表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/157

人でなしの悪戯小僧

 翌朝、起床してすぐ僕たちはクエスト掲示板の前までやって来ていた。

 もちろん、ヴェロニカの犬嫌いを克服兼修行のために。


「で、結局やりたいことって何なのよ」


「これだよ」


 ヴェロニカの問いに、僕は背後のクエスト掲示板を後ろ手でバンっと叩く。

 そう。ここに来た理由は、他でもない。


「ここに書いてある数々の依頼を、二人でこなしていくんだよ。当然その間ヴェロニカの精霊を出し続けておけば、犬が嫌いとか言ってる場合じゃなくなるでしょ。特に魔物討伐系の依頼なら、逃げるわけにもいかないんだし」


「あんたって、結構スパルタなのね……」


 本当はこんな方法じゃなくてもっとのんびりするべきだとは思うんだけど、イベリスとの決戦までに間に合わせるには、そんな猶予はない。

 しかも、もし犬嫌いを克服できたとしても、その精霊を戦闘に生かさなくてはいけなくなる。

 

 だから時間は全く足りないし、上手くいく可能性なんて皆無にも等しいだろう。

 でも、一応やってみるだけやってみよう。

 ヴェロニカは絶対に負けたくないみたいだから、僕もできるだけ協力はしてあげたい。


「分かったけど、どの依頼にするのよ。いっぱいあって、どれがいいのか分からないわ」


「そうだなぁ……最初だから、あんまり難しくなさそうなものがいいとは思うんだけど」


 左上から右下まで順番に見ていき、できそうな依頼がないか吟味する。

 やがて、とある一枚の紙に僕の視点が固定された。

 

 依頼主は、この街の酒場に住むマスター。

 依頼内容は、頻繁に店に悪戯をしにくるゴブリンを懲らしめてほしい。

 報酬は、895ウィロ。


 酒場だから夜だけなのかと思いきや、悪戯をしに来るのは朝や昼間のほうが多いらしい。

 ゴブリンと言うと、アニメやゲームにはよく登場するファンタジーの定番的な魔物だ。

 確かに悪戯をする魔物として描かれることが多いように思えるが、僕だってあんまり魔物に詳しくないためよくは知らない。


 詳しい内容を聞くには、酒場に行ってマスターから話を伺う必要がありそうだ。

 ただ、あくまで僕の予想ではあるものの。

 ゴブリンと言えば、ゲームなどではわりと弱い魔物として登場することが多い気がするし、悪戯をする程度なら、そこまで難しい依頼でもないんじゃないだろうか。


「これ、いいんじゃないかな」


「でもそれ、あたしの精霊の使いどころないんじゃないかしら」


 ヴェロニカに勧めると、首を傾げて言ってきた。

 確かに、精霊といえば主に魔物との戦闘に使うものというイメージは強いかもしれない。


 だけど、精霊だって生き物だ。

 戦うだけの兵器じゃない。

 

 それに、今ヴェロニカが使役できる精霊は、犬だけ。

 犬なら、ゴブリンの追跡にも役立つ気がするのだ。

 安直すぎる考えかもしれないけど、可能性が少しでもあるのなら試してみる価値はあるだろう。


「犬なんだから、ゴブリンを追いかけることにも役に立つかもしれないでしょ」


「あたしの精霊は、ただの犬じゃないんだけど……。そんな警察犬みたいなこと、本当にできるのかしら」


「……さぁ」


「適当かっ」


 適当かと言われてしまえば反論はできないが、こういう試行錯誤の末にいい結果を生み出せるようになるものなのである。

 などと自分を正当化しつつ、依頼内容が書かれてある紙に記されてあった地図を頼りに、酒場へと向かう。


 とある路地裏に、ひっそりと建っている古びた店だった。

 扉を開けて入店すると、カランカランと鈴のような音が響く。

 そして、すぐさま僕たちの存在に気づいたマスターと思しき中年の男性が、申し訳なさそうに口を開く。


「……ん? 客か? 営業は夜からなんだ。悪いが――」


「あ、いえ、客じゃなくて。依頼を見て、ここに来たんですけど」


 僕たちは見るからに少女なのにも拘わらず年齢のことを指摘してこなかったということは、このゲーム世界では、お酒は未成年でも飲めるようになっているのかな。

 色々と大丈夫か、それ。


「……ほう。君たちが引き受けてくれたのか。助かる」


 なんというか、カッコいいおじさんって感じの人だ。

 ワイルドな髭を生やし、高身長に低音ボイス。

 僕も、できればこういうカッコいい年の取り方をしたいものだ。まあ、今は性別すら違うんだけども。


「では、早速話させていただこう。とは言っても、ほとんど掲示板に書いた通りなのだが……。主に朝や昼間、時折夜にもゴブリンという魔物が現れ、店の酒に細工をしたり、酒を勝手に飲んだりなど、店での悪戯が絶えなくてね。私が店にいる間ならばまだいいのだが、生憎と四六時中ここにいるわけではない上に、ゴブリンが出現する時刻はいつも違う。私にだって店の営業がある以上、常にゴブリンの監視や相手をしているわけにもいかなくて困っていたところだ」


「臨時休業という風にはできないんですか?」


「確かに私も考えたが、そういうわけにもいかない。毎夜毎夜、ここの酒を飲むことを楽しみにしてくれている客がいる……その客たちを裏切るわけにはいかない」


「でも……」


「君の言い分も理解できる。だが、私にも譲れないものはある。そのために、こうして依頼をしているのだから」


 確かに僕たちは依頼をされている側で、報酬として金銭を貰う以上、あまり色々言うのは野暮か。

 そう思い、依頼内容について更に詳しく訊くことにした。


「分かりました。それで、僕たちは何をすればいいんでしょうか」


「そうだな……朝から夜中まで、この店を見張っておいてほしい。私が店の営業している最中も、営業が始まっていないいない時間も、終わった時間も。いつ来るのか分からない以上、常に見張っておく必要がありそうなのでな」


「な、なるほど……」


 一日中、この店にいないといけないということか。

 思っていた以上に、大変そうなクエストだ。

 すぐに発見できればいいものの、最悪の場合だと、たまたまその日にゴブリンが来なくて一日が無駄になってしまう恐れもある。

 まあ、それがこの人の依頼なら、やるしかないんだろう。仕方ない。


「それでは、早速頼む」


「はい」


 頷き、外に出る。

 そして扉の付近にて、ゴブリンが現れるのを今かと今かと待ち続ける。


 なんか、思っていたのと違う。

 これだと、あまりヴェロニカの精霊を使う必要がない気もする。


「とりあえず、精霊出しておこう。もしゴブリンが逃げ出したとき、追いかけるのに役立ちそうだし」


「そ、そうね」


 暫しの逡巡ののち、ヴェロニカは詠唱を経て赤い犬の精霊をこの場に呼び出す。

 出てきた瞬間、ヴェロニカはすぐに僕の背後に隠れてしまっていた。


 正直、不安でしかないが。

 こうして、僕たちの初任務が始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓こちらもよろしくお願いします!
小説家になろう 勝手にランキング
小説家になろうwiki
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