第九十六話『タレントの利点欠点』
「やぁっ!」
辰美が投じる避雷針と、それめがけて迫る雷光を避けながら、緑と黒に変じて風を纏ったひばりは辰美へと肉薄していく。その勢いに飲まれるように、辰美は後退する。
ひばりはそのまま風の力を利用して接近せんと身構えるが、鼻先に短機関銃の銃口が現れたのを見て、身を翻した。
辰美が後退しながらサブアームに呼び出したのだ。
その銃口からは、果たして鉛の軍勢が飛び出すことはなかったが、ひばりと辰美の間合いは離れた。
その様子を見て、秋人が口を開いた。
「やっぱ懐に飛び込まれないようにしてるとしか思えねえぞ?」
その言葉に、綾香は眉根を寄せた。
「……なにか問題があって接近戦を避けてるのか?」
「もしくは誘っているかだ」
不意に聞こえた太い声は俊夫のものだ。未だに動きにくいのか、のっそりとブースの正面に顔を出す。
「……やはりそう思うのか?」
「……ああ」
腕組みをしたまま観戦する雪菜が彼を横目で見ながら言えば、厳しい表情でうなずく俊夫。
「だが、支倉は遠距離での決め手に欠いている。あいつのハンドガンは決して低威力じゃあないが、勝負を決められるほど強力な奴は限られている。ステージ上に障害物が無いから、東野の張る弾幕への対処も難しいしな」
実のところ、俊夫はひばりに戦い方をレクチュアするために、アキや綾香からひばりの各スタイルの情報を聞き出し、ひばり自身より彼女のタレントに詳しくなっていた。
「……威力で言えば、火と水が二強だ。特に火の威力はかなり高い。だが、連射どころか速射も出来ない仕様だ。水も集束させきれば火と変わらんぐらいにはなるが、集束に時間がかかる。風は連射力に優れ、精度も弾速も高いが、威力はもっとも低い。幻影は風より威力はあって誘導弾に変化するが、弾速がもっとも低くなる。東野が四本腕に一丁ずつ持って張る弾幕に対抗するのは難しいな」
軽く説明する俊夫に、綾香が顔をしかめた。
「ひばり自身、そのあたりはだいたい分かってるだろうしな。となりゃ避けやすいか、防御力の高いスタイルでしのいで接近するしかない訳だ」
見ている先で、雷を使い果たした辰美が、再び短機関銃と突撃銃を呼び出して弾幕を形成していた。
もっとも、突撃銃は一丁しかなかった。
「……予備の銃は無いのか?」
そんな辰美の様子を見て、綾香が訝しげな顔になった。
だが、「……待って?」と言うあかりの声に、そちらを見た。
あかりは猫のような目を細めながら辰美を見つめた。
「……銃を持ってない方の手に、なんか持ってる」
言われて一同が辰美の方へと視線を集中させた。
確かに、彼女は空いた左手の中に何かを持っていた。
「……なんだあれ? ボール?」
つぶやく綾香に答える者は居なかった。
辰美の張る弾幕に辟易しながらも、ひばりは次の方策を考えていた。
「……次はこれ!」
避けながらつぶやくように言うと、左半身から色が抜け落ちていき、それを追うように青く染まっていく。そしてその手には大型のハンドガン。それを見ても、辰美はトリガーを引き続けるのをやめなかった
それを見て、ひばりは右手を大きく左から右へと振った。
瞬間。
突風が吹き荒れ、両者の間に風の城壁を作り出す。
それは、辰美の放つ短機関銃の弾を防ぎ、突撃銃の弾道をズラした。
それを見て、ひばりはハンドガンを構えた。
その銃口から風を纏った銃弾が立て続けに六発撃ち出された。それは風の城壁を取り込むように抜けていき、凄まじい速度で辰美へ向かう。
彼女はそれを手にした得物で払った。
一発目が突撃銃を砕き、二発目が短機関銃を弾き飛ばし、三発目がもう一丁を破壊した。
四発目が右サブアームのマニュピレーターを粉々にし、五発目が左サブアームの先端を粉砕する。
そして、六発目が辰美の胸元へと向かった。




