第一話 入学式⑤
やっとガチで始まる感じですよね。
あぁ、だるかった。(おぃ
入学式が始まった。色んな行事が行われて行く。その様子を大河は、どうでも良さそうにボーっと見つめた。左右の横にいる麦人と明香里も、そこはかとなく眠そうにしている。麦人は、興味を持った物が終了したようで、完全に今にも寝ようとしている。この男は、大河や明香里以上に、興味の無い物には全くと言っていいほどに関心を示さないように見えるのだ。
麦人は、やって来る眠気を振り払うかのように、顔をぶんぶんと振ると、大河の袖をギュっと握った。
「もうすぐだ・・・。」
麦人はそう言うと、更に大河の袖をギュっと握ったかと思うと、その手を放して、今度は大河の手を握りしめた。大河はその手を訳も分からずに握り返した。いったい麦人の中で何があったのか、大河は聞きたくてしょうがない衝動にかられたが、麦人は聞くなと言うようなオーラを滲み出させていた。大河は、しょうがないのでただ舞台の上の校長の演説をボーっと聞くことにした。
「退屈だよね・・・。」
明香里はそう言うと、一息欠伸をした。大河はそれを横目で見ると、「そうだな。」と応じた。しかし、その退屈な時間は一瞬で終った。
「みなさんは、この世界でかけが・・・!?」
校長先生の演説が突然止まったかと思うと、彼の頭から赤い水がすごい勢いで飛び出した。一番前で坐っていた大河は、それが血でる事を匂いで感じ取った。とてつもない血の匂いが、辺り一面に飛び散った。周りの生徒達は、悲鳴をあげて立ち上がり、この場所から逃げようと暴れ回り始めた。そして、一斉に出口へと駆け出して行く。
「きゃあああああああああああああああ」
「何だよこれ!?」
「いったい誰が!?」
「何処から撃ってるの!?」
「先生は大丈夫なの!?」
「出口は何処!?」
様々な生徒の悲鳴が辺りに木霊する。大河は自分の手を麦人が握っているので、逃げる事が出来なかった。引っ張っているのに、麦人の手はびくともしないのだ。その隣で、明香里は何を思っているのか、ボーっとしながら、二人の様子を見つめていた。大河は2人を逃がそうとしたが、どうしても2人は逃げようという気配がしないのだ。
そんな折。大河は講堂の2階から物音がし、そこの方に振り返った。
すると、講堂の2階から真っ黒な衣服を着たたくさんの人間が突如として現れた。彼らは手にマシンガンやハンドガンやショットガンなど、様々な銃火器を手にしていた。明らかに校長先生を殺した犯人が彼らである事がその手に持っている物で理解出来た。
そして、一人の男が講堂の出口に向かって、一発放った。その銃声に生徒達の悲鳴が再び木霊した。その悲鳴と共に、全員がその銃声の元に視線を向けた。その先には、真っ黒なフードを被った人がいた。その男は、何かを言い始めた。
「こんにちわ。時計学園高等部の新入生のみなさん。みなさんは、死にたくないですか?」
その声は講堂中に響く大きな声で、どういう訳か犯罪者であるくせに高貴さを感じさせる声が辺り一面に響く。大河は驚きで目を丸くさせた。この男は、いったい何を聞いているのだ。と思ったのだ。大河は隣の麦人を見たが、麦人はただジっとその男を見ていた。明香里は怖いのか、大河に抱き着いている。
「当たり前だ!!!」
そこで誰かの声が響いた。その方向を見ると、そこには1組の友達の播磨姜維が男に向かって叫んでいた。すると、男はケラケラと愉快そうに笑った。
「それはそうだな。失敬失敬。それでは、お前たちには命を与える変わりに生贄を用意してもらおう。」
「生贄だと!?」
「そうだ。生贄だ。そうだな。18人くらいかな。」
全員が息をのんだ。ようするに、ここで全員が死なない変わりに、誰か18人は犠牲にならなければならないのだ。大河達3人は、辺りを見回した。全員が同じ行動をとっており、全員が全員辺りを見回して、自分以外の誰かが犠牲になってくれるのを待っていた。しかし、そんな時間も一瞬で終った。
「あぁ。そうだ。生贄と言っても、名乗り出てもらうのも面白くない。だから、指名性で行こう。」
男はそう言うと、2階から飛び降りた。その動きはとても軽やかで、とても人間のようには思えなかった。2階に残っている他の男達も、こんな動きが可能かのかと思うと、大河は身の縮む思いがした。男は静かで軽やかな動きで、舞台の上で立ち尽くしていた一人の先生の所に向かった。その先生は、生徒の名前を一人一人呼んでいた先生なので、きっと彼が生徒の名前を記した帳簿を持っているのを察したのだろう。男は震えている先生からその帳簿を奪うと、パラパラとページをめくり始めた。
