不運は幸運に
「……え?」
ほぼ無意識に、そんな素っ頓狂な声が漏れた。
アマリリスの口から飛び出してきた言葉が、あまりにも予想外だったせいで。
――あたしらも、それに混ぜてよ。
それはつまり、ヒゴロモたち三人も僕たちについて行きたいということだ。
今から〈十花〉のところへ向かおうとしている、僕たちに。
「ど、どういうこと……?」
「戦力は多いに越したことはないっしょ?」
僕の問いに、アマリリスはニッと歯を覗かせて答えた。
確かに、〈十花〉の人たちはかなり強い。それは、まだ会ったことのないダチュラとやらも、他のメンバーも、きっと同じなはず。
だから、ヒゴロモたち三人を加えた八人で行けば、戦力という意味では充分すぎるほどになるとは思うが。
「お願い、兄。あたしたちも連れて行って。足でまといにはならないから」
「ヒゴロモ……」
僕個人の意見としては、ヒゴロモをあまり危険な目に遭わせたくはない。
だけど、きっとヒゴロモたちだって僕たちを心配しての行動なのだろう。
それを拒んで突き放すのも、少し気が引けた。
「どうするの、シオン?」
後ろからヴェロニカに問われ。
僕は深い溜め息を漏らし、渋々頷く。
「はぁ……分かったよ。じゃあ、よろしく」
すると、ヒゴロモは嬉しそうに顔を綻ばせた。
§
「お、男っ!?」
町から出て、地図を頼りに雨の中を歩く途中。
僕は意を決し、みんなに男であったことを明かした。
とはいえまだ知らなかったのはイベリスとネリネの二人だけだが、案の定イベリスは驚愕のあまり声と体を震わせる。
ネリネは相変わらず無表情ではあったものの、僕の頭から足先まで舐るように見てくる。
「み、みんなは知ってたんデスか!?」
「我は先ほど知ったばかりだがな」
イベリスは女の子が好きなのだ。
僕が男だということを知れば、一体どうするのか。
少なくとも、イベリスが好きな女の子ではなかったのだから、今までのような過剰なスキンシップはなくなるかもしれない。
と、思っていたのだが。
「そ、そ……それはそれで、可愛いので問題ないっていうか全然アリデス!」
「いいのっ!?」
何やら興奮した様子で、僕に抱きついてくるイベリス。
イベリスの守備範囲がもう分からない。容姿が女の子であれば、何でもいいのか。
「心配しなくても大丈夫デスよー。いくら中身が男でも、ワタシが可愛い可愛いシオンのことを好きな気持ちは変わらないデス。そんなに隠し事しないで、もっとオープンにしちゃっていいんデスよー。心も体も丸裸にっ! すっぽんぽんにっ!」
「……シオンシオン、そんな露骨に嫌そうな顔するのやめなさい」
おっと、いけない。無意識に、嫌そうな顔をしてしまっていたらしい。
イベリスにとって、たとえ中身が男でも外見が女の子なら別にいいのか。
というか、ただでさえ雨で濡れて少し気持ち悪いのに、その上抱きつかないでいただきたい。
「やはぁ……シオンになら犯されてもいいデス。いや、むしろ犯されたいデス。媚薬とか盛ってみたいデスぅ」
「恍惚としながら、不穏なことを囁くのやめて」
今は僕に抱きついているせいで、耳元でイベリスの変態発言を聞くことになってしまい、怖さも倍増である。
しかも微妙に小声で囁いてきているし、それが余計に不気味っていうか変態度も増し増しで、本当にするんじゃないかと不安になってしまう。
と、未だにネリネが僕をじっと凝視していたことに気づき、謝罪の言葉をかける。
「ごめんね、ネリネも。今まで、ずっと騙してたみたいになって」
「……別に。性別なんてどうでもいいから」
そこで、ようやくネリネは顔を逸らす。
もっと責められたり咎められたりしてもおかしくはないと思っていただけに、みんなの反応が少しだけ拍子抜けかもしれない。
こんなにもあっさりと受け入れてもらえるのなら、もっと早く話すべきだったな。
性別の件も、過去の痛みも。
つくづく、僕は本当にいい仲間を持ったと思う。
昔の自分に教えてあげたいくらいだ。
「にししし、仲がいいなぁ。あたしらも抱き合う?」
「抱き合ったりはしないけど、ちょっと羨ましいかも」
「えへへ、兄も仲間に恵まれてるみたいで安心したよ」
ヒゴロモたち三人は、僕たちを少し離れたところから眺めながら微笑んでいる。
途端に、何だか少し恥ずかしくなってしまった。
が、イベリスは一向に僕から離れようとしてくれない。
「あ、あの、そろそろ離れてくれないかな」
「嫌デス!」
「子供かっ!? 嫌じゃないよっ!」
更に強くしがみつこうとしてくるイベリスを、力の限り引き剥がす。
今は女の子の姿になっているせいかあんまり力出せないし、このあと〈十花〉のところに行くのだから、あんまり疲れさせないでほしいんだけども。
相変わらず、緊張感が全くない。
何はともあれ、いつまでもこうしているわけにはいかない。
ただでさえ四方の霊塔まで結構な距離があるようだし、このままだとあっという間に日が暮れてしまう。
僕たちは気を取り直し、歩を進める。
目指すは、四方の霊塔。
どんな戦いが待ち受けているのかは分からないが、何だか不思議と不安な気持ちは一切なくなっていた。




