南――真実の正体は
……話が続かない。
あたし――ヴェロニカは、シオンたちと別れて、カルミアと一緒に塔の中に入った。
二人で塔を上ってきたんだけど、口数の少ないカルミアとじゃ全く話が弾まない。
人見知りらしいし、口数が少ないのも別にいいとは思うけど。
ただ黙々と階段を上るだけというのは、二人で来ている意味がないような気もする。
まあ、罠も魔物も何もないから、仕方ないとも言えるんだけど。
ネリネも無口なほうだと思っていたが、カルミアのほうが何倍も上である。
ただ……何故だろう。
人見知りだとか無口だとか、それだけの理由じゃない気がする。
何だか、あたしのことを避けているような感じもしてしまうのだ。
「……ねえ、カルミア」
恐る恐る、その白い鎧に覆われた背中に声をかけてみる。
カルミアはほんの一瞬あたしを一瞥しただけで、すぐに前を向く。
でも、それはもう今更だ。その程度で、諦めたりはしない。
「……あたしたちってさ。どこかで会ってたり、なんてことはないわよね?」
「……?」
あたしの問いに、カルミアは怪訝そうに再度こちらを振り向いて首を傾げる。
確かに、その反応も納得だ。
あたし自身、何を訳の分からないことをって突っ込みたくなる。
それでも、訊いてみたくなったのだ。
この胸に蟠る違和感の正体を、どうしても知りたくなったから。
「前、棘山で会ったけど」
ようやくカルミアから発せられたのは、そんな短い一言。
忍耐大陸オークモスにある棘山で、あたしたちフォルトゥーナとカルミアは初めて出会った。
だから、別に間違いではない……のだが。
あたしが言いたいのは、そういうことではない。
「いや、違うの。この世界の話じゃなくて……元の、世界で」
カルミアの足が、ぴたりと止まる。
それにつられて、あたしも足を止めた。
そして、肩越しにあたしを見て、冷たいとすら感じてしまうほどの一言を発する。
「……私には、そんな記憶は一切ないよ」
それだけ告げて、カルミアは再び足を動かし始めた。
正直、そうだろうなと思う。
あたしも、別にカルミアと会っていた記憶があるわけではないし。
だからこそ、理解不能なのだ。
どうして、こんなにもカルミアが気になってしまうのか。
どうして、こんなにも他人を見ている感じがしないのか。
分からなくて、モヤモヤが止まらないのだ。
そもそも、この世界はゲームの世界。
この世界に連れて来られた人はみんな、自分で作成したキャラクターの姿になっている状態のはず。
つまり、あたしもカルミアも、元の世界とは異なる姿ということで。
たとえ会っていたとしても、そんなもの分かれというほうが無理な話だろう。
疑問が増すばかりで一層モヤモヤする胸を押さえながら、あたしはカルミアの後ろをついて行った。
やがて、円状に広がる広い空間を越えた先にある階段を上ると。
頭上には、暗雲が覆い尽くす雨空。
どうやら、屋上まで辿り着くことができたらしい。
真ん中には、赤くて丸いスイッチのようなものが置かれている。
他には特に何もないようだし、このスイッチを押すと何かが起きるのだろう。
それが、いいことなのか悪いことなのかは押してみないことには分からないけど。
「カルミア、どうする?」
「……」
あたしの問いに、カルミアは一瞬だけこちらを一瞥した後。
少しだけ控えめに、スイッチを押した。
すると、ゴゴゴと重々しい音がどこからか鳴り響く。
どこかで、何かしらの仕掛けが作動したのかもしれない。
カルミアは無言で階段を下り、あたしもそれに続く。
そして来た道を戻っていると、先ほどの円状に広がった広い空間で。
後ろを歩くあたしを振り向きもせず、カルミアは不意に口を開いた。
「……ヴェロニカに、少しだけ話がある」
歩みは止めない。
こちらを振り向くこともしない。
だから、あたしも足を動かしながら訊ねることにした。
「……話って?」
「さっき、言ったこと。元の世界で会ったことがあるかっていう質問に、私はそんな記憶がないって答えたけど、あれは嘘。本当は、ヴェロニカのことを知ってる」
「……え?」
そこで、突然カルミアは足を止めた。
あたしもつられて足を止め、カルミアの背中を眺める。
そして、カルミアは発した。
あたしの胸に蟠っていた、その違和感の正体を。
「……久しぶり、璃葉。私は――瑠実。この名前で、分かるでしょ?」
璃葉――冴草璃葉。
それは、元の世界でのあたしの本名だった。
更に、カルミアが今言った名前――瑠実。
フルネームは、冴草瑠実。
あたしの、実の姉の名前だった。
「な、何で……? 姉さんは、こんなゲームをするような人じゃなかったじゃない。それどころか、嫌いですらあったのに……。それに、何であたしのことが分かって……」
「自分の妹が、どんなキャラクターを作成していたのかは見たから知っていた。だから、初めて会ったときから璃葉だってことは分かってた」
「見た……って、あたしのパソコンを!?」
「……そう。璃葉がテストプレイの抽選に申し込んでいるのは知ってたから、私もそれに申し込んだ。まさか本当に二人とも当選されるとは思わなかったけど」
「な、何で……」
意味が分からない。
目の前の女性が未だに実姉だなんて信じられないし、その言葉ひとつひとつが姉さんらしくなくて、これも嘘なんじゃないかと思ってしまう。
だけど、あたしの本名と姉さんの本名を告げている時点で、きっと間違いではないのだろう。
だからこそ、余計に意味が分からないのだ。
アニメもゲームも興味なくて、あたしとは趣味も気も合わず、いつも喧嘩が絶えないほどに仲が良くない。
それが、あたしと姉さんだったのだから。
「ねえ、教えてよ。カルミア――いや、姉さん」
カルミアは答えない。
ただ無言で、あたしに背を向けて佇むだけ。
「……ごめん」
聞き逃してしまいそうなほど小さな声で、そう呟き。
カルミアは、再び足を動かし始める。
あたしは、その場に立ち尽くしたまま暫く後を追うことができなかった。
いきなり知らされた事実が、あまりにも突拍子もなくて。
ずっと仲良くしたいと思っていた姉さんが、お互い異なる姿で、こんなにも近くにいる。
したいと思っていたことは山ほどあるはずなのに。
遠くなっていく背中を見つめたまま、何もできなかった。




