こんどこそ
好き勝手でやりたい放題。物語に主体性はなく、完全に何がなんだかわからない。
一応、中心人物の岡村晴一の本業は、中間管理職。
そろそろ、終わりにしたい。
吹く風のように、筆者の気まぐれなひと言だった。
***
前回のラストなんて関係なかった。
岡村晴一は、任務を果たしてルーク=バースと再び違う世界に帰ることになった。
「晴一。俺たち、筆者に振り回されただけだったな」
「もう少し、活躍をしたかった。そんな様子に伺えるぞ、バース」
ふたりの男は顔を見合せながら大きく息を吐いた。
「まあ、もがいたところで筆者の心が変わるは、期待できない。だよな、晴一」
「受け入れる。バース、そっちが正解だと俺は思う」
ふたりの男は、お互い掌をかたく握りして頷いた。
「晴一。いつかまた、会えると期待する」
「ああ、俺もさらばとはいわない」
ーー却下。
凜と、澄みきる声にふたりの男は直立不動の姿勢をした。
「澪亜、今頃になって現れた。何を意味している」
ひとりの男は、目付きをきつくさせて相手を見た。
「晴一さん、あなたを自由にさせることが出来るのは私だけ。私は、自由な晴一さんが好き。なのに、あなたは私を振り切っていない。いまだに、たちきっていない生き方をしている」
澪亜は晴一ににらみ返した。
「待て」
バースが身構えている。目で追った晴一が右腕を平行にさせて止めた。
「晴一。あんたのヨメさんだろうが、直感的に危険だ。酷な言い方だが、あんたのヨメさんはとっくにいない」
「ああ、十分に承知だ。だから、なおさら決着をつけなければならない」
「死ぬなよ、友よ」
「魂は、不滅。俺そのものは滅びはしない。何度でも俺は、生きる」
「そうか」
バースは呟いて、晴一に背中を見せた。
バースは晴一と澪亜に一度振り向いて、姿を目に焼き付けるとまっすぐと駆けていった。
「追いかけないのね」
「バカちん」
晴一は澪亜がふざけて言ったのは承知だった。
苦笑いをしながら即答した晴一は、頭のてっぺんをくしゃくしゃと掻き回した。
「晴一さんとこうして姿を見ながらお話し出来たのは、本当に久しぶり。声は聴こえていたのに、正直にいえばもどかしかった」
澪亜の頬は、薄紅色に染まっていた。身に纏う純白の前身頃に両手を重ねて指先を絡ませる仕草でさえ晴一に嘘、偽りがないという澪亜の表れだった。
「おまえと、いうやつは……。」
「ふふふ、晴一さんは真面目。だから、家には晴一さんが友人と認めた人しか来なかった。私は、知っていた」
「妙なところで堅物、俺の性分を理解している奴らだ。けして、選り好みしていたわけではないけどな」
「それでも、私だけ。と、晴一さんはずっと……。」
「重荷だったのか」
「ちょっぴりだけどね」
晴一と澪亜は言葉を交わすことを止めた。
「晴一さん、空を見て」
しばらくして、澪亜が口を開いた。
「ああ、よく見えている」
澪亜に促された晴一は、いつの間にか白のタキシードに着替えていた。真っ赤なスカーフを胸ポケットにしのばせて、目が痛くなると思えるギンギン、ビッカビカの蒼い蝶ネクタイを頸に着け、履くのは光沢している漆黒の革靴。ワイシャツの色は翠で、右手に白の手袋を握りしめていた。
「コーディネートが自由すぎるわ」
「シルクハットとマント、加えて杖にアイマスク。それらはつけることを拒んだ」
「正しい選択ね」
「『却下』はしなくていいのか」
ーー私、晴一さんの自由を『却下』しないので……。
晴一と澪亜。ふたりはやっと結ばれたと、笑みを湛える。
ふたりが目指したのは、蒼い空。
辿り着くと雲と象らせ、吹く薫る風に身をまかせたーー。
***
時は、現代。ひとりの青年が、ある場所で刻一刻と迫る、その時を迎える為に……。うたた寝をしていた。
「晴、起きろ」と、男の声で青年は頬杖を外した。
「茂吉。俺、生きているのだな」
「寝ぼけるとは、おまえらしくないな。何の夢をみていたのか教えてくれ」
茂吉と呼ばれた男は盆を抱えていた。乗っている掛け蕎麦が入っている丼を、青年が座るカウンターに置きながら、そんな催促をしたのであった。
「事がすべて現実的な感覚だった」
青年は箸を握りしめ、刻まれたねぎと煮込まれた鴨肉の塊を分けて蕎麦の麺を5本挟むと口の中に啜り、咀嚼した。
「あまり、よくない夢物語だったのだな」
「非現実。言葉にしたくない、俺はおまえが振る舞った年越蕎麦を味わうに集中する」
「わかったよ、友よ」
茂吉は頭に巻く手拭い、腰に巻く前掛けを外して青年に言うと、壁に掛けるデジタルテレビの映像を観た。
「茂吉、今日は店を貸切にするには勿体ないぞ」
「良いんだよ。俺だって料理に集中できるし、客をじっくりともてなすで満足。それで十分だ」
「欲がない。儲けより理想を貫くと、いうところだな」
「晴、安心しろ。俺の店は本物の味を探求しながらかまえている。旨いと、口突くのは誰でもできる。だが、旨いに隠れているのが何かを見抜く。俺の店の暖簾を潜ることが出来るのは、そんな奴らに限られる」
「失礼した。茂吉、蕎麦を食べたら『友』に戻って俺と一杯してくれ」
「分かっている。晴、おまえと新しい年を迎える。肴も準備万端だ」
『新年明けましておめでとうございます』
新しい年がやって来て、青年は茂吉と呑みあかしたーー。




