痛みの楽園
あれから、色々なことを話し合った。
とりあえず僕の妹、緋衣を探すことにはしたものの、手がかりは何もないし。
それに、他にも話しておくべき事柄があったのだ。
まず、おそらくだが緋衣は――否、他のプレイヤーたちはみんな同じ大陸にいるのではないか、ということ。
僕とヴェロニカがいるのはここミントスペアだし、ゲーム内で最も初めに登場する大陸でもある。
タイムさんが助けに来てくれたことなどを鑑みて、ゲームを忠実に再現するのであれば全員ミントスペアの至るところに飛ばされた可能性が高いように思える。
もちろん間違っているかもしれないし、合っていたとしてもミントスペアという大陸は途轍もなく広いから実際に会うというのはとても難しい。
ずっとその場に留まっているわけがないため、どこか遠くに移動しているという可能性だって一応あるわけだし。
とはいえ、もし本当にミントスペアにいるのだとしたら、まず大きな街に向かうのは当然な気もする。
緋衣は察しが悪くはない上に、僕と同じくらいゲーム好きでこのゲームのテストプレイもやっていたのだ。きっと、すぐにゲームと同じ世界に来ているのだと気づくはず。
だから、王都アンブレット内をひたすら歩き回ってでも探しまくるしかない。
この街のどこかにいる可能性が、少しでもあるのなら。
などということを話し合っているうちに、気づけば窓の外は暗くなってしまっていた。
もう夜か。
僕は両腕を上げて伸びをしながら、大きなあくびを漏らす。
今日は色々あったから、もう疲れてしまった。
「ふぅ……ちょっと疲れちゃったわ」
それはヴェロニカも同じだったようで、片腕を自身の肩に乗せて首を左右に振る。
僕もヴェロニカも、このまま布団に入ればすぐに眠ってしまいそうだ。
しかし、直後に発せられたのは。
「あ、そうだ。風呂に入りましょうよ。確か、一階に浴場があるんだったわよね」
「……え? ふ、風呂?」
「今日は色々あって疲れたし汗もかいたんだから、入らないとだめよ」
確かに言っていることは一理ある。僕もそれには同感だ。
でも、よく考えてみてほしい。
今のぼくの性別は……どっちだ?
「ぼ、僕も?」
「当たり前じゃない。ほら、行くわよ」
「えっ、あ、ちょっ――」
反論する暇も拒む余裕もなく、腕を引かれて浴場まで連れられてしまう。
さすがは幼女キャラ。思っていた以上に、普段の力が弱まっていてビックリである。
男湯と女湯の暖簾が左右に垂れ下がっている。
無言でそっと男湯の暖簾を潜ろうとすると、後ろから腕を捕まれてしまった。
「ちょっと、その姿で男湯に入ったほうが問題あるわよっ」
「で、でも、ヴェロニカは……その、嫌じゃないの? ほら、こう見ても僕、男だし……」
「う……そりゃ恥ずかしいのは恥ずかしいわよ? ただ、今はあたしの体じゃないし、シオンだって今は女の子なんだし、だから、まあ、いいか、みたいな」
「適当かっ!?」
だけど、今の僕の体を男に見られるのも、何だかちょっと恥ずかしい。
女湯に入る恥ずかしさと、男湯に入った結果男たちに見られる恥ずかしさ。
その二つを天秤にかけ、結局僕が選んだのは――。
「…………ぶくぶくぶく」
全裸となった僕は、湯船に口元まで浸かって湯をぶくぶくしていた。
周りに広がっているのは、若者から熟女まで揃った女体だらけの光景。
当然、誰もが全裸である。
世の男子がみな羨む楽園だろう。僕も元々男だったから、痛いくらいに分かる。
でも、今の僕には恥ずかしさと罪悪感で痛いだけでしかなかった。
巨乳の人って、本当にあんなに大きいんだなぁ……うわ、本当に揺れてるよ、すごい。
僕の胸は真っ平だけど、巨乳にしなくて正解だったかもしれない。
あんな双丘が自分の胸についていたら、いくら自分の体であっても理性が抑えられなくなるじゃないか。
「……大丈夫?」
ふと声をかけられたので見上げると、同じく全裸のヴェロニカが湯船の外で立っていた。
服の上からでも、多少は分かっていた。
けど、こうして裸になってみると、つくづくヴェロニカも巨乳族の一人なんだな、と。
端的に、一言で言うと、大きいです。
「だ、だだ、だいじょびゅっ」
「思いっきり噛んでるじゃない……」
くそう。少しばかり童貞を拗らせすぎてしまったようだ。
自分の顔なんて見えないけど、きっと今は真っ赤に染まっているんだろうな。
入浴中だからとか、そういう理由ではなく。
と、ヴェロニカは湯船に浸かり、僕の隣に腰を下ろす。
できるだけヴェロニカの体を見ないように、目を逸らし――。
「……ん?」
不意に、とあるものが視界に入ってきた。
何やら対面に向かい合って立ち、激昂している様子の二人だ。風呂場だから当然だが、全裸である。
どういった理由なのか、一体あの二人に何があったのか。
赤の他人で偶然居合わせただけの僕には、何も分からない。
そもそも、ここからだとあまり聞き取れない。
だけど何だか無性に気になってしまい、僕は目を逸らすことすらできずに注視してしまっていた。
すると、やがて。
「もういいっ! あんたなんか、飢え死にしちゃえばいいじゃんっ!!」
などと怒鳴り散らし、片方の女子が風呂場から出て行ってしまった。
残された一人は、泣きそうな顔で俯き、その場にしゃがみ込む。
僕だけじゃない。
周りの人々も、声をかけるどころか顔を背けたりして居心地悪そうにしているだけ。
でも、きっとそれが普通なのだろう。
あくまで僕たちは、他人だ。
ただ同じ時間、同じ空間に偶然いただけの、無関係のモブなのだから。
彼女たちにとっては。
「……出よっか」
「……ん」
ヴェロニカの言葉に、僕は短く頷く。
僕たちが出るまで、いや出た後も暫く、その女の子はずっとしゃがみ込んだまま俯いていた。




