第一話 入学式②
この時計学園には、一つ有名な建築物があり、それは世界中で有名だ。しかし、それを見るために、この学園にやって来る人物は一人もいなかった。そんな有名な建築物とは、この学園で唯一存在する時計台である。時計学園と言う名前の割には、どういう訳だろうか。時計台のような時計のある建築物は、高校の校舎の中にある時計台しか無かった。
他にもおかしい事があった。この学園には、時計が時計台しか無いのだ。ようするに、高校にだけは時計台があるが、他の校舎には時計台だけで無く、時計の一個も無いのであった。しょうがないので、全部の生徒は、腕時計か携帯電話で時間を見ていた。しかし、どういう訳か、携帯電話も時計も時間を確認するのに、確実では無い。
どういう訳か、いつの間には数分~2時間とずれる事が多いのだった。その中で、ここの時計台だけは、ずれる事無く、時を刻んでいた。
そんな時計台は、時計学園のシンボルでもあったので、高校の敷地にあるという訳で、高校生の入学式やそれ以外の式典は全て、校舎内に行動などが存在しているのにも関わらず、時計台の中で行われていた。
人っ子一人いない校庭を歩きながら、前を無言で歩きながら、あるがままに進む麦人を見つめながら、目の前にそびえ立っている時計台を見つめた。大河と麦人の前に立ちはだかっている巨大なそれは、とても“いびつ”な形をしていた。それは誰がどう見ても、“いびつ”で、この建物の形を言葉で表現出来る人物はいない程であった。
しかし、だからこそこの時計塔は、世界的に有名な建築物と言われているのだ。構造学上ありえないのだ。これを造った人物は不明なのだが、その人物はきっと世界的な人物に違う無いとされているが、誰であるかは知られていない。ここ近年では、「レオナルド・ダ・ヴィンチ」「イエス・キリスト」「モーセ」など、そうそうたる顔ぶれが、その建造に関わったと言われている。
この学園は、様々な部分で普通とは違う校則なり校舎なり体系なりを採っているが、この校舎はその中で特に異彩を放っていた。
まぁ校舎だけでの話なら、この場所以外は、とても清潔な物で、何処の場所も少しずつ改築をしているので、真っ白で綺麗な校舎が並んでいる。今、大河の前にあるこの建造物だけが、有名すぎて改築を行われていないのだ。
建築についてずっと考えていたが、大河はふとある事に気づいた。もう5分から10分はずっとこの時計塔の入り口の前で突っ立っていた。早く中に入った方が良いと思った大河は、ここにつくまで口を効いていなかった麦人に声をかけた。
「入らないのか?」
そう聞いてみると、麦人はハっとして我に返ったようで、横で立っている大河の方を見た。そして、いぶかしげな眼で大河を上から下まで舐めまわすように見つめた後、急に先程までのムスっとして不機嫌だった表情が嘘のように消えた。その表情に、大河の胸はドキリと脈打った。ドキドキというよりも何かハラハラした気分を大河は味わった。
「そうだね。入ろっか~。」
麦人は笑顔でそう言うと、入り口から時計塔の中に入って行った。大河はふと我に返ると、急いで麦人に続いた。
「おい待てよ!!!」
大河がそう言って、一歩進んで麦人の肩を掴もうとした瞬間、麦人は急に立ち止まったので、大河は麦人の背中にぶつかった。自分の方が背は高いので、大河は何事も無かったが、麦人はこけていた。
「!!麦人!!大丈夫か!?」
大河は慌てて麦人を起こそうと手をさしのばしたが、麦人はその手に気づかないようで、大河を一瞥もせずに立ち上がると、スウっと時計台の中のあちこちを行ったり来たりし始めた。
「おい待て!!!麦人っ!!!」
それを止めようと大河は手を伸ばしたが、麦人の動きの方が早く、一瞬で彼は大河の手の届かない所を見回り始めた。しょうがないので、大河は麦人の中を好奇心に満ちたキラキラの瞳を輝かせて探索しているのを見ながら微笑んだ。普段、全く微笑まないので、こういう所でしか微笑む機会が無いのだ。麦人は大河の視線に気づく事なく、いまだに周りを見て、教室の中を覗き込んだりしていた。大河はその動きに合わせて、周りを見回してみた。すると、何故なのかは分からないのだが、この塔の中は“いびつ”な感じを受けたのだ。
