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飲んで飲まれて

 翌朝。

 目を覚ました直後はいつも通り頭が上手く働いてくれなかったが、数分ほどで何とか意識がはっきりした。


 他の三人はまだ部屋に残っていたが、先に僕とガーベラが買い物に出かけることに。

 ガーベラとは出会ってから間もないというのもあるけど、二人でどこかに行くのは初めてだ。

 何だか、少し緊張してきたかもしれない。


「くはははははっ! それでは向かうとしようか! 貴様の脆く弱い脚で、我に追いつくことなど不可能だろうがな……!」


「はいはい、分かったから」


「ちょっ、めんどくさそうに流すなよぉっ!」


 部屋の扉を開けながら適当に流すと、ガーベラは涙目になって抗議してきた。

 我ながら、雑な扱いをしてしまった。もっと、ちゃんと突っ込んであげたほうがいいみたいだ。


 ふと、部屋から出た途端、笑い声やらの騒がしい声が聞こえてきた。

 どうやら下の階、食堂で誰かが騒いでいるらしい。

 訝しみつつ下階へ下りていくと、三人の女の子が一つのテーブルを囲んでいるのが見えた。


「も、もーっ、二人とも飲みすぎだってばー」


「らぁいじょうぶ、らいじょうぶらからぁ……えへへへ」


「にししし、まさかこんなにお酒に弱いとは思わなかったなぁ」


 困惑している幼い女の子と、酔っ払っているのか呂律の回っていない女性、そして酒らしき飲み物を片手に楽しそうに笑う女。

 一人は初めて見た人だが、他の二人は僕が知っている人物だった。


 ツインテールの女の子と、白い鎧を纏った女の人は。

 どこからどう見ても、ヒゴロモとカルミアだったのである。


 だけど、僕が前会ったときのカルミアには、とても無口で無愛想な印象を抱いた。ヒゴロモは、ただ人見知りなだけだと言っていたけど。

 でも、今のカルミアは顔を赤く染め、へらへらと笑っている。


 しかも、あのときと比べて物凄く楽しそうに喋っているような気がする。

 まあ、初対面だった僕たちがいないから素の自分を出せているだけかもしれないが。人見知りって、そういうものだろうし。


「あっ、にぃだ! おーい!」


 不意にヒゴロモがこちらに気づき、大きく手を振る。

 気づかれてしまった以上、さすがに無視するわけにもいかない。

 僕は、ヒゴロモたち三人の席へと歩を進めた。


「兄たちも来てたんだねー。えへへ、よく会うねー」


 そう言って、ヒゴロモは笑う。

 確かに、お互いずっと同じ大陸内にいるわけではなく別の大陸へ移動しているのに、よくもまあこんなに遭遇できるものだ。

 さすがは兄妹と言うべきか。


「んー? もしかして、この子がヒゴロモのお兄さん?」


「うんっ、そうだよー」


 隣で派手な髪をした女の子から問われ、ヒゴロモは笑いながら頷く。

 この子は、ヒゴロモの新しい仲間なのだろうか。


 黄色の髪はポニーテールにしているのだが、毛先だけがピンク色に染まっている。

 更に指の爪にはネイルをし、まつ毛は長く、頬を朱に染めるなどの化粧をしている。

 何だか、ギャルみたいな容姿だった。


「お兄さんって……」


「ごめんね、にぃ。色々と話しちゃってさ」


 一体、僕のどんな話をしたのかは分からないが、どうやら外見の性別ではなく中身は男だということを言ってしまったらしい。

 別に、隠していたわけでもなければ、何かまずいことがあるわけでも特にないけど。

 今までヴェロニカとヒゴロモしか知らなかったのが、ついに他の人にも知られてしまったということか。


「にししし、これで男の子なんだね。お肌もすべすべぷにぷにだし、可愛いのに」


 派手な髪をした女の子は、僕の頬を撫でたり突っついたり摘んだり。

 確かに今の僕の肌は女の子らしい手触りになっているとは思うものの、こんなに気持ちよさそうに触られるのも複雑な気分だ。


「それで、ヒゴロモ。この子は?」


「あたしの新しい仲間、アマリリスさんだよ」


 頬を触られながら問うと、ヒゴロモがそう説明してくる。

 そして、僕の頬で遊ぶことをやめることなく、アマリリスと呼ばれた女の子が自己紹介を始める。


「あたしはアマリリス。職業クラスは光奏師だよ。一応、君たちよりは年上かな」


