第八十一話『着』
「な、なんとか……」
洋介は、力が抜けたかのようにその場にヘタり込んだ。
その様子に、ひばりはホッと息を吐いて安堵した。
しかし、綾香の表情は硬い。
「どうしたの? あ……」
気づいて訊ねたひばりの言葉は最後まで言えずに遮られる。
『カ、カズヤ〜〜〜〜っ!!』
響いた声に、会場中が注目した。シモーヌだ。
肩を怒らせ、半泣きの顔でステージをにらみつける彼女に、洋介がたじろいだ。
その時。
「洋介っ!! 気を抜くなっ!! フィールドが戻ってない!? まだ終わってないぞっ!!」
綾香の声が、鋭く洋介の耳朶を打った。
「な、なにを……」
言ってるんだ? と聞き返そうと振り向いた時、視界の端で赤いハーフアーマーの少年の体が空へと跳ねた。
「まさかっ?! 直撃のはずだぞっ!?」
天高く跳ね上がった和也の姿に驚愕し、目を見開いて叫ぶ洋介。
そんなことは知らないとばかりに、ボロボロの少年の身体が、満月を背に弾丸のような速度で洋介へと迫った。
「くっ?!」
気が抜けてしまった身体はようようとは言うことをきかず、洋介はリボルバーを持った右手を何とか持ち上げてトリガーを引いた。
ハンマーが金属を叩く音が響き、鉛の弾丸が銃口から吐き出され……なかった。
「な……に……」
澄んだ音とともに砕けていくリボルバーを見て呆然となる洋介。そして、目の前に和也の蹴足が迫った。
「くぅっ?!」
ひるんで避けようとするが、すでに間に合うはずもない。その一撃は彼の胸板へと突き刺ささった。テンガロンハットが舞い上がり彼をそのまま大地へと叩きつけ、ステージ上にクレーターを作り上げる。
「がっはっ?!」
衝撃で破片が舞い上がり、洋介が苦悶の声を上げた。
ただ一瞬で起きた出来事に、誰もが反応できない。
すべての破片がステージ上で跳ね、空からテンガロンハットが洋介の顔に舞い落ちてきた。
それと同時に満月が消え去り、フィールドの薄暗さが元の明るさに戻った。
「決着! 第1試合の勝者は二年七組、斉藤和也君!」
レオンハルト教諭の宣言に、一瞬の間をおいて歓声が上がった。
『だいっ! ぎゃく! て〜んっ!! あおっちの勝利かと思いきや、女神の声にかずやん奇跡の大逆転だよ〜ん!!』
「青島君は勝ったと思いこんでしまったんだろうな。いや、斉藤君も諦めていたかもしれない。それを覆したのが……」
『ブリッちの声だったわけだねい♪』
「……そういうことなんだろうな」
興奮気味に話すクリスに、武瑠が苦笑いしながら応えた。
ステージ上では、和也が座り込んでいた。
「か、勝った……」
「……負けたか」
つぶやくような和也の声に応えたのは洋介だ。左手でテンガロンハットを持ち上げ、身を起こしてかぶり直した。
「……ひとつ、聞いて良いかな?」
「? はい」
帽子の鍔で目を隠した洋介に聞かれ、和也はわずかに首を傾げてからうなずいた。
「……僕の最後の一撃は、君の体を撃ち抜いたはずなんだけど、なんでやられなかったんだ?」
その言葉に、和也はああ、とうなずいた。
「……いくつか条件がそろっただけです」
「条件?」
訝しげになった洋介に、和也が首を縦に振った。
「……フィールドの効果で、あなたは弱体化していて僕は強化されていた。そして撃たれた瞬間、少しだけど体を反らせましたから」
「……ダメージの減少効果と、パラメータ強化のおかげで倒しきれなかったわけか」
「はい」
「……君は人が良いな。そういう情報は、隠すべきものだよ?」
「……あ!」
洋介に言われて和也は口に手をやった。その様子を見て、洋介は笑いながら立ち上がった。
「ともあれ、勝ちは勝ちだ。胸を張って凱旋したまえよ」
そういって歩きだした彼の背中を和也は見送った。




