ルーとフェル
大分前の作品です。
ルーとフェル
ルーチェ=フラーメンとフェルゼン=ラファル
空に浮かぶ島々の合間から、晴れ渡る空が覗ける昼下がり。
ルーチェは遊撃科に配属され、始めての仕事に来ていた。
「フェルは元気にしてるかなぁ」
と一見仕事に関係ないようなことを呟きながら歩みを進める。その仕事というのは部下を選定し、自分の遊撃部隊を編成すること。部下は騎士である必要はなく、一般人であっても部隊に加えることができるが、階級は与えられず、騎士の任用試験に合格しなければ国からの保護もない。よって大抵は新兵から選抜する者が多い。しかしルーチェはあるギルドへ向かっていた。そのギルドの名は「アングライト」。ルーチェの故郷にあり、彼女の幼馴染が所属しているギルドである。ギルドには沢山の冒険者が集まる。そしてギルドの信用を得て、新しい職に就こうと思う者も多いのだ。そこに目をつけたルーチェは、幼馴染であるフェルゼンに、人材の斡旋を頼みに行くのであった。
風の民たちが行き交う空を見上げながら、石畳の道を進んで行くと木造建築の建物が見えてきた。
三階建ての大きな建物だ。実のところ木造は外見だけで、中身はもっと丈夫な何か、で出来ているらしい。内開きの扉を開けて中へ入ると酒臭さと喧騒があった。
「フェルいる〜?」
ルーチェがカウンターまで行き、受付のおばさんに尋ねると
「お、ルーちゃんじゃないか。フェルは今下層で狩りに行ってるよ。夕方には帰るかな?」
と夕方まで帰らないことを告げられた。特に急ぐ理由もなく、今夜はここで泊めてもらうつもりだったルーチェは
「そっか、じゃあちょっと待たせてもらってもいい?」
とコーヒーを注文しようとした。しかしその時、モンスターの接近を知らせる鐘が鳴る。
「ゴメンおばちゃん、さっきの無しで。」ルーチェは直様明るい表情から神妙な面持ちになり、コーヒーをキャンセルして駆け出した。
時は少し戻り、フェルことフェルゼン=ラファルは、下層に住む巨大モンスターの狩りに来ていた。ギルドには食堂があり、食材はできる限り自分達で調達するようにしている。そのための食堂の依頼を受けたフェルゼン達は大猪を狩っていた。
「フェオンバースト!」
遠距離から放たれた無数の弾丸は、風に導かれ敵を追い詰める。着弾した弾丸は炸裂し、獲物の生命を喰らう。大猪が倒れ、フェル達はその絶命を確認した。武器をしまいながら
「よし、任務完了だな。」
そう言って回収班に連絡をいれようとしたその時、更に下層で何かが暴れているような音が聞こえた。フェルは気配を消しながら下を覗く。するとランドホエールが何かを襲っていた。
「なんだあれは、人形か?」
それは金属質で体から火を吹き、風の民とよく似た動きをしていた。暫く様子を見ていたが、段々と上に登ってきているのがわかる。
「これはマズイな」
このまま登って来られては街に危険が及ぶ。そう考えたフェルゼンは回収班にモンスターの接近を知らせ、街の鐘を鳴らさせた。
ランドホエールとは、鯨が象よりも太い四肢を持ち、陸を走り回るようになった怪物である。それは通常最下層でしか目撃されないうえに、非常に凶暴なモンスターであるため、街は騒然としていた。ゲートまで来たルーチェは、
「遊撃科所属、庚のルーチェ=フラーメンです。緊急事態により出門許可を頂きたい。」
と、ゲートにある関所で所属階級氏を名乗り出門許可を得た。難なく関所を通り抜けたルーチェは、風の民の能力を使う。風がルーチェを空へ押し上げ、彼女の思う方へ彼女を運ぶ。
「食材集めなら、そこまで下には行っていないはず」
そうして、裾広がりに浮遊する下層の島々を見渡しながら、フェルゼンを探していると、先にランドホエールを発見してしまい、慌てて近くの島に着地する。ランドホエールが襲っているのは何なのだろうと思いつつ、身を隠してフェルゼン達を探す。するともう少し下層に同じく身を隠しているフェルゼンを見つけた。
「みーっけ。」
その一瞬だけルーチェは、ギルドで見せたよりも明るい笑顔を見せた。
ランドホエールに見つからないように空を駆け、フェルゼンの隣へ着地する。
「フェル、状況は?」
先ほどの明るい笑顔は、微塵も感じられない仕事モードの声だ。
「な、なんでお前がここに⁉︎」
声は殺しているが、心底驚いていたようだった。
「後で説明するわ、あの化け物を退治してからね。」
フェルゼンもルーチェの口ぶりを聞いて口調を合わせる。
「.......敵は見ての通りランドホエール。不安要素としてはランドホエールが襲っているあの人形のようなもの。あれが敵か味方かという疑問。それに加え.......」
フェルゼンは島の中央が窪んだ島を指して、少し口調を和らげながら言った。