「それじゃぁ、名前を呼んでいくぞ。①15組 田畑兼続!!!」
男はまず一人目の名を呼んだ。大河はその名を聞いて、ゴクリと唾をのみこんだ。田畑は、中学の時の部活の仲間だったからだ。部のキャプテンをしている程で、とても体格も良く、皆に好かれていた。しかし、そんな様子は全くと言って良い程に消え失せ、田畑はその場で崩れ落ちて、「いやだあああああああああ」と叫び声をあげた。
そんな田畑の様子など知らないとばかりに、男は名前を次々と呼んでいった。それと共に、全員が悲鳴をあげたり、涙を流していた。数人は、ただ拳を握りしめていた。
「②18組 嗅土 綾香。
③1組 羽元 香織。
④6組 飯本 涼太。
⑤9組 青山 武志。
⑥11組 片岡 信也。
⑦4組 松本 達志。
⑧3組 春風 歩夢。
⑨3組 血汐 雄大。
⑩14組 立命 公使。
⑪10組 大山口 春香。
⑫2組 レナ・G・マグノリア。
⑬7組 新嶋 麻耶。
⑭17組 流浪坂 針子。
⑮9組 高田 勇。
⑯5組 園生 香久山。」
男はそこまで言い終わると、ニヤリと意地の悪そうな笑みを浮かべて、姜維の前に瞬間移動し、名簿と姜維を交互に見た。男は姜維の事を言おうとしたその瞬間、姜維はキっと男を睨みながら言った。
「俺の名前は、⑰1組 播磨 姜維だ!!!覚えておけ!!!」
男は目をパチクリさせると、姜維の度胸の強さに感嘆し大きな声で笑った。そして、男は大河たちのいる方をすごい勢いで振り返った。
「それじゃぁ、最後だ。⑱3組・・・。儚地 麦人!!!」
麦人の名前は呼ばれた。すると全員が息を飲む声が聞こえた。当たり前だ。麦人は、ここの学園の全ての人物と“知り合い”なのだから。そして、この学園一の天才と言われているだから、隣にいる麦人は、ギュっと大河の手を更にきつく握りしめた。大河は、その手の感触をただ茫然を感じていた。そして、とある考えを思いついた。
「待て!!!」
大河は男に向かって叫ぶと、椅子から立ち上がった。両隣に座っている麦人と明香里はただ茫然と大河を見つめていた。
「何だい?」
男は首をかしげた。大河はジっと男の顔を見つめた。そして、お互いが睨み合う形になった。
「頼みがある。俺と麦人を交代してくれ!!!」
大河は大きな声ではちきれんばかりに叫んだ。その声は、周りの人達の体を震わせた。横から麦人が、涙を流しているのを大河は感じていた。そうだ。大河には、家族はいない。しかし、麦人にはいる。だから、俺が変わりに死ぬのだ。そう大河は心に決めていた。そう思ってすぐに体が動いた。今の行動が流れるように行われた。これには大河も内心では、驚いていた。
男は大河を一瞥すると、面白いとでも言うように、今まで見せた中で一番の笑みを見せると、帳簿を破り捨て始めた。
「良いだろう。では、言いなおしてやろう!!⑱3組 海神 大河!!!」
麦人は隣で、ただただ「ごめんなさい。」と言いながら泣いていた。大河はそんな麦人の頭を空いている手でなでてやると、「大丈夫だ。」とだけ言った。それ以外の言葉は思い浮かばなかった。明香里の方を見ると、明香里も涙を流していた。
男はその場にいる全員の視線を集めるためか、高らかにジャンプして、舞台の上に立った。そして、ゴホンと講堂中に響くような声で咳払いした。
「それでは、生贄の皆には、とある事をしてもらおうと思っている。それとはいったい何か?答えは・・・。“死のゲーム”だ。お前達18人には、“死のゲーム”をやってもらう。」
男はそう言うと、2階でずっと突っ立っていた人達は一斉に動きだし、舞台の上に向かってジャンプし、そして、男の前に一瞬だけ跪いたかと思うと、立ち上がり、彼らは色んな事をし始めた。一人は、ノートパソコンを起動し始めた。一人は、プロジェクターを持ってきていた。この二つを見て、大河は何か映像を見せられるという事に気づいた。勿論、そんな事は全員気づいていて、全員が戸惑いの表情を見せた。
そして、舞台から白い垂れ幕が下がって行った。そして、男は垂れ幕の前に出るとマイクを手に持って行った。
「それでは、紳士淑女の“生贄”の諸君!!!ただ今より、死のゲーム。“ハガル・ゲーム”を始めよう!!!」
男はそう言うと、いつの間には手に持っていたリモコンのスイッチを押したのだった。
やっと物語が始まりました(;´Д`)
これから、ストーリーはギュっと動き出す予定なので、よろしくお願いします<m(__)m>