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純潔な美人の希望

 謎の大きな仮面。

 そんなものを見せられてしまえば、もう犯人の正体はあいつだとしか思えなかった。


 だけど、もし本当にそうだとして。

 自分の顔につけていた、こんなに大きな仮面を落としたりするだろうか。

 たとえ落としても、すぐに気づきそうなものだが……。

 わざわざ放置している理由が、何も思いつかない。


 とはいえ、この仮面が大きな手がかりであることに変わりはない。

 だから、かなりの進展があったと見ていいだろう。


「この仮面、少し借りてもいいですか?」


「あ、はい、もちろんです。というより、少し不気味なので、あまり手元に置いておきたくなかったんですよね……。借りるとは言わず、差し上げます」


「あ、あはは……どうもです」


 確かに言われてみれば、少し不気味な仮面かもしれない。趣味悪いなぁ。

 この件が解決すれば仮面はいらなくなるのだが、まあ店に売れば多少は金になるか。

 とりあえず聞きたいことは一通り済んだため、礼を述べて踵を返そうとしたとき。


「あのっ! よかったら、泊まっていきませんか?」


 デイジーさんが、突然そんなことを言ってきた。

 僕たちが返事するより早く、更に言葉を続けてくる。


「わざわざ、赤の他人である私のためにペンダントを取り返そうとしてくれているのですから。せめて、何かお礼を、と思いまして……ご迷惑でしたか?」


 どこか申し訳なさそうに、上目遣いで遠慮がちに。

 迷惑、なんかあるわけない。むしろ、嬉しさの極みである。

 さすが救恤きゅうじゅつの美徳なだけあって、めちゃくちゃいい子だ。


「でも、いいんですか?」


「はいっ、もちろんです。ですよね、兄様」


「ん。おいらも賛成だよ」


 と、途中でヤマブキさんに視線を送り、ヤマブキさんは微笑んで頷きを返した。

 この二人の関係、もしやと思ったが……やっぱりそうだったのか。


「兄妹、だったんデスか?」


「はい、そうなんです。似てませんよね」


 イベリスの問いに、デイジーさんは笑う。

 やっぱり、笑うと可愛いじゃないか。あんなに落ち込んで沈んでいる表情なんか、やっぱり似合わない。

 一刻も早く、取り返してあげないと。


「じゃあ、お言葉に甘えて……」


「はいっ! それとみなさん、敬語は使わなくても大丈夫ですよ。いつもの、話しやすい話し方でお願いします」


 初対面の人にはどうしても敬語を使ってしまいがちだが、デイジーさんからも敬語じゃなくていいと言われてしまった。

 何というか、ここの人たちはみんな友好的で温かくていいなぁ。


「部屋はたくさんあるので、好きに使ってくださいね」


「ありがとう、デイジーさん」


「さんづけもしなくていいですよ。呼び捨てでお願いしますっ」


「ええっ、じゃ、じゃあ、分かった、デイジー」


「えへへっ。いつも、さんとか様とかつけられてしまうので、呼び捨てっていうものに憧れていたんです……嬉しいです」


 何この人、可愛いんですが。

 でも確かに、デイジーはこの大陸で一番偉い人なわけだから、気軽に呼び捨てにする人なんてヤマブキさんくらいのものだったのかもしれない。

 それくらいで喜んでくれるなら、僕もちょっと嬉しいけど。


「そういえば、まだ名前を聞いてませんでしたね」


「僕はシオン」


「ヴェロニカよ、よろしく」


「イベリスデスよーっ! よろしくお願いしマスっ!」


「はい。デイジーです」


 そこで、ぺこりとおじぎをした。

 礼儀正しいお嬢様だ……僕たちが場違いな気すらしてしまう。


「……あら。みなさん、ご一緒だったんですね」


 と、不意に声が聞こえたので振り向くと、ランさんが歩み寄ってきていた。

 相変わらず、にこにことした微笑を顔に貼り付けている。


「聞いてください、ラン。私、初めてお友達ができましたっ! しかも、私のことを呼び捨てで呼んでくれて……私、すごく嬉しいです」


 デイジーは、喜々としてランさんに話し出す。

 なんか、こんな風に嬉しそうに話されると、ちょっと照れ臭い。


 僕たちが初めての友達、か。こんなにいい子なのに、七つの美徳の一人であるという身分の差から、畏敬などはされても親しくはなれなかったんだろう。

 そう考えると、少し可哀想だ。

 だから、そんな寂しい心を、僕たちで埋めることができたのならいいけど。


「まあ、それはよかったですね。でしたらシオン様、わたくしのことも呼び捨てで、更にタメ口でも構いませんよ?」


「えっ? でも……」


「……いけませんか? でしたら、わたくしにも考えが……」


「分かったっ! 分かったから!」


「うふふ、ありがとうございます」


 具体的にどんな考えがあるのかさっぱり分からないが、何だかランに脅されると従ってしまいそうになる。

 怖い。この人、本当にメイドかよ。


「今日、シオンさんたちを泊めてさしあげたいのです。お食事など増えてしまいますが、いいですか?」


「ええ、もちろん構いませんよ。それがメイドの仕事ですから。それに、シオン様たちには、もっと虐め……いえ、もっと可愛がってさしあげたいものですし。うふふ」


「ラン、あまり困らせるようなことはしないでくださいね」


「何をおっしゃいますか。わたくしも、シオン様たちも、一緒に楽しく気持ちよくなれますよ」


 クスリかよ。

 楽しくも気持ちよくもなれるのは、ランだけな気がするんだけど。


「もうっ! いつもみたいなのは、シオンさんたちには禁止ですからねっ!」


「そ、そんな……っ!? ひどいですよ、お嬢様! わたくしの生き甲斐がぁ……」


「ひどいのはランですよ! 別のことに生き甲斐を感じてくださいっ」


 一応、口論と言えなくもないのかもしれないが。

 泣いたり笑ったりコロコロと表情を変える二人は、やっぱりとても仲がいいんだなと思った。


 頑張って、デイジー。

 僕も、できればランに虐められたくはないから……なんとか言い負かしてください。


「ですが、お嬢様。シオン様たちと仲良くなりたいのは本当ですよ? 楽しく遊ぶくらいなら、それくらいなら問題ありませんよねっ?」


「それなら、まあ……いいですけど」


 負けちゃったよっ!?

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