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花園への誘い

 僕とヴェロニカは、突然セブンズというゲームと同じ世界にやって来てしまった。

 もしかしたらアンブレット内に、他にも同じようなプレイヤーの人たちがいるかもしれないと思ったが……。

 

 まさか、本当に出会ってしまうとは。

 

 いやはや、何が起こるのか全く分からないものである。

 ノンプレイヤーキャラと、僕たちみたいなプレイヤーの人たち。

 その両者に見た目の違いは全然ないため、こうして教えてもらわないと気づけない。

 だから既にすれ違っている可能性だってあるわけだけど、でも実際に教えてもらって、同じ境遇の仲間だと知ったらやっぱり嬉しいものだ。

 

「やははは、ただのNPCかと思ったら、そうだったんデスね。びっくりデス」


「そうだね……意外と会えるものなんだね」


「やはは、ただの偶然だと思いマスよ」


 まあ、イベリスの言う通り、ただの偶然だろう。

 ただ、忘れてはいけない。忘れるなんてできない。

 僕はリアルでも非常に運が悪く、そしてゲーム世界にいる今も運のステータスだけが永遠の0。


 それが意味するところを想像して、やはりこの出会いがただの幸運によるものだとはどうしても思えなかった。

 とはいえ、ヴェロニカ以外の仲間に会えたのは素直に嬉しい。


「最初は戸惑ったりしたんデスが、今では何だか楽しくなってきちゃいマシタ。ずっとこのままでもいい気がしマス」


「ポジティブで羨ましい限りだわ……」


 僕たちもそう思えたらいいんだけど、さすがにイベリスみたいに楽観的にはなれない。

 いや、確かにゲーマーとしては、ゲーム世界というレアすぎる体験ができているのだから楽しいっていう気持ちも当然あるにはあるんだけど。

 

 それ以上に、不安のほうが大きい。

 魔物に負けたらどうなるか、HPがゼロになったらどうなるか、今後どんな災難きけんが待ち構えているのか。

 そんなことを想像しては、またすぐに危惧してしまうのだ。

 昔から、このゲーム世界に来ても変わらない、運の悪さが自分にあるが故に。

 

「と、ところで、さっきからずっと我慢してたんデスけど、そろそろ我慢も限界なので言っちゃってもいいデスか?」


「……?」


 少し頬を紅潮させながら言われ、僕とヴェロニカはほぼ同時に首を傾げる。

 すると、何やら手をワシワシさせながら、更に続けてくる。

 

「ワタシ、確かに女の子なら誰でも好きではあるんデスけど、やっぱり好みってものがあるんデスよ。もちろんヴェロニカみたいな、おっぱいの大きい美人さんも好きデスけど、実はシオンみたいな、ちっこくて可愛い子が大好きなんデスっ!!」


「……? ……?」


 訳が分からず、ますます訝しむ僕たち。

 しかし、イベリスはそんな僕たちに構わず、興奮した様子で叫ぶ。

 

「つまり、シオンはワタシのドストライクなんデスよ! 結婚してくだサイ!」


「は、はぁっ!? いきなり何言ってんの!?」


 思わず突っ込まずにはいられなかった。

 いきなり求婚されるとは……色々と順序をぶっ飛ばしすぎだろう。

 しかも中身が男とはいえ、今は女の子同士なのだ。

 だから、そんなことを言われても困る。ほんとに。


「まあ、さすがに結婚は冗談なんデスけど」


「……冗談なのかよ」


「え? 本気のほうがよかったデスか?」


「い、いや、違う! 自惚れんなっ!」


「自惚れって……。でもほら、このゲームって同性でも結婚できるようになってるじゃないデスか」


 あー、確かに前情報でそういうシステムが解禁されていた気がする。

 プレイヤー同士で、恋人になったり結婚ができるというネト充御用達みたいなシステムだ。異性とだけではなく、同性とも恋仲になれるというので、それなりに話題を呼んでいた。

