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第九十七話『切り札』


 辰美の胸元へ向かった風の弾丸は、しかし、現れた球体に激突し、あえなく弾き飛ばされた。

「……あ、あれは?」

 つぶやいたのは誰の声だったか? 声を無くす人々を後目に、辰美の掌中にある金属球は小さく、鋭い回転音を響かせていた。

『……こ、これは……なにが起きたんだよん? 解説のたけぴー?』

 一年近いアドバンテージを持つクリスをして全く知らない装備。おもわず隣の武瑠に解説を求めてしまう。

 そんな彼女に、武瑠は小さく息を吐いた。

「……たけぴーではない。まあ、状況としては支倉が辰美の弾幕を無効化しつつ攻撃する方法を思いついて実行。そのおかげで辰美は武装を犠牲に被弾を減らしたわけだ」


『そこは見ていて分かったよん。問題は、最後の一発。それを防いだ装備の事だよん』

 武瑠の解説にクリスは少しまじめな様子で詰問した。

 だが、武瑠は難しい顔になった。

「……すまんがそれについては言及できん。わたしは“アレ”の正体を知っているからな」

 苦笑い気味に言う武瑠を見て、クリスはなるほどとうなずいた。

「ともあれ、“アレ”を出してきたと言うことは、辰美の奴は勝負を着けるつもりなんだろうな」

 武瑠はステージ上の二人の姿を見て、小さくつぶやいた。




「東野さん。それって?」

 自らの風弾を防いだ球体を見て、ひばりは訊ねた。

「これ?」

 対して辰美は、無造作に掲げて見せた。それを見て、ひばりは目を細める。

「……回転してる?」

「その通りだよ。鉄球っていうツールを、ボクのタレントの力を用いて自転させてるんだ」

 言われて眉根を寄せる。

「そっか、電気を操ってるんだものね」

 納得したようにうなずくひばり。その様子に辰美が微笑んだ。

「その通り。理論上は、このまま自転速度を加速させ続けることもできる」

 言ったそばから、鉄球に変化が起きた。いや、その周囲と言うべきか?

「……え?」

 それを見て、ひばりは目を見はった。鉄球周辺、辰美の手が少しゆがんで見え始めていた。

 その空間に生じたゆがみを見て、ひばりはのどを鳴らした。

「……あまりやり過ぎると自分にもダメージがくるからね。このくらいが限界」

 苦笑いしながら、両手で挟むようにして超高速回転する鉄球を保持する。すでにそれは摩擦によって光を生じ始めていた。と、二本のサブアームをまっすぐ前へならえをするようにつきだした。

 そして。

「……これが、ボクの切り札だよ」

「……」

 サブアームの間に走るスパークを見て、ひばりは息をのんだ。

 辰美の周辺は、すでに高質量と、雷のエネルギーによって、荒れ狂う嵐のようになっている。

 その中で、必死に姿勢を保つ辰美を見て、ひばりは妨害か防御か迷った。

 その隙を辰美は見逃さない。

「“螺旋超電磁砲スパイラルレールガン”ッ!! シュートおぉっっ!!」

 サブアームの間を、超質量弾が駆け抜けた。

 ひばりは、カラーを緑と黒に変化させながら避けようと横に飛んだ……瞬間。

 豪閃が、荒れ狂う嵐を引き連れ真横を通過した。

「ひゃっ?! きゃああぁぁぁあっっ!?」

「ひばりいぃぃっっ!!」

 悲鳴とともに、まるで木の葉のごとく巻き上げられるひばりを見て、綾香が叫ぶ。それすらかき消すがごとき轟音とともに、その下でステージ端に着弾した光球が炸裂し、ステージが光に埋め尽くされた。

 炸裂音と光量が調節され、観客に害は無かったものの、その圧倒的な破壊力に誰も声を発せずにいた。

 そして、空から緑と黒の闘士が落ちてきた。いや、つむじ風が吹き、彼女の体かステージに叩きつけられるのを防いでくれた。

 そして、そのまま戦いの舞台に立つ小さな少女。

 ライフバーは全体の三分の一にまで短くなっていた。

 直撃ではなかったが、避けるために防御力の低いスタイルになったため、よけいなダメージを受けたようだった。一方で、辰美もボロボロの有様だった。

 ライフバーは残り一割五分ほど。しかし、その瞳に宿る闘志は衰えない。

 そんな彼女の掌中に、新たな鉄球が現れるのを見て、ひばりは全力を振り絞って足を踏みきった。風の力を借りて、弾丸のように飛びながら、左半身が紫に染まる。

 そして、手の中に顕れた日本刀を抜きつけた。

 その刃が、辰美に届く刹那の瞬間。



 一歩だけ前に出た辰美の手には、振り切られた刀があった。



 長い黒髪を結っていたリボンが解けて四本に分かれ、ひばりの黒髪が広がった。

「……え?」

 なにが起きたのかわからぬ顔のまま、体から力が抜けるのを感じつつ、ひばりはそのまま倒れ込んだ。

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