救恤を求む
ここセブンズの世界では、七つある各大陸に、それぞれ統治している王とも呼ぶべき存在――七つの美徳が存在する。
僕は他にどんな大陸があるのかを知らないし、七つの美徳についても全く詳しくないから分からないが……。
ここミントスペアに関してなら、ゲームの序盤をプレイしていたから多少は知っている。
救恤大陸――ミントスペア。
その名の通り、ここの大陸を統治している美徳は、救恤。
救恤とは、簡単に言えば「困っている人を救い、恵むこと」だったと思う。
だから、ミントスペアでは困っている人がいれば助けることが決まりとなっているらしい。タイムさんも、そう言っていたし。
七つの美徳は、七人いることになる。
大陸の数と合致するため、各大陸を一人の美徳が統治しているという話ならば当然だろう。
その中の一人である、救恤。
それが、先ほど話に出てきたデイジーっていう人らしい。
まさか、こんなところでいきなり美徳の一人の名前が出てくるとは思わなかった。
大陸の中で一番偉い人物なのだし、僕らのような平民とかには簡単に会ったり見たりできないのではないかと、少なからず思っていたから。
「おいらはね、そのデイジーとちょっとした知り合いなんだ。だから正確にはおいらが困っているわけじゃないんだけど……代わりに、おいらが依頼させてもらった」
ということは、デイジーっていう人に何かがあったということだろうか。
しかも代わりに依頼したとなると、自分で依頼できないほどのことがあったのか、もしくは誰かに依頼をする気がそもそもなかったのか。
疑問点は増すばかりだが、とりあえず割り込むことはせず話を聞き続ける。
「デイジーには、親がいない。デイジーを守る役目の兵士たちやメイドならいるけど、血が繋がった親という家族が、昔からいないんだ」
親が、いない。
それを聞いて、何だか僕はあまり他人事のように感じられなくなってしまった。
「親との思い出は、形見のペンダントだけ。そのペンダントには、親が映っている唯一の写真が入っていた……。だから、昔から肌身離さず、ずっと持っていたんだけど。ある日、デイジーと兵士二人が出かけているときに、あいつが現れた。キマイラが、ね」
少し、分かってきた気がする。
そこで、キマイラにそのペンダントを奪われたってところだろう。
だけど、もしそうだとすると、おかしい点がいくつかある。
「あとは、想像通りだと思う。兵士二人はデイジーを守って重傷を負い、デイジーはペンダントを奪われるだけで済んだのはいいものの、それっきり部屋の中に引きこもってしまった……。おいらは気になって部屋の外から事情を聞いてみたら、最初は答えてくれなかったんだけど、おいらがしつこく何度も聞いてたら教えてくれたよ」
デイジーにとって、よほどペンダントが大事だったのだろう。
今は亡き親との思い出だというなら、それも当然だと思う。
でも、疑問点を解消させるまでは、この話を終わらせたくはなかった。
「あの、ちょっと気になったことがあるんですけど、いいですか?」
「ん? なんだい?」
「キマイラって、魔物ですよね。僕たちは実際に戦ったから分かるんですけど、その……キマイラって、ペンダントなんか奪うんですか? しかも重傷を負ったとはいえ、兵士もデイジーさんも、誰も殺しすらしないなんて……」
「うん、おいらも不思議だった。だけどデイジーが言うには、ペンダントを口に咥えた途端どこかに去っていってしまったらしいんだ。止めをさすことをせずにね。どうしてなのか、おいらも分からない」
おかしいのは、それだけではない。
その話通りなら、キマイラがペンダントを持っているはず。
じゃあ、どうして倒したときに何も出てこなかったのか。
やっぱり、おかしい。
この件、もしかして他にも誰かが関与している……?
いや、まだそう結論を出すのには少し早い気もする。
「シオン、どうするの?」
「そうだね……この依頼、個人的にもちょっと気になる。だから最後まで引き受けたいんだけど……だめかな?」
「ワタシは賛成デスよー。こんな話を聞いてしまったら、途中でやめることなんかできるわけありマセン」
「しょうがないわね。あたしも、正直気になるもの」
パーティを結成した以上、僕だけの独断で行動はしないほうがいい。
そう思って訊ねてみたら、二人とも了承してくれた。
実にありがたい。イベリスも言っていた通り、こんな話を聞いたのに最後まで引き受けないなんて不完全燃焼にも程がある。それに、この人にも申し訳ないし。
「ということで、そのデイジーさんの件、最後まで引き受けさせてもらいます。えっと、名前は……」
「ああ、おいらの名前はヤマブキ。本当にありがとう、嬉しいよ」
そう言って右手を差し出してきたので、僕は自分の名を名乗りながらその手を握って握手を交わす。
その後、順番にヴェロニカやイベリスとも握手をしていた。
「ヤマブキさん、ちょっと頼みがあるんだけど……いいですか?」
「何かな? あ、それとシオンちゃん、敬語じゃなくてもいいよ」
「あ、じゃあ、分かった」
正直、僕としても敬語は少し苦手だったので、その言葉は少し嬉しかった。
遠慮なく敬語をやめ、僕からのお願いを口にする。
「その……デイジーさんに会いたいんだけど、できるかな」
「えっ? デイジーに?」
ダメもとで言ってみただけだ。
断られる可能性はもちろんあるし、むしろデイジーはこの大陸の王みたいな存在なわけで、しかも引きこもってしまっている今の状態だと、断られて当然だとすら思える。
けど、返ってきた言葉は予想に反して。
「どうかなぁ……デイジーが会ってくれるかどうかは分からないけど、分かったよ。君たちを、案内する」
「えっ、いいの?」
「うん、もちろん。だって、おいらの依頼を受けてくれたわけだしね。だから、これくらいのことはさせてよ」
「ありがとう……」
「ははは、ありがとうはこっちのセリフだよ」
ヤマブキさんは、本当にいい人でよかった。
デイジーが見知らぬ他人である僕たちに会ってくれるとは思えないけど、その場合は仕方ない。
ただ、手がかりが何もない以上、少しでも話を聞いておきたいのだ。
「こっちだよ、ついてきて」
と、ヤマブキさんが歩き出したので、僕たちは彼の背中について行く。
どこに行くんだろう。街のほうに行くのかと思いきや、進んでいる方向は明らかに街から遠のいている。
訝しんでいると、やがてとあるものが見えてきた。
二匹の馬からロープのようなもので繋がっているそれは――明らかに、馬車というやつだった。
まじか……この世界、馬車とかもあったのか。
「よし、じゃあこれで城まで行こう」
ということで、僕たちは人生で初めて馬車に乗ることになった。




