第九十二話『第三試合』
『ふたりとも、準備は良いですか?』
ステージで対峙する二人に、レオンハルトが声をかけた。それに彼女らはおのおのうなずく。
「はい!」
「大丈夫です」
その答えに満足したようにレオンハルトはうなずくと、改めてよく通るその声で宣言した。
『それではクラス対抗戦プレマッチ第三試合。始め!』
開始の号令を聞いて、ひばりは日本刀の柄に右手を置き、鞘に左手を添えた。
一方辰美は武器の無い状態で静かにたたずんでいた。
そのまま向かい合う二人だが、同時に苦笑いを浮かべてしまっていた。
「なんだかやりにくいよね」
「そうだね」
つぶやくように辰美が言うと、ひばりが笑みを濃くして同意した。
出会ってからそれほど時間は経ってはいないが、意外とウマが合うらしいふたりは、少しだけ笑い合ったが、すぐに表情を引き締めた。
「けど」
「お互いに友達のためだから」
ふたりの言葉が絡み合い、その視線が交錯した。
と、ひばりのエメラルドグリーンのレガースがステージを力強く踏みしめた。
「たあっ!」
素人ながらになかなか鋭い踏み込みを見せながら、日本刀を抜き付けるひばり。真一文字に振るわれたそれを、辰美が軽くバックステップして避ける。
しかし、ひばりは彼女を追わずに日本刀を構えたまま立った。
ふわり。と、羽毛のような柔らかな足取りで着地する辰美。
「次は、ボクからいくよ?」
楽しげに笑いながら脚を曲げて、跳躍する。
すると、不思議なことが起きた。
彼女の身体が、まるで重さなど無いように、中空に浮いたのだ。
「えええっ?! 飛べるのっ?!」
その様子に、思わずひばりか声を上げた。そして、目の前で辰美の四本の腕に武器が現れるのを目撃した。
「……銃!」
辰美自身の手には短機関銃。大きな機械の手には突撃銃。それらが現れるのを見て目を見開くひばり。
辰美は宙に浮いたまま、それを各二丁ずつ保持してひばりに向けると、トリガーを引く。
けたたましいまでの発砲音の四重奏を響かせながら、四丁の銃が一斉に火を噴いた。
その弾丸の豪雨がひばりに降り注いだ瞬間。
風が……疾風った。
吹き抜ける風とともに、大きく弧を描くようにして、ひばりがステージ上を滑るように避けた。
その動きに、今度は辰美が驚きのあまり目を見開いた。
しかし、トリガーは引きっぱなしにして四つの火線をコントロールしながらひばりを追わせる。それを、ひばりはまるでスケートリンクの上に出もいるかのようにステージ上を滑走し、避けていく。
襲いくる銃弾の雨を、S字を描くように後退しながら避けていくひばり。
その間に、辰美の高度がじょじょに下がっていき、ふわりと地上に降り立った。
その正面へとひばりが滑るようにしてやってくる。
そこで辰美は気づいた。
「……風? そうか、風をまとって少しだけ浮遊してるんだね?」
「……うん」
辰美の指摘にひばりがうなずいた。
「……辰美ちゃんも、飛んでるっていうよりは落下が遅くなっただけみたいだった。それが辰美ちゃんのタレント?」
今度はひばりが指摘すると、辰美はゆっくりと頭を振った。
「違うよ? 宙に浮いていたのは、このスカートのおかげだよ」
笑って種明かしをする辰美。
「これはフローティングスカートって装備だよ。落下速度を低減してくれるんだ。あまり使いたがる人は居ないんだけどね」
言いながら短機関銃と突撃銃を落とす。
「ボクのタレントはこれだよ」
瞑目し、そう彼女が告げた瞬間、蒼いクリスタル状のパーツが光輝いたかと思うと、破裂するような音がステージ上に響きわたった。
「……これがボクのアバターのタレント……」
その身からステージに向かうように、青白い光の線のような火花を散らし、辰美が目を開いた。
「……“雷帝”だよ」
雷を身に纏った辰美の言葉に、ひばりは喉を鳴らした。




