オカムーラその1
時は江戸。
いや、やっぱり昭和にしとこう。
その時代では、ぱっすんぱっすんの服を着て、たぶん、アヒルの羽根だか知らないけれど、ふっさふさと飾られた扇子をふりふりしながら踊るお姉さん達が活躍していた。
そのバブリーな人々の、蟹の泡を無理矢理弾かせる悪者軍団が、赤信号を無視して暴走をおっ始める。
「団長。この辺りの泡は、完膚無きまで消えました!」
安全第一と、記入されているヘルメットを被る下っ端その1が、竹槍をぐるりとかっこよく廻したつもりだが、手元が滑ってしまって、腹部にどすりと、食い込ませてると
「オカムーラ様ばんざーい」と、絶叫を響かせる。
「下っ端その1からの通信が途絶えました!」
「何だと?」
黒光りで、尚且つ0から9までのナンバーが振られている通信機のオペレーター、マナータ〈Aカップ〉の声に、どこから見てもエロガッパの容姿の俺様だーっと、言わんばかりの悪のボス、オカムーラが驚愕する。
「我ら、串刺し団の泡割り作戦を邪魔する者が現れたのか!」
「たぶん、そうでしょうね?」
マナータ〈Αカップ〉は、がしゃりと、通信機のマイクを置き、すっくりと立ち上がる。
「オカムーラ様、勤務時間15分過ぎてますから、勿論残業扱いですよね~?」
「・・・届け書提出するの忘れるな」
さらさらと、マナータ〈Αカップ〉は紙切れに文字を汚く書き、ぺらりと、オカムーラに渡すと、さっさと退室していった。
「おのれ~。トリマキ1号、2号〈以下略〉直ちに、下っ端その1が絶命したポイントに向かうのだ!」
えーっ、やっだぁあ。《碧が生まれる》の最終回、90分スペシャルが観れないわぁ!
俺の家で留守録してる!ダビングして渡すから、我慢して行ってこいっ!!!
私、オカムーラ様と一緒じゃないと嫌だ!
「ちっ!」と、舌打ちして、計10人のトリマキをぞろぞろと、登校班のように並ばせて、オカムーラはその場所へと辿り着く。
「貴様か?我が軍団の下っ端その1をノックアウトさせたのは」
「あた、なんね?おどんは今からグリンリバのホスピタルに、この人ば、連れていく処ばいだ!」
中背、国なまりの男が運転する軽乗用車を停車させ、オカムーラはふと、助手席で肩で息をする女性と目を合わせる。
「随分と、苦しそうにしている。急いで連れていくのだ!」
「言わんでもわかっとるばいたっ!はよ、そこばどかんね?」
ーーーあたたちば跳ねても、こっちはなんも得にならんとばいっ!
「オカムーラ様・・・。今凄く、いやらしい目でした」
トリマキ・・・たぶん、5号が、オカムーラに冷たい視線を注ぎ込む。
「人の命がかかってるのに、俺が下心丸出しみたいに言うな!」
オカムーラが眉を吊り上げ叫ぶと同時に、空の彼方からしゅるしゅると、旋回する音が響き渡る。
ドスケベの“力”を感知!直ちに始末する。
すとん、と、羽ばたく鳥が舞い降りるかの如く、深紅の衣を身に纏う軽くウエーブがかかる髪を右耳の下でひとつ縛りする、女性に、オカムーラの瞳がギラギラとなる。
「天から舞い降りた乙女よ。今、俺の事を色ボケみたいに言ってなかった?」
オカムーラ様が鼻の下をおもっきり伸ばされてる!みんなーーー。
「こいつらは、何をするつもりだったのだ?」
女性にあっという間にノックアウトされて、トリマキ号達は泣きながら逃げ出した。
「待つのだ!俺、いや、私はキミを助けたいのだ!」
「言い訳をするな!最近、泡を片っ端から弾かせる軍団をエロガッパもろとも、私達陽光隊に壊滅しろとの指令が来てる。まさかと、思ったが、オカムーラ。おまえがその《闇》に染まっていたとはな・・・」
オカムーラは、恐る恐る、女性の名を訊く。
「残念ながら、人違いだった」
「私も忘れてしまうほど、と、言うより、誰のつもりで訊ねたのだ!」
「少なくとも、あいつはおまえよりおしとやかーーー」
オカムーラは、みぞおちに両手を乗せると、膝より崩れるようにすとりと、地面にしゃがみ込んでいく。
「最期に何か望みがあるならば、叶えてやらない!」
「おーい・・・。遠回しに拒否しないでくれい」
女性はちゃきっと、握りしめる30センチの物差しをオカムーラの頭上すれすれで、突き刺すようにその目盛りを剥き出していく。
ーーーやめて!その方は確かに、ドスケベエロガッパの姿になってしまった。でも、それでも私はーーーーー。
「身も心も捧げた・・・。私なら、元のあの人に戻す事が出来ます!」
純白の衣に、さらにきらりと光る装飾品を身につける、ちょっとお子様の顔立ちの女性が“光”の中から現れる。
「シホ姫!それは、余りにも危険過ぎる」
「あなたも私と同じ女性ならば、愛する人の危機をほっとくと、いうことは出来ますか?アルマ」
アルマは物差しを腰の鞘にしまうと、オカムーラより離れていく。
「不思議だ・・・。シホ、おまえだけは記憶していたとは」
「今から、あなたに風を薫らせます。待っててください」
シホはオカムーラに覆い被さり・・・そして、唇を重ね合わせていった。




