せんたく、ざっぷん
真っ白いシーツ、ふかふかの羽毛布団。そして、そして隣で寝るのは……。
夢の中は、自由。
おもうひとをひとりじめできる、誰にも邪魔をされない、わたしの一番大好きな時間だ。
「ただしい、想像ね」
「今すぐ、いきたい場所よ」
「むり、むり。寝るなら、お家に帰ってからになる」
「悟ってると、遠まわしにきこえる」
「納品は、明日。それが全然あがってないからこうして作業をしている」
「でも、眠い」
「わたし、すでに48時間不眠なので」
「あんた、思考回路ショートしているよ」
「終れば、月の光に導かれてやる」
「奇跡を交じらせる。何度も時を刻ませるを、祈ろう」
「そのときは、どこかの惑星の衛星の国のお姫さまで生まれたい」
「闘う女学生の姿になるつもりね」
「いいから、さっさと仕事を終わらせよう」
どこかの国のある場所で、ふたりの女性が燦々とかがやく太陽の光を浴びていた。
「情況をたった二行ですませる筆者に文句を言ってよ」
「嫌よ。況してや仕事中、所詮私たちは道具よ。下手な態度は取れない」
「これでも仕事。結局、そっちにもっていくのがあんたらしいと、誉めてあげる」
「気づいてよ。私たち、通行人AとB扱いされている。いかにも下っぱみたいだけど、耐えるを課せられている」
「名前で呼び合うことさえゆるされていないけれど、おそらくどんでん返しがあるから辛抱しよう」
「『おそらく』は、想像のひとつだとおもう」
「仕事、しようね」
「だまって、喋ってよ」
「ン十年前の筆者の思い出を引用したでしょう」
「なんでもありの物語に、突っこみはいらない」
ふたりは黙々と、仕事を続けたーー。
***
岡村晴一は、自宅の長椅子でうたた寝をしていた。
目が覚めて、夢の中にあらわれたふたりの女性のやり取りが妙にはっきりとしていたものだと、胸の鼓動を激しく打っていた。
ーー近い現実になってしまう。
あの時、ある女性が言った。
たかが夢、されど夢。決めつけるのは、はやい。関連するには明確な証拠が必要だと、岡村晴一は息を大きく吐きながら思った。
自分は、奴らと違う闘いをえらんだ。もう、二度と奴等と一緒に闘うことはない。だが、奴らはなにかとつけて呼び寄せようとしている。
経緯を振り返る。
戦術の相談を受ける、しかし反対をした。
訪ねてきた『友』を追い返すはしなかった。
他にも奴らにかかわることはあったが、臆測することの共通は、ただひとつだった。
同志。
岡村晴一がどんなに心の奥から追い出そうとしても、戻ってくる熱いおもい。
思い出を辿るのではない。と、岡村晴一は自分に言い聞かせる。
岡村晴一は、素足で廊下を歩いた。
着いたのは、何着も吊るした服が詰まる部屋。
吊るされた服を暖簾のように掻き分けて、奥へ奥へと岡村晴一は進んだ。
脚を止めて目の前の閉ざされた扉をしばらく見つめると、深呼吸をしてノブに手を添えた。
「仕方ない。今一度、こいつに袖をとおすとしよう」
岡村晴一は着ている服を脱ぎ、取り出した服に着替えると同じくしまいこんでいた掌の大きさほどの道具を作動させる為に電源のスイッチを押す。
蒼白い光の粒が無数に散らされて岡村晴一にくっつくと、つむじ風が起きて岡村晴一の姿が見えなくなったーー。




