生命の息吹
「シオン!」
僕たちが塔から出てきたことに気づくや否や、イベリスたちが駆け寄ってくる。
そんなに長時間が経ったわけではないのに、何故か少し久しぶりのように感じた。
「ヒゴロモ、だいじょぶ?」
「えへへ、兄もいたから大丈夫だよー」
アマリリスの問いに、ヒゴロモは少しはにかみながらも頷いた。
正直、僕は大したことしていない気もするが……。むしろ、僕がヒゴロモに助けられたくらいだし。
何はともあれ、みんな無事に出てこられてよかった。
再会を喜びつつ、中で起きた出来事を話し合う。
話を聞く限りだと、イベリスやガーベラ、ヴェロニカやカルミアのところでは特に何もなかったらしい。
つまり戦闘が起きたのは、僕とヒゴロモ、そしてネリネとアマリリスの四人だけだったわけだ。
ネリネとアマリリスの二人は、塔の内部でローレルと戦い、その結果殺してしまったことを口にした。
ネリネは変わらず無表情だったが、アマリリスはどことなく悲しそうな表情で。
ローレルを救えなかったのは残念ではあるものの、ネリネを守るために仕方なくやったことだと言う。
だから、感謝こそすれアマリリスを責めるのは違うだろう。
「そっか、ローレルが……。ありがとう、ネリネを助けてくれて」
僕は、アマリリスに感謝の言葉をかけた。
その場には二人しかおらず、もしアマリリスが咄嗟に攻撃をしていなければ、今頃ネリネはここに戻ってきていなかったかもしれない。
そう考えると、やっぱり責める気にはなれなかった。
「い、いやぁ、にししし。ネリネちゃんは、マジあたしがいないとダメみたいだし」
「……あれは油断しただけ」
「油断は禁物なのだよー、ネリネちゃん。やっぱあたしがいてよかったっしょ?」
「……」
無表情ではあっても、心なしか苛立たしそうに見える。
な、何というか、一緒に塔の中に入ったことで少しだけ仲がよくなれたようで安心した。
最初は、この二人は絶対に気が合わないだろうと思ってたし。
そして今度は、僕たちがダチュラと遭遇したことを話した。
奴の職業は幻術師で、高度な幻術を扱うこと。
何故か、僕とヒゴロモがボスのお気に入りだと言っていたこと。
ローレルの死に気づき、追悼をするために立ち去ったこと、などを。
「そのボスの気持ちが分かりマス! ワタシもシオンはお気に入りデスからっ!」
「あんたと一緒にするんじゃないわよ」
イベリスが叫び、間髪入れずヴェロニカが突っ込んだ。
さすがに、ボスとやらまでイベリスと同じような人だと思えないし、思いたくないな。
「……シオン。同情するのは勝手だが、奴らがしていることを忘れるな。悪人ではないかもしれないが、善人でもないのだ。我らをこんな世界に連れて来ている上に、貴様の大切な者の命まで脅かそうとしている存在だろう。惑わされるな。躊躇うな。貴様が真に護るべきものは何だ」
「ガーベラ……」
「貴様はあまりにも甘い! 敵のことまで考えてばかりいると、自らの身と仲間の身を滅ぼすことになるぞ……っ!」
確かに、その通りだった。
〈キーワ〉は、現実世界で辛い過去を過ごしてきた者たちを集めていることを聞いた。
だから、僕たちが元の世界に戻る方法を探すためだけでなく、そんな彼らのことも救えるように、という目的を掲げて旅をし、〈キーワ〉や〈十花〉の面々を探し続けてきた。
あいつらにも様々な事情があって、どうしようもなく歪んでしまったのは分かる。
でも、だからといって、僕たちの仲間を傷つけられるのは耐えられない。
いざというときは、自分の躊躇が仲間を傷つける原因にもなり得るだろう。
それを、今から忠告されてしまったのだ。他でもない、あのガーベラに。
「……はは」
「何で笑ってんだよぉっ! 今いいこと言ったつもりなんだけど!?」
「分かってるよ。まさか、あのガーベラにそんなかっこいいこと言われるなんて思わなくて」
「こいつ、すごい失礼! 我はいつでもかっこいいわっ!」
いつでもかっこいいかどうかは置いておくとして。
船の中で、僕の過去を知ったガーベラからも、あんなことを言われてしまったし。
本当に、何度も励まし、支えてくれる仲間たちだ。
不運だらけの人生だったけど、こんな仲間に恵まれたことだけは――胸を張って幸運だって言える。
「……冗談だよ。ありがとう、ガーベラ」
「むぅ……分かればよい。海王神たる我には、もっと忠誠を尽すことだっ!」
「はいはい」
「めんどくさそうに流すなぁっ!」
何て言うんだろう。
何だか、ガーベラってからかい甲斐があるっていうか、僕も少しからかいたくなってしまうのだが。
ほんのちょっとだけ、ランの気持ちが分かる気がする。ちょっとだけ、だけど。
「ねぇ、兄」
不意に、背後から声をかけられた。
後ろを振り向くと、ヒゴロモ、カルミア、アマリリスの三人が肩を並べて立っていた。
「兄のパーティーってさ、フォルトゥーナって言うんだよね?」
「う、うん、そうだけど」
「そっかぁ。あたしたちのパーティーにも名前をつけようと思って、今考えたんだ」
パーティー名は、別につけなくてはいけない決まりなどないとは思うものの。
パーティー全員を呼ぶ際などに便利というのもあるし、どうせならつけたいと思う気持ちも分かる。
ヒゴロモは一拍あけ、言い放つ。
「あたしたちのパーティー名は――ブレスオブライフだよっ!」
ブレスオブライフ。
直訳すると、生命だとか活力だとかっていう意味だが。
他には、欠かせないものという意味もあるはずだ。
「さっき、ガーベラちゃんが言ってたことを聞いて思いついたんだ。あたしにとって、カルミアさんもアマリリスさんもかけがえのない仲間だしさ。誰かが欠けた時点で、それはもうこのパーティーじゃないと思うから……。ブレスオブライフ……つまり、命と同じくらい必要不可欠なものになってるってことで。どう、かな?」
これは驚いた。
ガーベラの言葉で、そこまで考えてしまうとは。
「うん、いいと思うよ。いい名前だね」
「えへへ」
僕が素直な答えを返すと、ヒゴロモは照れくさそうに微笑んだ。
はっきり言って、ネーミングセンスは負けてしまっているかもしれない。
もちろん、フォルトゥーナにしたことも後悔なんてないけど。
「それじゃあ、あたしたちはもう行くね」
「そっか……じゃあ、またね」
「うんっ! またどっかで会おうねー」
この世界は広い。
次また会える保証なんてものはどこにもないが、お互いが旅をしているなら、またどこかで会えるだろう。
そう。生きてさえいれば。
ヒゴロモは大きく手を振り、アマリリスは頻りに後ろを振り向きながら、そしてカルミアは振り向くことすらせずに立ち去っていく。
完全に見えなくなるまで、その姿を見送り続けた。
「あたしたちも行く?」
「そうだね。とりあえず、街に戻ろう」
ヴェロニカの言葉に頷き、僕たちも歩き始める。
ヒゴロモたちとは、正反対の方向へ。
新たな出会いと別れを予感しながら。




