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第九話『遭遇!? ナンパ男と雲雀』


「どうしたんだ? ひばり」

 入り口で叫び始めたひばりを不審に思い、綾香が脇からのぞきこんだ。

 するとひばりを小学生扱いした薄茶色の髪を無造作になでつけた軽薄そうな少年の顔が輝いた。

「おおっ?! あっやかちゅわ〜ん♪」

「げっ?! 洋介……」

 そのナンパな顔を見た綾香の顔が、嫌そうになった。

 しかし彼は気にした風でもない。

「今朝も綺麗だねマイハニー♪ 折角だから結婚しよう♪」

 少年は歯を輝かせながら綾香を讃え、ついでに求婚していた。

「断る。後、早くどけよ。お前が邪魔でみんなが入れないだろ?」


 しかし綾香の反応はにべもなく一刀両断であり、さらに退くように言う。すると少年はその指摘で気づいたといわんばかりの顔になった。

「おっとすまないね。ん? そっちの大きな彼女も可愛いね!」

 五人に道を空けた少年は、さらに視界に入った琴代を褒め始めた。唐突な切り替えに、ひばり達は目を白黒させる。

 特に名指しされた琴代は目を丸くした。

「ほぇ? わたし?」

「うん、君だよ君。ボクは青島洋介。どうだい? ボクと結婚しないかい?」

 さらに求婚する洋介に、ひばりと綾香の顔が、うろんげになる。

「な、なんなのこの人……」

「ただのバカだ。気にすんなよひばり」

 つぶやくひばりに、綾香があきれたように答えた。

 その間にも洋介と琴代のやりとりが続く。

「どうかな?」

「うんと、ごめんなさい。私にはシン君がいるからお受けできません」

 そう言うと、琴代は慎吾を抱き上げてニッコリ微笑んだ。

 やられた慎吾は仏頂面である。

 それを見た洋介が愕然となった。

「なん……だと……? ボクよりそんなチンチクリンの方が良いというのがばらぼげばぁっ?!」

 最後まで言えずに吹き飛ぶ洋介。琴代の腕から飛び出した慎吾の飛び蹴りを、顔面で受けたのだ。

「誰がチンチクリンだ! ぶっ飛ばすぞてめえ!!」

 きれいに着地を決めた慎吾ががなる。が、洋介には届いていないようだった。

「ちょっとーっ?!」

 その威力にあせったのはひばりである。

 彼女はあわてて吹き飛んで沈黙する洋介の方へ駆け寄ろうとした。

「やめときなよひばり。自業自得だよ」

「そうもいかないよ。大丈夫? 青島君」

 洋介の介抱を始めるひばりに、綾香が必要ないと言うが、彼女は首を振って介抱を続けた。

「んん……」

「あ、気がついた。大丈夫? 青島君」

 ぼんやりとした意識のなかで、洋介は女神の笑顔を見た気がした。

「……き、君は……?」

「あたしはひばり。支倉ひばりだよ? 青島君」

 自己紹介するひばりに、洋介は目をしばたたかせた。

「…………め、女神だ……」

「?」

 つぶやくような洋介の言葉に、首を傾げるひばり。

 のぞき込もうとする彼女に、あわてて身を起こすと。床に正座した。

「ひ、ひばりさん!」

「は、はい?」

 洋介の勢いに飲まれるように返事をするひばり。

 洋介は勢い込んで、両手でひばりの手を握った。

「ふぇっ?!」

 突然のことに目を白黒させるひばり。

 だが洋介は止まらない。

「ひばりさん! ボ、ボクと交際を前提に結婚してください!」

 頭を深々と垂れ、叫ぶように求婚する洋介。テンパっているのか、言っている内容もどこかおかしい。

 綾香は大きく息を吐いて、ふたりを見た。

 ふと、頭を下げるひばりの横顔が目に入った。

 その瞬間、ぞわりと冷気が綾香の背中を駆けあがった。

 何も映さない瞳。表情の抜け落ちた横顔。

 しかしそれは、綾香がまばたきした瞬間には雲散無消し、苦笑いするひばりの顔になっていた。

「はあ。駄目だよ? 青島君。誰にでもそんなことばかり言ってると、信じてもらえないよ?」

 ひばりの言葉に顔を上げた洋介に、有無を言わせず彼の頭をなでるひばり。

「そういうのは、あたしみたいな子じゃなくて、ちゃんとした可愛い本命の子に言わないとね」

 諭すようなその言葉に、洋介は何も言えなくなってしまった。

 その様子を見ていた綾香の眉根が寄った。

「ひばり……」

 つぶやく彼女の肩に、手が置かれた。

「綾香」

「タカ……」

 鷹久だ。その目は、真剣な様子でひばりの横顔を見ていた。

「ひばりが……」

「見ていたよ。角度的にほかの人たちには見えてなかったみたいだけど……」

 顔をしかめる鷹久。綾香も表情を暗くして顔を伏せた。

「あの子、なんて表情を……」

「なにか理由はあるんだろうけど、今はまだ無理だよ」

「それはわかるよ。けど……」

 綾香は握りしめた拳を胸に当てた。締め付けられるような感覚に、顔がゆがむ。

「彼女のこと、もう少し様子を見てみようよ。僕らに出来ることが見えてくるかもしれないしね」

 鷹久に言われてうなずく綾香。そのまま頭をバリバリと掻いてから顔を上げると、ひばりの方へと歩いていく。

「ひっばっりぃ〜♪ そんなやつ放っておいて、席に着こうぜ〜♪」

「ふぇっ?!」

 綾香はそのままひばりを抱き上げると、自分達の席を探し始めた。

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