悲劇の後に
「その女は――死んだんだよ。元の世界でも、同じようになァ」
突然現れた仮面の男が言った、残酷な真実は。
この世界が、本当にただのゲームではないことを意味していた。
僕のステータス画面にも、やはりHPという数値は存在する。
攻撃力や防御力などの他のステータスはおそらく大まかな目安ではあると思うが、HPだけは何があっても0にしてはいけない。
その瞬間、この世界でだけではなく元の世界でも死んだということになってしまうから。
つまり、だ。
アイは、イベリスと喧嘩別れしたまま。
仲直りすることも、謝ることすらできず。
お互いに大きな亀裂を生じさせたままで、永遠の別れとなってしまったのだ。
そんなの……辛すぎるじゃないか。
もう二度と、会うことも話すことも何もできないなんて。
「う、嘘、デス、よね……?」
「嘘なわけねぇだろうがァ、今言ったことは全部、紛れもない真実だァ」
信じたくなどないが、嘘だとも思えなくなってしまっていた。
だって、死んだ人は生き返るわけがないのだ。誰だって、そう。
ゲームでは、あくまでフィクションだしシステムだから疑問などないけど、この世界は――他でもない自分たちが今体験している現実。
だから、死っていうものは、起こってしまえばもう取り返しのつかない一度きりの悲劇なのだ。
「そん、な……」
イベリスは今直面している現実に、ただ涙を流す。
ヴェロニカも口元に手をあてて悲しみ、僕自身も俯いて悲嘆に暮れていた。
「蘇生とか、そんなもん考えないほうがいいぜ。普通のゲームならあるかもしんねぇけどよ、この世界にはそんなもんねぇんだからなァ」
蘇生魔法すら存在しないとなると、もう本当にどうしようもないってことか。
アイは、生き返らない。
「分かったら、自分が死なねぇように気をつけるこったなァ。じゃねぇと、この世界ではてめぇらも、その女と同じようになっちまうぜ」
僕ら全プレイヤーにもHPという数値がある以上、その値が0になってしまえばアイと同じく死んでしまうということだろう。
今までは、気楽に楽しんで魔物を討伐したり依頼を受けたりしていたが……これからは、もっと考えなくてはいけないのか。
僕は死にたくなんてないし、ヴェロニカもイベリスも、これ以上誰一人として死なせたくない。
「俺はヒース――てめぇらとは違う思想を持つ道化師だァ」
最後に名を名乗り、僕たちの横を通り過ぎて立ち去っていく。
後には、静寂だけが残された。
誰の口も開かない。開くことができない。
「アイっ!?」
しかし、イベリスが静寂を切り裂き、アイの体を抱き寄せる。
そのアイの体は、淡い光に包まれていた。
何だ、これは。
淡い光から謎の粒子が出て、上へ上っていく。
時間にすると、何秒くらいだろうか。
あまり長い時間はかけずに、アイの体は。
光とともに、完全に消え失せてしまった。
「ごめん……ごめんなさいデス、アイ……」
何も見えなくなっても、イベリスはしゃがみ込んで俯き、ただ謝罪の言葉だけを述べていた。
僕とヴェロニカはかける言葉が思いつかず、暫くイベリスを見つめていた。
§
「……シオン、ヴェロニカ。頼みがありマス」
不意に、こちらを振り向きもせずに言ってくる。
返事はせずに、次の言葉を待つ。
「ワタシを――仲間にしてくだサイ。同じパーティに入れてくだサイ」
「でも、あんた……」
「アイは、ワタシのせいで死んだも同然デス。悔しくて、悲しくて、辛くて……でも、アイはいつまでもワタシに、こんなに沈んでいてほしくないと思うんデス。けど、やっぱり一人じゃ……心細いデスから」
そして、こちらを振り向いて微笑む。
目尻には涙が溜まっていたが、僕は何も言わず頷いた。
「もちろんだよ。ヴェロニカも、いいよね?」
「う、うん、仲間が増えるのは心強いわ」
「ありがとう、ございマス……っ」
HPが0になると死んでしまうって分かったんだ。戦力が増えるに越したことはない。
イベリスがどれだけ辛いかなんて、想像に難くない。
それでも頑張って前を向こうとしているイベリスの頼みを、拒むことなんてできるわけがなかった。
「でも、どうやればいいのかしら」
「まずはリーダーを決めマショウ。それからデス」
「リーダー? シオンでいいんじゃない?」
「何でっ!? 僕そういうの向いてないよ!?」
「ワタシは賛成デスよー。一番強いデスし、一番リーダーの素質があると思いマス」
「えぇ……うそぉ」
二人に押し通されてしまい、結局僕がパーティのリーダーをやることとなった。
素質なんて一切ないと思うんだけどなぁ。
「じゃあシオン、ステータス画面を開いてくだサイ。そこに、パーティっていう項目がありマスから」
指示通りステータス画面を見ていくと、確かに右上に小さくパーティと書かれた箇所があった。
その状態でパーティと念じれば、現在のパーティメンバーが表示される(今はまだ僕の名前と職業しかないが)。
そして右下には、「パーティに入れる」と書かれている。
うーん、こういうところは本当にゲームなんだよなー。
「パーティに入れる」と念じると、「パーティに入れたい人物に触れてください」という指示が。
僕は、その通りにヴェロニカとイベリスに触る。
「あ、来マシタ。ヴェロニカもステータス画面を見てくだサイ」
「分かったわ」
どうやらリーダーとなる僕が「パーティに入れる」と念じて対象の人物に触れれば、その人に通知らしきものがいくらしい。
そこで承諾するか拒否するかを選べて、承諾すれば無事にパーティ加入ということみたいだ。
さっきまでは僕の名前と職業しか書かれていなかったパーティメンバー一覧に、ヴェロニカとイベリスの名前と職業が表示された。
レベルも書かれてはいるが……イベリスはまだ7だったのか。僕たちより3少ない。
「これからは、ワタシたちは同じパーティの仲間デス。よろしくデスよー」
「ええ、こちらこそよろしく」
「何で僕がリーダーなのか、まだよく分からないんだけど……まあ、よろしく」
悲しすぎる別れを経て。
新たな仲間の存在に、僕たちはそれぞれ握手を交わした。