「ほらあそこ、あの島で寝てる電気うなぎ。あれが起きると厄介だ。」
「そうね、ってもう起きたわよ」
「おいおいマジかよ、しかもあのお人形さんもこっちに来たぞ、あれはブレスをまともに食らっちまうな」
二人は顔をしかめながらその人形を見ていたが、それが空中でまともに攻撃を受け、中から出てきたものを見て2人は飛んだ。
“人間か‼︎”
ルーチェが先を飛び、フェルゼンが風で後押しをする。人形からでてきた人間は、運良く近くの浮島に転がる。ピクリともしないが落下の距離も少なく、気を失っただけで命に別状はないだろう。ルーチェはフェルゼンの風にのって、獲物を捕らえようとしているウナギの頭を双刃で刻む。運動エネルギーをのせた回転斬りは深々と傷をつくる、はずだった。そのウナギの頭は、通常種にはない透明な鱗で覆われていて、彼女の攻撃はかなり浅くなってしまった。
「な、なんなのこいつ⁉︎」
彼女は体勢を立て直し、チラリと背後を確認する。倒れた人間との距離を測り、剣を構える。
「食らいな!レインバレット‼︎」
続いて後方上空からフェルゼンが銃弾の雨を降らせる。先ほどのルーチェの攻撃と同じように、頭や背中に当たった銃弾は弾かれた。しかし、側面へ掠った銃弾がそれを傷つけたのをルーチェは見逃さなかった。
「そこぉ!フェオンランツェ‼︎」
彼女はウナギの右側面へ回り込み、飛び込みながら鎌鼬を放った。刀が纏った風が前方に飛び、竜巻の槍となって突き刺さる。ウナギの横腹に大穴が空き、大暴れする。
「ちっ!大人しくしな‼︎」
着地したフェルゼンが拳を地に打ち付ける。すると、フェルゼンの周囲の砂や小石が宙に舞い上がり、無数の槍となった。彼が合図をした途端、それらが上空に飛び上がり空からウナギを串刺しにする。弾かれた物もあったが、それの動きを止めるには十分だった。
「次が来るよ!」
ルーチェが剣を構える先には、島に上がってきたランドホエールがいる。
「畜生!今ので随分消耗しちまったぞ」
フェルゼンが息を荒くしながら銃を構えたその時、
「火焔弾!」
ランドホエールの背中を火の玉が抉る。人なら一瞬で飲み込まれる大きさだ。突然背中を焼かれたランドホエールはしばらくのたうち回った後、下層へ逃げて行った。
「大丈夫だった?いや凄いね2人の連携」
先程2人が隠れていた辺りから、ゆっくり風を纏って短髪の男の子が降りてきた。
「あ、フィート!久しぶり!元気にしてた?」
そう言いながらルーチェは、風を使ってフィートと呼ばれた男の子の着地を補助する。
「元気も何もそこの人にこき使われて、元気じゃなきゃやってられませんよ。こっちは家業の手伝いもあるってのに。」
着地したフィートは、フェルゼンを指しながら文句をたれた。するとルーチェが、フェルゼンに向かって冗談混じりで怒鳴る。
「こらフェル!フィートも大変なんだから、あんまり駆り出したらダメだよ!」
「ちょっと待ってくれ、確かによく手伝ってもらってるけど、俺らの中じゃちっとも愚痴なんか言わないぞ。」
フェルがルーチェにタジタジなのを見てフィートが笑う。
「あはは、ちっとも変わってないね二人の会話。見てるこっちが恥ずかしいよ。」
おいおい、と一先ずツッコミを入れた後にフェルゼンが続ける。
「それはともかくルーチェ。フィートも随分強くなっただろ?」
「うん、さっきの火の玉もずっと大きくなってたね。数年前は拳ぐらいしかなかったのに。」
ルーチェがフィートの頭を撫でながら.......もとい、半ば掴み回しながらフィートの髪をぐしゃぐしゃにする。
「うわぁ、やめてよルーチェ〜」
するとフェルゼンはボソッと呟く
「ルーチェに敵う奴はいないな」
「フェル〜なんか言った〜?」
矛先が自分に向き、少し焦ったフェルは話を逸らす。
「そういえば大変なことを忘れてんぞ。さっきの人間大丈夫か?」
2人がハッとし、声が合わさる。
「「忘れてた!」」
3人は急いで後方に倒れている人間の下へ急いだ。
こんにちは、フィートです。あの後、3人で倒れている人のところへ行ったよ。体の傷は酷くなかったけど、気を失っていて、いくら呼びかけても起きなかったんだ。仕方無いからルーチェさんがあの人を、僕とフェルさんで、あの人が乗っていた人形をギルドに運んだよ。フェルさんと一緒に運んだけど、それでもしんどかったな〜。数日してやっと目を覚ましたその人に、フェルさんが話しかけたみたいなんだけど、なんと記憶をなくしてたんだ。お医者さんが言うには頭を強く打ったのが原因みたい。みんなで色々聞いたんだけど、あの人形の事は何となく覚えているみたいで、おそらく自分のだって言ってたよ。そこに名前みたいなのが書いてあったから、皆はあの人のことを、それで呼んでるよ。「ブラン=スカー」ってね。
お疲れ様でした。
ありがとうございました。