夜明け
手のひらが、人間の赤い血で真っ赤になっている。顔にも返り血が飛んできているが、今はそれすらも気にならない。刃物を、私と同い年くらいの青年に突き立てるまでは、身体が震えてまともに動かせなかったが、今は震えもとまり、呆然と青年を見ていた。
氷で出来た刃物、それは果物ナイフくらいの大きさでしかないが、真剣と同じくらいの殺傷力はあるだろう。本来なら透明に透き通っているこれも、今は青年の血で真っ赤になっていた。
私は、氷河殺斬一応、この世界の高ランクの武器であるそれを握り締めながら、漠然とこれからのことを考えていた。
(初めて、人を殺した。みんなを守るためだけど・・・間違えてしまった気がする。目の前で死んでいる人間は殺すべきではなかったかもしれない。 もう、わかんないや・・帰ろう)
帰ろうと青年に背を向けて足を踏み出したその時に気づいた。足がないことに。それに困惑してしまった私は気がつかなかった。死んだはずの青年が立ち上がっていた事に。
背中から何かが私の心臓を貫いた。一瞬のことで何がなんだか、本当にわからなくなってきた。とにかく落ち着いて、自分の胸を見て驚愕した。自分の胸から手が生えている。そして、その手には、おそらく私の心臓だろうそれが握られ、静かに鼓動していた。
(生きて・・帰りたかった・・・)
もう、あの場所には帰ることができないのだろう。私が育った綺麗な海の街には、家族には、友達にすら会えないのだろう。好きな人もまだできてなかったのに・・・さまざまな想いが駆け巡る中、世界が闇に呑まれていく、全てが黒で染まったとき、私は気を失った。
*****
遠のいていた意識が、徐々に戻ってくるにつれ、まだ日が昇っていない朝にひんやりとした風が頬にあたる。私は眠っているあいだに、いや、気を失っているあいだに嫌な悪夢を見たかもしれない。鮮明には思い出せないけど、現実のようだった。そこで私は死んだような気がする。けれどやっぱり夢だったのだろう。
ミルフィは静かに目を開けて驚愕に、数瞬のうちに、まだボーッっとしていた身体が一気に覚醒していくのが感じられた。
(この人間の男は、昨日殺しそびれたやつじゃないか。)
ミルフィは昨日殺そうとしたときと同じ震えを覚えた。けど何故か?今はそれほど彼からは恐ろしさを感じない。
一定のリズムで呼吸をする彼に抱えられるような状態で、ミルフィは昨日、自分のミスで傷を負ってしまったであろう自分の足、つまりは尾を器用に曲げて傷を確認してみることにした。布のようなものが巻かれている。ミルフィはそれを半ば強引に剥ぎ取り傷を確認した。大量の血が足にはまだついているが、傷は綺麗に治っていた。
(治ってる・・どうして。でも、これなら、みんなのとこに帰ることができる。)
ミルフィは、自分の傷が一応治っていることに喜びを覚えた後、冷静に考えてみた。
(もしかして、彼が治してくれたのだろうか?いや、でも彼が治癒の魔法を使えるようには見えないし・・)
考えていても分からないミルフィは首から上を動かして、今いる場所を確認してみた。土が固まってできたような壁が、円を描くように、自分たちのいるそんなに広くはない空間を取り囲んでいた。囲まれてはいるが頭上は吹き抜けになっていて、日が昇り始めたのか、空が少し明るくなっていた。また、あたり一面には色とりどりの花が咲き誇っている。その咲き誇っている花からは、一つ一つは微々たるものだったが、すくなからず魔力を感じた。その魔力は光の魔力なのだろう。嫌な感じがしない。それどころか、治癒の魔法を常時放っていることに今さら気がついた。
ミルフィはかつて叔母から聞いた話を思い出した。世界のどこかにいくつか存在すると言われている。傷を、心を癒してくれるところがあるという。けれど、それを実際に見たものはなかなかいないので、信頼性の低いおとぎ話だと皆認識しているのだ。それでも今なら信じられるだろう。
(治癒の庭。何で私は、こんなところに・・)
そこでミルフィは結論が出た。
(彼が、私をここまで連れてきてくれたんだ!彼が起きたらなんかお礼をしないとなぁ。んー、そういえば、お母さんが男の人に対しては、その方が命の恩人だったときは唇に、くちづけしなさいって言ってたな。でも恥ずかしいなぁ。彼が起きたら少し声をかけてみてすぐにお礼しちゃおう!うん。それがいい!)
ミルフィが思考を逡巡してる間に、太陽が姿を現し、私と彼、治癒の庭を照らし始めた。
*****
朝、暖かい陽の光が僕の顔を照らし始める。久しぶりに、目覚めのよい朝を迎えられそうなので、起きることにしようか。そういえば、昨日は死にかけたしな。
(あれ、生きてるのか。死んだと思ったんだけど・・・はっ!そういえば彼女は・・)
僕は昨日の惨事を思い出した。昨日目が覚めたら知らない土地にいて、超絶可愛い人魚の女の子に殺されかけて、なんでか、僕を殺そうとした人魚までも死にかけて、必死になって助けたんだっけかな。でも、なんで僕を切り刻んだ刃物が、それの所有者であった彼女までを攻撃したんだろうか?けれど、今の僕にはその理由がわからなかった。
陽の光が強さを増してきた、本格的に朝をむかえたのだろう、僕はゆっくりと目を開けた・・美少女が目の前にいた。美少女は目を覚ましていたのか、僕を見つめている。だから自然と目が合ってしまって。気恥ずかしくなってきてしまう。それに
(胸が・・当たってるし、結構大きいし、くっ!柔らかい。女の子特有の香りもする。目を開けるまで夢現だったから気づかなかった。 あー、そういえば。昨日、彼女を抱えたまま倒れたのか。)
「あの、えーと、その・・・ごめんなさい!」
彼女から声をかけられた。いきなり謝られても意味が分からない。でも、見つめ合ったままじゃ僕も固まってたので助かる。それに、昨日とはちがって、優しい目をしている。また殺されかけるということも無いだろう。今ならまともに会話もできそうなので、なんか、言葉を紡ごうと試みることにしてみる。
「えっと、昨日のことで謝ってるのかな?それなら、大丈夫だよ!生きてるからね!!」
彼女が怯えないように、慎重に言葉を選んで、できる限りの優しい口調で話しかけてみた。
「いいえ、本当になんてお礼をしたらいいのか・・あなたを殺そうとしたのに、傷ついた私を治癒の庭まで運んで下さって、命を助けてくださいました。」
「あー、はい。お互い生きていて良かったですね。お礼なんて何もいりませんよ。ところで、傷は大丈夫ですか?」 (会話がつながったー。てか、治癒の庭ってなんですか?そんな庭知らないけど、とにかく傷は本当に大丈夫かな、それが心配だよ。)
「はい!このとおり、綺麗に治りました。」
彼女は器用に尾を曲げて僕に見せてきた。昨日、そうとう酷くやられたはずの傷が綺麗に治っているのがわかった。血はまだ付いているけれど、艶やかな尾には傷ひとつなかった。
「本当だ・・治ってる。よかった。」
僕の目からは、涙がこぼれていた。
そして、自分の身体を起こそうとした時だった。いきなり彼女がキスをしてきた。
えー、なかなか展開が進むのが遅いかもです(^^)
それと、一話ごと文字数も大幅に変わってます。
えー、当初は50話くらいで終わらせようかと思ってたんですが。全然長く続きそうです。頑張って執筆していきますので、これからもよろしくお願いします。