 

 このゲームは同性愛の人にも優しい。

 でも僕は中身が男なんだけど、この場合はどうなるんだろう。

 

「そんなことより、本題に入りマスよ。ワタシはシオンに言いたいことというか、頼みたいことがあるんデス」


「本題から話を逸らしたのはあんたでしょ」


 僕の代わりに、ヴェロニカが突っ込んでくれた。

 イベリスが相手だと、ツッコミ役が二人でも足りない気がするよ。

 

 けど、それにしても頼みたいことって何だろう。

 まだ初対面の僕に、何かやらせたいことでもあるのだろうか。

 正直、不安しかないが。

 

「えっとデスね。ワタシ、昨日までは友達と二人だったんデスが、今は喧嘩しちゃったので一人じゃないデスか。だから――シオンに、ワタシとパーティを組んでほしいんデス」


 その申し出は、予想だにしていなかったことだった。

 セブンズでは、プレイヤー同士がパーティを組んで一緒に冒険したり、一緒に依頼を受けたり、一緒に暮らすこともできる。ゲーム内ではパーティを組める人数は最大で十人まで可能らしいが、まさかそんなことを言われてしまうなんて。

 

 パーティを組むこと自体は、別に嫌じゃない。

 人数が少ないよりは、多いほうが戦力も増してできることも増えそうだし。

 だけど、二つ返事で了承はさすがにできなかった。


「で、でも、その友達はどうするの……?」


「もちろん、このまま喧嘩別れしておくつもりなんてないデス。シオンと組んだあとで、あの子とも仲直りして三人パーティを結成したいんデスよ」


「ちょっと! あたしはどうするのよ!?」


 そこで、ヴェロニカが我慢できないといった様相で口を挟む。

 そうだ。イベリスがパーティに誘ったのは、あくまで僕だけ。

 なぜか、ヴェロニカには言っていない。


「ヴェロニカは……ごめんなさいデス。ワタシが欲しいのは、シオンだけなので」


「ええっ!? あたしのことは誘わないの!?」


 何だか泣きそうな顔で、抗議していた。

 完全に仲間外れじゃないか。さすがに可哀想になってくる。

 

「もちろん女の子は大好きなので、ヴェロニカも誘いたいんデスよ? でも、デスね。あんまり自分のパーティ内に女の子がいっぱいいると……理性が、耐え切れない気がするのデス。二人くらいが限界かな、と」


「何その理由! 理性なんて、死ぬ気で頑張ればいいじゃない!」


「やははー、そんなの無茶デスよぉ。ワタシの変態っぷりを、甘く見ないほうがいいデスよ? 一度理性が壊れたら、もう野獣みたいになりマスから」


「そんな偉そうに言うことじゃないでしょ……」


 イベリスの変態発言に、ヴェロニカはもはや呆れ返ってしまっている。

 というか、それは僕もちょっと怖いんだけども。

 

「そんなにシオンと一緒にいたいんデスか?」


「えっ、いや、だってあたしが一人になっちゃうじゃない! そんなの心細いわよ!」


 何ともまあ、正直な理由だった。気持ちは分かる。

 突然ゲーム世界に来たという状況で、一人だとそりゃあ不安になるかもしれない。


「しょうがないデスねー。だったら、ヴェロニカにもチャンスを与えてあげマス。三日後、ワタシと勝負をしてくだサイ! それで勝ったほうが、シオンとパーティを組めマス!」


「勝負……」


「そうデス。自信、ないデスか?」


「くっ……そ、そんなことないわよ! いいわ、受けて立つ!」


 あろうことかヴェロニカはすぐさま承諾してしまい、イベリスが快活に笑う。

 

「やはは、そう来なくちゃ、デス。じゃあ、また三日後デスよ、シオン、ヴェロニカ」


 そう言って、手を振りながらイベリスは去っていった。

 あの……言う暇すらなかったんだけど、ちょっといいですか。


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