 容姿的には僕たちと大差ないように見えるが、年上だったのか。そう言うってことは、ヒゴロモから僕たちの年齢を聞いていたのかな。

 まあ、ゲームのキャラメイクで作った容姿になっているだけだから、中身は僕たちよりどれだけ年上でもおかしくはないのかもしれない。

 ヒゴロモの仲間になっている以上、ノンプレイヤーキャラではなく、僕たちと同じようにこの世界に連れられた人だと思うから。


 ちなみに光奏師というのは、確か光を操る職業クラスだったはず。

 光で辺りを照らしたり、光の力で攻撃したりと、どちらかと言えば魔法系の職業クラスだろう。


「えへへぇ……また会ったねぇ」


 と、にへらとだらしなく笑いながら言ってくる、白い鎧を着込んだ女性――カルミア。

 この前、棘山で会ったときは、かなり無口で僕たちとあまり会話を交わすことすらなかったくらいなのだが……今は別人だとしか思えないほどよく笑い、楽しそうに飲み物を口に運んでいる。

 困惑する僕とガーベラに気づいたのか、ヒゴロモとアマリリスが順に説明を始める。


「えっと……たぶん今は酔っ払ってるだけだと思うよ」


「にししし、試しにちょっとだけお酒を飲ませてみただけなんだけど、まさかここまで弱いとは。面白いなぁ、カルミア」


「もうっ、カルミアさんで遊んじゃだめだよー」


 少しだけ得心がいった。

 今よく喋るようになっているのは、お酒のせいで口数が増えているからなのか。

 当然僕は酒なんて飲んだことないけど、カルミアのこれはお酒に弱いとかいうレベルじゃない気がする。

 だって、もはや別人だし。


「らぁいじょうぶ、らいじょうぶらよぉ……えへへ、えへへ」


 笑いながら呂律の回っていない口で大丈夫と繰り返すカルミア。

 正直に言って、不気味でちょっと怖い。


「ちょっとだけって、どれくらい飲ませたの?」


「うーんとね、ほんの一口」


「え、一口だけ?」


「んー。ま、酒を飲んだことがなかったみたいだし、試しにって思っただけだからね。いやー、でもまさかここまでとはね。にししし」


 アマリリスの答えに、僕は思わず驚いてしまう。

 何杯も飲んだ場合は、一体どうなってしまうのか。

 それなら、もうカルミアに酒を飲まさないほうがいいかもしれないな。


「そうだ。シオンちゃんも、ちょっと飲んでみない? 美味しいよー、楽しいよー」


「い、いや、僕は遠慮しとくよ」


 また一口お酒を飲みながらアマリリスが言ってくるが、僕は両手のひらを左右に振って拒む。

 確かに飲んでみたら美味しいのかもしれないが、ほんの少し抵抗があるのだ。

 あいつの――父親の、あれがあるから。


「そっかー。だったら、後ろの海賊っ子はどう?」


「わ、我か!?」


 唐突に話しかけられ、ガーベラは驚いたように声を上ずらせる。

 というか、海賊っ子って何だ。

 ガーベラはまだ名乗ってすらおらず、アマリリスは名前を知らないだろうから仕方ないか。


「ほらほら、ちょっとだけでも飲んでみー? 美味しいよー?」


「ほ、ほう。我と盃を交わすというのか……? 貴様に、その覚悟があるのか?」


「……?」


 ガーベラの相変わらずな厨二病発言に、アマリリスはキョトンとして首を傾げる。

 まあ、これが一般的な普通の反応だとは思うけど。

 当のガーベラは気まずそうに若干頬を染めて目を逸らし、アマリリスから酒を受け取った。

 そして、おずおずと口に運んでいく。


「……あ、美味しい」


 やがて、無意識に言葉が漏れたのか、厨二病演技も忘れてそう呟いた。

 途端、アマリリスは嬉しそうに顔を綻ばせる。


「だしょ? 分かってるじゃん、海賊っ子ぉー。ささ、一緒に飲も飲も」


「くははははっ! 面白い。貴様がどこまで我について来れるか試してやろうではないかっ!」


 二人はお互いに笑い、一緒にお酒を飲む。

 これは意外だった。まさか、そんなにお酒がガーベラの口に合うとは。


「……ごめんね、兄」


 ヒゴロモが小声で謝罪し。

 僕たち兄妹は苦笑しながら、楽しそうに酒を飲み交わす三人を見守るのだった。

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