電車の中でウンがなかった話
限りなく実話に近い創作
腹が痛い。
正直、場所を選べと思う。
家を出る前にすませたはずなのに、お前はどうして顔を出す。
友達か?
友達なのか?
また来ちゃった。
そんなん女の子にやられてーよ。
少なくとも野郎友達にはやられたくねーよ。
ましてや糞野郎ならぬ、糞にされてんだから笑えねーよ。
脂汗ダラダラだよ。
何がやばいかって急行の電車が発車したばっかってとこだよ。
糞が!
座り込みてえが満員電車じゃそれもできねえ。
ケツに力を入れて気張るしかねえ。
……少しの揺れが死に直結しやがる。
おい、目の前のおっさん。
俺の腹付近にカバンがあたってんだよ。
思わず舌打ちが出ちまう。
くそ、余裕がねえ。
普段だったら満員電車なんだから仕方ねえと寛容な気持ちになれるが今は無理だ。
電車にのってから何分経った?
おい、まだ一分もたってねえのかよ。
糞が!
どうして時間ってのはこういうときに経つのが遅えんだ。
楽しい時は直ぐすぎるっつーのに。
理不尽だ。
なにが理不尽かってこの腹痛だ。
なんだよこれ。
腹痛なんて考えた神の野郎はなにを考えて腹痛なんて考えやがったんだ。
しかも朝出してんだぞ。
なのに直ぐ出そうになるってなんだ。
……屁が出そうだ。
本当にこれは屁か?
まさか実とかじゃねえよな?
やばい。出そうだ。
これ以上はガマンできねえ!
南無三!!
……よかった。
屁だった。
……よくねえ!
くせえ!
コートがあんのにこんなに臭うとかコート仕事しろ!
いや、コートはあったかくするためのだけど、防寒的に密封性も考えてだな!
やべえ周りが怪訝な顔してる!
俺も怪訝な顔をしておこう。
誰だの満員電車で屁をこいたの。
……俺だよ。すまんな。
でもそれどころじゃないんだな。
腹痛は戦いなんだよ。
許してくれよ。
戦いに犠牲はつきものだろ?
屁は必要な犠牲だったんだ。
それにしてもくせえ。
今何分?やっと二分か……。
おいい、電車とまんなよ。
運転間隔の調性?
ふざけんな。
うんこが漏れそうなんだよ!
うんこと間隔どっちが大事なんだよ。
そうだな、間隔だな。
俺のうんこは俺だけの問題だな。
漏らしたらみんなの問題だけどな。
つまりおれはみんなのへいわをまもってるんだ。
やばい、ほんかくてきにやばい。
しぬ。
あっ……。
危ない。
波が治まった。
あと少し続いてたら悟りをひらいていた。
次の駅まであと何分だ?
まだ五分あんのかよ。
いや、大丈夫だ。
波がおさまっ……。
嘘だろ?
おれの戦いはこれからも続く!