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変わったものと変わらないもの

 人生初の女湯入浴を終え、僕たちは部屋に戻ってきた。

 一階にはレストランみたいな店もあるみたいなので、後で行ってみよう。


「さっきの子、何だったのかしらね」


「そうだね……でもまあ、関係ない僕たちが首を突っ込む必要もないんじゃないかな」


 確かに気にはなるが、喧嘩なんて誰でもするものだろう。本人たちの問題は、本人たちで解決すればいい。

 何とか仲直りできればいいんだけど、とは思うけど。


 でも、せっかく二人で仲良く宿に泊まっていたんだろうに、ちょっと悲しいな。

 何で、旅行中のときとかに限って喧嘩とかしちゃうものなのかね。


「そういえばシオン、明日はどうするの?」


 どうするの、とは、どこをどうやって探すのか、という意味だろう。

 緋衣を探すことにしたのはいいものの、手がかりとなる情報が何一つない以上、どうやって探せばいいいのかにも迷ってしまう。


「とりあえず、まずはこの街を見て回りたいかな。王都っていうだけあって、店も施設も色々あるみたいだし」


「それもそうね……もしかしたら、他のプレイヤーにも会えるかもしれないわ」


 全プレイヤーがミントスペアの各地に飛ばされたのだと仮定した場合、最初に王都アンブレットに向かうのは僕たちだけではないと思う。きっと、ほとんどの人が似たようなことを考え、ここに集ってくるのではなかろうか。

 まあ、当然それはあくまで予想だし、本当にアンブレットに来ているのかどうかも分からない上、もし来ていたとしても会えるかどうかは定かじゃないが。


 でも、やっぱりアンブレット内を探し回るしかないのも事実。

 今の僕たちには、他に大して手がかりなどないのだから。


「でもあんた、みんなゲームキャラの姿になってると思うんだけど、その妹さんがどんな姿になってるのかは分かるの?」


「隣で一緒にやってたから、さすがに分かるよ。逆に、妹も僕の姿を知ってるから大丈夫だと思う」


「あ、そうなのね。それなら安心だわ」


 キャラメイクができるゲームでは、自分のキャラをどういう容姿にするのかなんて完全に人それぞれだが。

 僕の場合は、自分が好みな可愛らしい女の子にしており。

 緋衣の場合は、リアルの自分と然程さほど大差ない容姿にしているのだ。


「じゃ、明日の予定を決めたところで、ご飯食べに行くわよ。もうお腹空いちゃった」


「この世界の料理って、どんなのかなぁ……さすがにゲテモノとかだったら困る」


「は、はは……さすがにないわよ、きっと、たぶん……」


 どことなく言い知れない不安を覚えながら、僕たちは部屋を出る。

 一階に下り、ロビーの奥にあるレストランへと向かう。


 話し合ったり先に風呂を済ましたため、時間が少し遅くなってしまったからか、レストラン内の客は少なかった。

 店員の女性に二名であることを伝え、席に案内される。


 何というか、あまり異世界っぽさがない。

 ここだけなら、普通に日本で外食しているときと全く変わらないじゃないか。

 そして、そんな僕の感想は、メニューを見て更に強まった。


 全部ではない。

 が、七割ほど知っている料理名と写真ばかりだったのだ。


 まあ異世界と言っても、ゲーム世界を忠実に再現しているみたいだからな。

 おそらく、普通にゲームをプレイしていても、同じ料理がゲーム内に登場したのだろう。

 きっと制作者は、プレイヤーの方々に分かりやすいよう、そしてスタッフ自身作りやすいよう実在する料理などを使用しているのかもしれない。


「名前まで完全に一緒なのね……」


「異世界感が薄まる気もするけど、正直分かりやすくていいかも。味とか何も知らない料理を頼むのは、ちょっと勇気がいるもんなぁ」


「確かにそうね。あたしは、このうどんにするわ」


「じゃあ僕は……ステーキ定食でいいかな」


「それ大丈夫? 写真を見た感じだと、量多そうだけど」


「大丈夫だよ。やっぱり男は肉でしょー」


「い、いや、今は男じゃないでしょ、あんた……」


 お互い何にするか決めたところで店員を呼び、順番に注文する。

 特に他愛ない雑談をしながら待つこと、およそ数分。

 すぐにヴェロニカが注文したうどんが届き、更にその十分ほど後に僕が注文したステーキ定食もやって来た。


 確かに、めちゃくちゃ量が多い。

 かなり分厚く大きい肉が鎮座し、白米と味噌汁とサラダが横に控えている。

 美味そうだ。

 僕はナイフとフォークを両手に持ち、ステーキを切って口に運ぶ。


 とても柔らかく、噛む度にジューシーな肉汁が口の中で溢れ出す。

 ヴェロニカのうどんと比べて、二倍近い値段だったのも納得の美味さである。

 今日は何も食べていなかったことを思い出し、僕は意気揚々と食べ進めていった――。



     §



「うぷ……は、腹が……っ」


 やがて、夕食を終えて僕たちは部屋に戻ってきた。

 思った通り、あのステーキ定食はかなり美味しかった。

 のは、いいのだが。


 如何いかんせん、量が多すぎた。

 いや、いつもの僕ならあれくらいは食べられたはずなのだ。

 この、女の子の姿でさえなければ。


「ま、まさか、こんなに胃袋が小さくなっているなんて……おぇっ」


「ちょっと、ここで吐かないでよっ!? だから大丈夫かって聞いたのに」


 僕の背中を優しく擦りながらも、僕の行動に対しての異を唱えてくる。

 迂闊だった……。これくらい大丈夫だろうって思っていた僕が愚かだったみたいです。

 やっぱり、かもしれない運転は偉大だったということか。


「ぼ、僕は、大丈夫だと思ったんだよぉ……。いつもなら、あれくらい……うぷっ」


「そんな青ざめた顔で言われても……。やっぱりあんたも、抜けてるとこあんのね」


「う、うるさ……うっ、も、無理、吐きそ」


「ちょっ!? 吐くならトイレ行きなさいよ! ほら早く!」


 僕は腹と口を押さえながらトイレへと駆け込み――。

 たどり着いた瞬間、便器の中に向かって吐瀉物をぶちまけた。

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