第六十話『彼女の思い』
「はい到着」
青い屋根で二階建ての一軒家の前に着いて、ひばりは笑いながら言うと背後を振り返った。
「……おー。着いたかー」
そこには疲れた様子の少年、沢井秋人の姿がある。彼の様子にひばりは小さく笑って近づいた。
「ここまで運んでくれてありがとう♪ 飲み物でも用意するから上がっていって?」
「へ? あ、おい!?」
そんなことを言って声をかける間もあらば、ひばりはスカートのポケットから鍵を取り出して玄関の方へ歩いていってしまう。
秋人はそんな彼女の後にあわてて近づいた。
鍵を開けて玄関扉を開いたひばりが三和土へとあがった。
「ただいま〜」
「おじゃまします」
靴を脱いで上がり、振り返ってしゃがみ込んでから靴を揃える。
そこまでの動きは流れるようでもある。
その横で、秋人が靴を脱いで上がっていた。
それを見上げながら立ち上がったひばりは手を出した。
「買い物袋はキッチンの方に持っていくから……」
「あー、問題なけりゃ俺が持っていくよ」
「え? でも……」
秋人の言葉に逡巡する。その様子に秋人はしまったとばかりに顔をしかめた。
「悪い。そうだよな、今日会ったばっかりの奴が家の中うろつくなんて、確かにいいもんじゃ無いや」
「?! ち、違うの! そ、そうじゃなくて……そこまでしてもらうのは悪いかなって……」
肩を落とした秋人にひばりはあわてて声を上げた。
「えっと、そ、それじゃこっちに……」
そのまま秋人を誘導していくひばり。キッチンまでやってきて、彼に手伝ってもらいながら食料品を冷蔵庫へと詰めていく。
「これでよし。洗剤とかは後で片づけるから置いておいてね?」
「ああ」
「じゃあそっちのリビングで待っていて? あたし着替えてくるから」
「あ、ああ……」
軽い足取りで出ていくひばりを見送った秋人は、リビングのカーペット上で緊張した面もちで正座した。
リビングから辞したひばりは、二階へと上がる階段までやってきて軽く深呼吸した。
「大丈夫、大丈夫……」
呪文のように自身に言い聞かせるひばり。
それから階段を上がりきった場所にその部屋はあった。
ドアノブも鍵もあるが、“あの”部屋だ。
そこを数瞬見つめてから、ひばりは自分の部屋へと向かった。
「はあ……」
自室に入ったひばりは、大きくため息をついた。
「……なんで上がっていってもらっちゃったんだろ……」
それも、今日初めて会った異性だ。クラスメイトとはいえ、自宅に上げてしまうなど、あらぬ誤解を生みかねない。
「……タイミングが……“悪かった”かな?」
顔をしかめ、ごちる。
リンクネット内での出来事は衝撃的だったが、それ以上に、“あの部屋”を強く意識させられたのは事実だった。
だからこそ……ひとりになりたくなかった。父の陽介が、今日は午後から打ち合わせと懇親会で遅くなる事はあらかじめ聞いていたのだが、間が悪くあんなことがあった。
独りで居たくないと思いつつも、周りに迷惑をかけたくないと思っていたのだが……。
「……綾香ちゃんに悪いことをしちゃったかな……」
思い起こすのは、太陽のような少女。
けれど、彼女の笑顔は、ひばりにとって……。
「眩しすぎるんだよね……」
吐き出すようにつぶやいた言葉に、ひばりの“TaC”の通信ランプが瞬いた。




