2.入れ替わり体験者
雛子が目を覚ます。
隣を見ると、ベッドが空いていた
光一は退院したのだ。
あれから二日、雛子の中は依然、光一のままだった。
あの光一は何者なのだろうか、雛子はそんなことばかり考えていた。
このまま元には戻れないのだろうか。
「雛子」
雛子の父親が見舞いにやってきた。
「おっと、今は光一くんだったか」
「いや、いいですよ。お母さんはどうされたんですか?」
「実はあの後、鬱にかかってしまってね。精神科に入院してるんだ」
「そうなんですか……。結局、俺は何者なんでしょうね?」
雛子は起き上がる。
「どこへ?」
「トイレ」
雛子は部屋を出ると、トイレへ入った。
用を足し、部屋に戻る雛子。
「雛子が元気でよかった。じゃ、仕事に行ってくるからな」
父親はそう言って部屋を出て行った。
雛子はベッドに腰掛け、デイルームから借りてきた本を読む。
……。
…………。
………………。
読み終えた本を置く雛子。
看護師がやってくる。
「雛子ちゃん、お熱計りましょうね」
看護師が体温計を渡してきた。
雛子は体温計を脇の下に挟んだ。
アラームが鳴り、計測終了を知らせる。
雛子は体温計を取り出した。
「平熱ね」
「看護師さん、いつ退院できるんですか?」
「来週くらいにはって先生が言ってたわ」
「雛子さん、どこ行っちゃったんだろう?」
「戻ってきてくれるといいわね」
「でも、そしたら俺は……」
看護師は記録表に体温を記入して出て行った。
雛子は横たわった。
(雛子さんが戻ってきたら、俺は消えてしまうのだろうか……?)
気が付くと、夕方になっていた。
コツコツ、足音と共に仕事を終えた父親が入ってくる。
一緒にいるのは、諸星 渉という男だった。
諸星は入れ替わり現象の体験者で、父親が見つけ出したのだ。
諸星の話では、入れ替わりでは同じ条件下で同じことをすれば、元に戻れるはずという。
「あれを再現しろって言うのか!? 嫌だね! そんなことして、今度こそ本当に死んだらどうするんだ!」
「雛子……」
雛子は布団を被った。
「直ぐにとは言わないよ。このことは彼にも話すつもりだ」
「彼って、あの俺に?」
「ああ」
「いいよ、このままで。それに、もし俺が消えるようなことになったら……」
雛子の瞳に涙が浮かぶ。
「さて、私は帰りますね」
諸星はそう言って去って行った。