第九十一話『翼の小女神と……』
「……」
ステージに足を踏み入れたひばりの姿は、待機ブース内での制服姿からリンクネットでの戦いのための装束に変化していた。
長い黒髪を鳥の翼のような白いリボンでポニーテールに結い、白い羽根飾りが両側に着いたカチューシャを着け、体のラインが出るようなヴァイオレットとエメラルドグリーンで左右に色分けされたレオタード状のボディスーツ。
その腰回りには前が大きく開いた、鳥の翼のような意匠のスカート。そして肩にもやはり鳥の翼のような意匠を盛り込んでいる。
さらにヒジから下にはガントレット。それも右側はエメラルドグリーンで、左側はヴァイオレット。
丁寧な彫り物細工が施されたそれには、甲の辺りにガントレットと同じ色をしたひし形のクリスタルが埋まっている。
また、足下に視線を転じれば、やはり丁寧な彫り物細工が施され、ヒザとくるぶしにひし形のクリスタルのはまったレガース。
その色合いは、ガントレットと同じく右がエメラルドグリーンで左がヴァイオレット。
紫と緑で左右に色分けされた、白い翼の少女が日本刀を手に降臨していた。
その体躯は暴走時とは違いひばり本来の小柄な体躯に大きなふたつの果実であった。
「……うぅ、やっぱり恥ずかしい……」
顔を赤らめつつ、空いてる右腕で胸を隠し、左手の日本刀を腰の鞘に戻してから開いたスカートの前面も隠そうと四苦八苦しながら背中を丸めるひばり。勢いで出てきたが、いくらアバターとはいえ、やはり人前に出るのが苦手な彼女にこの格好はハードルが高すぎるようだ。
「……た、戦うどころじゃないよう……」
あまりに全身を隠せないことに、ひばりは顔を真っ赤にして半泣きになった。
と、その時。
『ひばりちゃ〜〜んっ!!』
耳朶を打った声に顔を上げる。
「……琴代ちゃん?」
聞き馴染んだ声に顔を巡らせると、八組が陣取っている観客席の前に、大きな体躯の少女が仁王立ちしていた。
ひばりの幼なじみで、一番の親友。如月琴代だ。
『が〜んばれぇえ〜〜っ!!』
よく響く声で応援する彼女の隣には、二メートル四方はあろうかという応援旗を抱えて振り回す小柄な少年、牧野慎吾の姿もあった。
『負けんじゃねーぞぉっ!? 支倉ひばりぃっ!!』
小さな身体からは想像もつかないほどの声量に、周囲の生徒が顔をしかめるがおかまいなしだ。手にした応援旗には、“必勝!! 二年八組!!”とあった。
そんなふたりの幼なじみの姿にひばりの頬が羞恥とは別種の紅さに染まった。
「……慎吾君、琴代ちゃん……」
胸にこみ上げるものを感じて、ひばりは背をまっすぐに伸ばし、胸を張りながら立った。
その姿に、対面の辰美が人好きのする笑顔を浮かべた。
「うん。準備は良いみたいだね?」
「お待たせしました」
笑いながら聞いてきた辰美の問いにひばりは表情を引き締めてうなずいた。それを見て辰美もうなずいた。
その辰美の装備は一種異様だった。額の辺りにラインスリットの入った大型のゴーグルを装備しており、その左右から後ろへと流れるような蒼いクリスタルの角が伸びていた。サイドテールは解かれ、焦げ茶のロングヘアーがなびいた。ボディスーツは青みがかった白を基調に、ブルーのラインで彩られており、両腕にはスッキリとしたスリムなガントレット。両脚にはまるでブーツのようなスリムなレガース。それらが、やはり青みがかった白とブルーライン。そして蒼いクリスタルによって装飾されていた。
そして、その腰回りを、スカートタイプのメカニカルアーマーが隠している。
さらにもっとも目立つのは彼女の両肩から伸びる大きな腕だ。
辰美の腕をふた回り以上大きくしたような、しなやかなデザインのマニュピレーターアーム。ひときわ大きな蒼いクリスタルが埋め込まれた大型の肩アーマーから伸びるそれは力強そうにも見える。
しかし、全体的なデザインからは不思議と雪の国のお姫様といった雰囲気を醸し出していた。
緑と紫に彩られた翼の小女神と、四腕の雪姫。
今ここに、戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。




