第一話 入学式③
入学式の会場である講堂の前に着いた。そこの中を麦人と二人で覗いてみると、そこの中はとても綺麗で、とても数百年前に建設された物であるとは思えなかった。大河のそんな考えを読み取ったのか、麦人はクスリと笑った。
「大河はやっぱり“気になる”んだね。ここは、特別だから。気になるのは分かるんだけどね」
「どういう意味だ?」
大河は聞いてみたが、麦人はその質問を聞いているのかいないのか、そのまま大河の手を引っ張って、講堂の中に入った。講堂の中に入った瞬間、大河は言い知れぬ不信感を感じた。どこがどうとかは全く分からないのだが、不安や不信感が体の周りを渦巻いているように感じるのだ。
「なんか、ここ。変な気持ちがする・・・。」
大河がそう言うと、麦人は神妙な面持ちになって、ピタっと立ち止まった。そして、大河を静かに振り返った。
「変な気持ちもするの・・・?」
「あぁ・・・?」
「そっか・・・。大河はするんだね・・・。」
麦人は何故か、何処か悲しそうな顔をした。その横顔を眺めているうちに、どうしてもこいつを抱きしめたいという衝動にかられた。しかし、自分の先ほどの言葉がどうして、麦人を悲しそうな表情に買えたのか、大河は首をかしげた。
麦人は全てを振り払うかのように、首を思い切り左右に振ると、大河の方を向いた。
「大河・・・。言いたい事があるんだけれど・・・。」
「何だ・・・?」
「あのね・・・・・・・・・わ・・・」
しかし、彼の言葉は途中で止まった。後ろから他の生徒が入って来たのだ。それは、中学からの同級生の真貝 明香里であった。彼女は、背後から忍び寄ってくると、麦人の小さい背中に思い切り抱き着いた。
「むぎ~!!!おはようっ!!!・・・あっ。大河もおっは~。」
大河は明香里の突然の登場に面食らったが、すぐに表情を真顔に戻すと、挨拶を返した。抱き着かれた麦人も、体制を崩したが、元に戻すと顔だけ振り返らせて、挨拶を返した。明香里は満足気に微笑むと、麦人から絡めていた腕を離した。
「二人とも、おはようっ!!!」
彼女は改めて言った。大河と麦人はお互い顔を見合わせた。そして、明香里に向き直って挨拶を再び返した。明香里はクスっと笑うと、クルリとその場で一回転した。
「何か新鮮だよね!!!私たち、高校生になるんだよ!!!楽しみ!!!いったい、これから何が始まると思う!?」
明香里がそう言うと、周りの空気が一変した。大河が感じていた先ほどまでの気持ち悪さが一気に消え失せたのだ。大河は驚きで目を丸くさせると、明香里は更に笑顔になった。何が嬉しいのかは、しかし。大河には分からなかった。
「それはね、色んな物語の始まりなんだよ!!!世界は驚きに満ちているし、輝きに満ちてるんだからっ!!!」
明香里の言葉に、二人は目を見張った。とんでも無い事を言っているように聞こえた。というよりも、大河は、彼女の言動が、激しく不思議ちゃんなオーラを漂わせているように感じた。麦人も同じ事を感じていたようで、大河の方を向いて、かなり訳が分からないと言うような顔をしていた。
「・・・。」
「・・・。」
2人は、そんな表情のままに、明香里をジっと見つめた。明香里は恥ずかしそうにほほ笑んだ。
「何よ二人とも・・・。なんだか、恥かしいよ。そんなに見つめちゃって・・・。そんなに私の言った事が良かったのかな?」
2人はそんな訳がねぇよ。と言いそうになるのをグっと堪えた。この明香里という少女は、自分たちと同じ学年の生徒だが、かなり不思議ちゃんであった。そのせいか、自分たちよりも幼い印象を周りの人々に与えていた。後輩に更に自分より後輩と勘違いされる事は、ざらにあったくらいだ。明香里は、それを知ってか知らずか、その状況を楽しんでいた。
何でそんな事を楽しめるのか大河は不思議になって尋ねた事があったが、明香里は、「だって、それって私が若く見られているって事でしょ?」と言っていたのを今になって思いだした。当時は、「絶対に馬鹿だと思われてるよ。」とツッコミを入れたくなったのを感じたものであった。
「まぁ、とりあえず。私たちは、3組らしいし・・・。そこの椅子に座らない?」
明香里はそう言うと、大河と麦人の返事を待たずに、3組の看板が立てられているコーナーにスキップして向かって行った。取り残された二人は顔を見合すと、しぶしぶ明香里について行った。
次回から、入学式が始まります。そして、全ての物語が開幕します。お楽しみに!!!