浴場で欲情、メイドの快楽
――夜。
ランによる素晴らしく豪勢で美味な夕食を終え、僕はデイジーの部屋にいた。
いやぁ、本当に美味しかった。日本にも存在する馴染みのある料理もあれば、全く見たことのない、この世界特有と思しき料理までたくさんあった。
ヤマブキさんが、メイドとしてはかなり優秀と言っていた意味がようやく分かった気がする。これで性格さえまともなら、何も言うことはないんだけども。
今、デイジーの部屋にいるのは……僕、ヴェロニカ、イベリス、デイジーの四人。
ヤマブキさんは自室、ランは家事の途中のようだ。
「そういえば、他のメイドとか執事とかっていないのかしら?」
ふと、ヴェロニカが僕も少しだけ気になっていたことを問う。
この家に来てから半日近く経ったが、未だにメイドはランとしか出会っていない。
そもそも、この家には広さの割に人数はそこまで多くないように思う。
「あ、はい。ランが全てをこなしてしまうので、他の方を雇う必要もないんですよね……」
「へえ、確かにあの人すごいわよね。性格以外は」
「そうですよね、自慢のメイドです。性格以外は」
ヴェロニカからもデイジーからも、性格に難ありと判断されているらしい。
まあ、当然である。
「デイジー、デイジー。一緒に風呂に入りたいデス」
「お風呂、ですか?」
「そうデスっ! 裸の突っ付き合いっていうやつデスよー」
「それを言うなら、裸の付き合いよ。そんなベタな間違い方しないで」
「私でよければ、ぜひご一緒したいです。よければ、ヴェロニカさんとシオンさんもどうですか?」
「そうね、あたしもそうさせてもらうわ」
何やら三人だけで話が進んでしまい、その三人の視線が僕へと注げられる。
「……えっ? ぼ、僕も?」
「当たり前じゃないデスかー。一緒に入りマショウよー」
確かに宿の女湯に入ったことはあるが、こんな純粋無垢なデイジー様と一緒には……何というか、罪悪感が凄まじい。
年齢的にはヴェロニカたちと大差はなさそうだけど、そういう問題じゃないのだ。
こう、この子を騙す感じになるのは、さすがに気が引けると言いますか。
でも、そうやって悩む僕に、更なる追い打ちがかけられた。
「……だめ、ですか?」
それは卑怯だ。いくらなんでも、それはずるい。
デイジーに、潤んだ瞳の上目遣いで言われてしまっては、断ることすらできなかった。
何、この究極の2択。
「観念したほうがいいわよ、シオン」
「……く、くそぉ、分かったよ」
結局諦めて了承すると、デイジーは嬉しそうに微笑んだ。
あー、もう絶対に男ですとは言えないな、これ。
四人で廊下に出て、一階にあるという浴室へと向かう。
そして到着し、中に入ろうとしたとき。
「あら。みなさん、今からご一緒にお風呂ですか?」
ふと声が聞こえたので振り向くと、ランがすぐ近くに立っていた。この人、結構神出鬼没だな。
「はい、そうです。あ、ランも一緒にどうですか?」
「え? わたくしもですか?」
「はいっ、多いほうが楽しいですし」
「そうですね……シオン様たちも一緒なのでしたら、遠慮なくご一緒させていただきます」
と、いうことで。ランも一緒に、浴室へと入った。
僕たちが一緒ならってどういうことだ。その言葉に若干の不安を覚えてしまうのは、きっと僕だけではない……と思いたい。
脱衣所にて、僕たちは服を脱ぐ。
が、みんなが服を脱いでいる間、僕は自分の服を脱ぐことすらできず、ただ目を瞑っていた。
「シオンさん? 何をやっているんですか?」
「あ、えっと、僕は後で行くから先に入ってて」
「……? そうですか? 分かりました」
複数の足音ののち、扉が開く音と閉まる音。
浴室へ行ったことを悟り、僕は目を開く。
すると、確かに三人はいなくなってはいたものの、ランだけがまだ残っていた。しかも下着姿で。
メイド服は脱ぐのも大変そうだし、少し時間がかかっているのかもしれない。
それにしても、メイド服の上からでも分かってはいたが……こうして下着姿になると、ますます胸の大きさが顕著となる。
す、すごいな、これ……。
「どうなさいました? もしかして、わたくしのスタイルに見とれてます?」
「ち、違うっ!」
「うふふ、冗談ですよ」
僕はできるだけランの体(主に胸)を見ないよう、背を向けてゆっくり服を脱ぎ始める。
時間をかけて何とか全裸になり、再び前を向くと、何故か全裸となったランがまだ微笑んだまま立っていた。
「ふむふむ、ここはまだつるつる、と」
「どこ見てんのっ!?」
「うふふ、冗談ですよ」
「いや冗談とかないからっ!」
思わず、咄嗟に“そこ”を隠してしまう。
自分の顔は見えないから分からないけど、たぶん今は赤くなっているに違いない。
「勘違いしないでいただきたいのが、わたくしはただ、困っていたり涙目になったりしているところを見たいだけなのです。なので、簡単に見せてくれるシオン様やデイジー様のことは大好きです」
「……嬉しくないよ」
救恤大陸では、困っている人がいたら助けるっていうのが決まりになっているはずなのに、こんな人もいるのか……。
ジト目でランを睨むも、全く意に介した様子もなくいつも通りうふふと微笑むだけ。
僕、この人苦手かもしれない。
ともあれ、僕たちもようやく浴場へと移動する。
途轍もなく広い。まるでホテルの大浴場の如し。
既に浴槽に浸かっていた三人は、一様にこちらを向き、一旦僕を一瞥したあとでランへと視線が移る。
「す、すっごい大きいデス……っ! デイジーの膨らみにもビックリしマシタが、これには敵わないデス」
イベリスがはしゃいだように言い、浴槽から出て駆け寄ってくる。
確かに、デイジーも案外膨らみがあるように見える。
ヴェロニカほどではないが、おそらくイベリスとデイジーは同じくらいだろう。
ふと、横を見ればイベリスがランの胸を揉んでいた。
むにゅっ、むにゅっ、と手の動きに合わせて胸の肉が形を変える。
なんか、めちゃくちゃ卑猥な光景だった。
「ん、んぁんっ」
しかも、揉まれながらランさんは艶やかな吐息を漏らす。
でも、その瞳はこちらを向いており、口元は若干口角が上がっているような気が。
絶対わざとだ、この人。
「はっ、あぁんっ」
「変な声を出すのはやめろぉっ」
「あらあら、わざとではないんですよ? イベリス様の揉み方が絶妙なのです。シオン様も揉まれてみてはいかがですか?」
「……どこを揉めばいいデス?」
別に巨乳になりたい願望なんか一切ないが、なんか猛烈に馬鹿にされた気がする。
そうか、世の中の貧乳女子のみんなは、こんな感覚だったのか。確かに言い知れない悔しさみたいなものを感じる。
「…………ラン」
ふと。
不思議と、そんな小さな声が響き、僕たちは一斉にそちらを向く。
浴槽の中で、少し体を震わせながら俯いているデイジーに。
「みなさんを困らせてはいけないと、さっき言ったばかりじゃないですかっ!」
「あ、いや、その、困らせているわけではなくてですね? わたくしたちは、ただ楽しく……」
「いいからっ、もう大人しくしていてくださいっ!!」
「も、申し訳ございませんでした……」
おお、すごい。あのランが、大人しく浴槽に浸かり始めた。
普段優しい人のほうが、いざキレたとき怖いんだなということを思い知った。
でも、さっきはイベリスもそれなりに悪かった気はするが……まあ、いいか。




