹のキマイラだった。

 大きな口から、高火力の火炎を吐き出したのだ。

 が、そんなものに直撃してしまうほど愚かな僕たちではない。

 僕たち三人は各々思い思いに相手の攻撃を躱し、反撃を試みる。


 しかし、キマイラが五匹もいることの本当の怖さを、そこで思い知ることとなった。

 火を吐いてきたキマイラに反撃しようと駆け出したとき、左右に陣取った二匹のキマイラが同時に蛇の尾で薙ぎ払ってくる。

 それは何とか跳ぶことで回避できた――が、瞬時に、もう一匹のキマイラが空中にいる僕へ目がけて火炎を吐く。


 ……やられた。

 空中にいる間は、身動きが取れない。

 だから、思わず目を瞑り――。


「……クリムっ!」


 ヴェロニカの声が聞こえた。

 目を開けると、僕のすぐ目の前にクリムの姿が。

 クリムは火炎を吐き、キマイラの火炎と対抗している。


 すごい。あの小さな体で、巨躯のキマイラと競り合っている。

 やがて二匹とも火が尽き、僕たちは地面に着地。


「ありがとう、助かった」


 短く礼を告げ、再びキマイラへと駆け出す。

 相手キマイラが五匹で連携してくるなら、僕たちだって連携するまでだ。


 目の前の一匹のキマイラが、僕に火を吐いてくる。

 だけど、僕は逃げも隠れも避けもしない。

 視力も向上している今の僕には、少し離れたところでイベリスが、蒼のオーラを纏った剣を構えていたのが見えたから。


「今デスっ!」


 火が、僕へと放たれ。

 イベリスは叫び、水の衝撃波を放つ。

 やがて、火と水が直撃し――威力などに大差があまりなかったためか、その二つともが綺麗に消え去った。


 でも、おかげで足を止めることなく目標へと達せられる。

 ヴェロニカと、イベリスがいたから。

 だから僕は、絶対にキマイラには――否、妹には負けない。


 手のひらから、血でできた刃を出す。

 だけど、いつもとは違う。

 刃は徐々に変化していき――やがて、一振りの赤い剣となった。


 剣を構え、キマイラの足元に到達し。

 僕は、その剣を力の限り振り払った。

 キマイラの、大きな足に。


 苦悶の絶叫をあげ、キマイラの足が横に切断され、血が噴き出す。

 でも、まだ僕の猛攻は終わらない。

 足、腹、尾、頭……ありとあらゆる箇所を切り刻む。

 大量の鮮血を、自身の身に浴びながら。


 すると、キマイラは消滅し、お金が地面に出現する。

 よし、まずは一匹。

 この調子で、他の四匹も――。


「…………あれ?」


 数が、増えている。

 最初にいたキマイラの数は、五匹。

 つまり、今一匹倒したから、残りは四匹になるはず。

 小学一年生でもできる、簡単すぎる計算だ。


 なのに、今この場に存在しているキマイラの数は……七匹。

 明らかに、最初より二匹も増えてしまっていた。


「……シオン、だめ。一匹ずつ倒していったら、キリがないわ」


 ヴェロニカが、絶望に歪んだ表情で呟く。

 どういう、ことだ。

 もしかして、もしかして……。



「――無駄だァ、お前らよ」



 不意に、そんな不快感のある声が響いた。

 振り向くと、そこには。


 この場に似つかわしくないスーツを纏い、目の部分だけが開いた大きな仮面からは朱色の瞳が覗く。

 そう。

 ヒースという男が、そこに立っていた。

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