出会い
「ころしてやる!」
(いま、はっ!んー・・えっ!なんだって?殺すって?誰を?僕しかいないよね?うん。そうだよね。僕を殺すってことだよね? 何で?君は綺麗だとか美しいとか言ったから?てか聞こえてたの?てか何故に怯えてるの?まったくもって・・さっぱり・・・意味がわかりましぇんけど?)
目を覚ました僕は全く知らないとこにいて、超絶可愛い人魚の女の子(年はたぶん、僕と同じくらいだろう。)に刃物を突きつけられながら、いきなり殺すと言われた。
まず、この世界は一体なんなのだろう?夢なのだろうか・・いや、それはないと思われる。僕は昨日、煙草を燻らせた後すぐに眠りについたはずだ。無自覚のうちに海まで来てしまったのだろうか?でも、まだ夜だということがおかしい。無自覚のうちに海辺まできて、そこでまた眠りについて夜に目を覚ましたということになるのだろうか?もしそうだとするならば、僕は相当まずいのではないか。末期だと思う。
(うん、末期だな・・末期だよ。)
けれども、やっぱりどう考えてみてもつじつまが合わないと思う。てことは、つまり僕が今いるのは。
(異世界にやってきたのか!何か・・嬉しいかも。本当にこの世界が異世界だと仮定して考えても、前の世界にはもう居場所なんてなかったし、直に僕も死んでいたと思う。てか、違う意味で死んでたな。てか、本気で死ぬわ!!)
氷りでできたような刃物を持った人魚が、ふるえる体をどうにか動かして、僕を殺そうと刃物を僕の心臓めがけて突進してきた。僕は、とっさにその子の手首を掴んで、ひとまず命をとりとめた。
(この子、本気で僕を殺そうとしてるのかな?さすがに力関係はあるとおもうけど。)
僕は軽く女の子の手首をひねって、刃物を奪い取った。刹那、刃物を奪った右手が、体の内側から切り刻まれているような感覚で、僕の右手の手先から手首、腕まで切り裂かれたところで刃物を離した。
落ちた刃物を拾いあげた人魚の女の子は、僕から逃げるように海の中へ潜ろうとしたその時だった。氷でできたような刃物が、僕の右腕の時のように人魚の女の子の尾ひれから、尾の真ん中辺りまでを切り刻んだところで、その子が刃物を放り投げた。放り投げられた刃物は役目を終えたとばかりに、空中で粉々に砕け散った。
「生きて・・・かえ・・・・・らないと。」
そんな言葉を発して、人魚の女の子は気を失った。大量に血が出ているのか、海が赤くなっていく。僕は自分の右腕のことも忘れて女の子を抱えた。
この世界がどんな世界なのかを僕は知らない。だから、今は確実とは言えないかもしれないけど、安全そうな場所で彼女を休ませなくては。死んでしまう。不意に胸が苦しくなった。
(自分の命にかえても、彼女を助けなきゃ。)
自分を殺そうとした相手を何故助けようと思ったか、それは、彼女には帰る場所があるんだと思うと、彼女を死なせるわけには行かないと思った。自分が失ったものを、きっと彼女は大切にしているのだと感じたのだ。
僕は海辺の近くにあった洞窟となっているとこに入り、ひたすら進んだ。勿論歩いてなんかいられない。真っ暗な洞窟の中を、抱えている人魚の彼女を落とさないように注意しながらただ進んだ。視界が開けた!月明かりだけなので、すべてが見渡せるわけではないけど、とても素晴らしい場所だと思う。なんか、ちゃんと見えないけど花とか咲いてるし、なんでかはわからないけど、とにかく落ち着くということだけしか言えない。だって・・
(僕、さすがに限界だわ)
子龍は人魚の女の子を抱きながら、膝から崩れ落ちて、眠った。というより、気を失った。