「ん・・・?」
大河は首をかしげて考えてみたが、全く思いつかなかった。こういう考える仕事は、いつも麦人の仕事だ。自分は何も考え無いのだ。普段は。すると、探索を終えたのか、麦人はヒョコヒョコとしながら、こちらにもどってきた。
「ねえねぇ!!!大河、気づいてた!?この時計塔。すごいって!!!」
「ああ・・・。」
麦人の質問に大河は首を縦にふった。当たり前だ。この時計塔は、世界的に有名なのだから。
「んー。その反応だと意味を理解してないみたいだね。えとね、この時計塔の外側の一階部分は、でこぼこしてるでしょ?しかも、順不同に。それだけでもありえないのにさ。ここの一階に存在している教室のような部屋は、全部四角いんだよね。この塔の外側は丸いのにね。ありえないでしょ?建築工学的におかしいと思うんだよねぇ。本当にすごい。現実的じゃないよねっ!!!」
麦人がそう言うと、大河は確かにと言って頷いた。麦人の言う通りだった。何故なのか考えずに見ていたが、この場所が“いびつ”なのは、その外と中の違いにあった事に大河は気づいた。
「まぁ、とりあえず。講堂に行こうよ。」
「あぁ・・・。」
麦人は突然、自分の考えを伝え終わって満足したのか、先ほどまでの好奇心に満ちたキラキラと光る瞳の輝きは消え失せ、大河から視線を放すと、階段のある方へ向かった。しかし、大河はまだ考えている途中だったので、生返事をしたにはしたが、麦人が行ってしまった事に気づかなかった。
この時計塔は、どうして“いびつ”なのか?しかも、中は気持ち悪いくらいに綺麗だった。ここの建築物は、専門家の意見では、一番新しくて「レオナルド・ダ・ヴィンチ」によって作られたと言われている。
しかし、外こそはそうかもしれないが、中はここ数年に建て替えられたかのように綺麗な物だった。ここで建て替えられた事を考えられるのだろうが、ここの中は1か月に一回は必ず使われるので、建て替える時間は無い。ありえないのだ。しかも、建築技術は現代かもしくはそれを遥かに凌駕しているのが見て取れた。それが、数百年前もしくは数千年前に作れるとは思えなかった。それこそが。自分の感じた“いびつ”の原因だと大河は思い至った。
「大河・・・?」
「・・・。」
大河の思考の終了に丁度をタイミングを合わせたかのように、麦人は階段の場所に向かっていたはずだが、いつの間にか、大河の前に来て、上目使いで大河を見つめていた。その表情に、大河の心臓は早鐘をうった。もう何も考えられなくなりそうになった。
「あ・・・。悪い。そういえば、麦人。この場所は、どうしてこんな変なのか。お前、分かったのか?」
しかし、今までこんな事は無かったのだが、自分の考えが合っているのか、どうしても気になってしまい、麦人はどういう考えを持っているのかが気になり、大河は麦人に尋ねた。すると、麦人は驚いたような表情を一瞬だけ見せると、その後は一瞬で、不機嫌想な表情に変わった。大河は麦人のそんな反応を今まで見た事が無く、どうしたのか不安になった。
「ん・・。大河は気になる“人”なんだね。やっぱり。まぁ、ここは変じゃ“無い”。んだけどね。」
その不安を麦人は打ち消してくれる訳では無く、それだけ言うと、大河の手を取って、5階にあるはずの講堂へと走り始めた。その手を振りほどこうとすれば、振りほどけたのだろうが、大河はそんな事はせずに、引っ張られるがままに引っ張られた。その一瞬が、大河にとっては至福の時のように感じるのだった。そのせいで、今の麦人の言葉に何か引っかかりを感じた気がしたのだが、大河は忘れてしまったのだった。
入学式の第一話まだ続きます。①と②と③は、キャラ紹介やステージ紹介に費やしますので、あまり面白い訳では無いと思います。④からは、敵キャラが出てくるので、ストーリーが一気に動きだすんで、それまで辛抱強く読んでくだされば幸いです<m(__)m>