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第六話『さてさて、クラス分けは?』

「いやーすげー目に遭ったわ……」

 ぐったりした綾香は鷹久の背中に上半身を押しつけるようにしなだれかかりながらぼやいた。

 彼女のたわわな二つの実りが、自身と彼に挟まれて潰れたまんじゅうのように変形している。

 その感触を味わっているはずの男は、心底嫌そうな顔をしていた。

 しかし綾香は気にするでもなく彼の首に腕を回し、左肩のあたりから小悪魔スマイル浮かべた顔をのぞかせた。

「な〜あ、タァ〜カァ〜。おんぶ〜〜♪」

 甘えるように言う綾香だが、当の鷹久は嫌そうにするだけだ。

「断る。そして重い。暑い。離れて」

 にべもなく言い放つ鷹久に、綾香がムッとなった。

「おまえ、女の子に重いとか言うか? 普通?」

「普通の女子相手なら言わないよ。でも君は特別」

 あきれたように言う綾香に切り返す鷹久。その言葉に、綾香は一瞬キョトンとなってから、花が咲くように笑った。

「なるほど……とりゃっ!」

「うぉっ?!」

 綾香はそのまま彼の背中に飛びついた。

 突然のことによろける鷹久だが、その細身からは考えられないほどにどっしりとした安定感で堪えた。

「よっし行け〜☆ たっかひさ〜♪」

「……ったく。仕方ないなー」

 そんな綾香にため息をつくが、鷹久は仕方ないとばかりに歩き始めた。

 その斜め後ろを歩くひばり達三人は、唖然呆然である。

「すげーな。うわさ通りのふたりだ……」

「見てるこっちが恥ずかしくなるね……」

「綾香ちゃんと鷹久君は仲良しさんだね♪」

 訂正。唖然呆然はふたりだった。

 まあ、通学中の他の生徒も赤くなったり目を丸くしてるあたり、言わずもがなである。

 さらには新学年になって早々に地に伏し、涙を流して大地を殴りつける男子続出である。

 それを見て、今度は顔をひきつらせる慎吾とひばり。

「この光景もうわさ通りなんだな……」

「あ、あははは……」

「みんな何で泣いてるのかな?」

 やはり琴代だけはよくわかっていないようである。

 そんな周りの様子にも関わらず綾香と鷹久は、気にした風でもなく校門をくぐった。

 そして、鷹久の背中から綾香が後ろを振り向いた。

「おーい、ひばり、慎吾、琴代。早く来いよ☆ 置いて行っちまうぞ♪」

 声をかけられ、ひばりは我に返った。

「あ。う、うん」

「いや、一緒に歩きたいとは思わねーけどな」

「あーん、待ってよぅ」

 あわててふたりの後を追うひばり達三人。綾香と鷹久はそんな三人を笑顔で待っていた。




 校門をくぐれば、先端技術の宝庫でもある央華学園の本領は発揮される。

 校門をくぐったばかりの五人それぞれの目の前に、半透明のホログラフィックディスプレイが現れ、《Good Morning!!》と表示される。

 それは、すぐに個人設定により縮小、あるいは消去される。

 他の生徒たちも、慣れた様子でホログラムを指でなぞったり、キーボード感覚で叩いたりして操作していた。

 これが、この学園の標準機能であるホログラフィックツール。略してホロツールである。

 これは、この学園内とその近郊においてのみ使用可能な、“触れる”ホログラムだ。

 触れるとは言うが、実体があるわけではなく、ホログラムに“触った”ように干渉するものである。

 たとえばホロディスプレイを摘んで放り投げたり、表示データの一部をちぎって捨ててしまったり、呼び出したプログラムを掴んでホロディスプレイに差し込んだりと、様々なことが可能である。

 この機能を利用できるのは、央華学園の学生証を兼ねたターミナルコミュニケーターデバイス〔terminal communicater device〕、通称“TaC”《タック》を持つもののみである。

 生徒たちは、中等部からこの機能に触れ始め、段階的に自分専用のターミナル構築をする事まで可能になるのだ。




「しっかし、こんだけ機能があるツールがあるってのに、なんで紙で張り出してんだ? クラス分け」

 綾香が呆れ気味に言うと、慎吾がうなずいた。

「まったくだぜ。授業もわざわざホロディスプレイにペンで書き込むとか面倒過ぎじゃないか?」

「その辺りは学園長の方針らしいが……」


 慎吾の言葉に鷹久が答える。

 そんなやりとりの間に掲示板の前に着いていた。

「うっし、あたし達のクラスは……」

 鷹久の背中から身を乗り出し、綾香が掲示板を見る。

 ひばりと慎吾、琴代も見るが、掲示板前は黒山の人だかりで、ひばりと慎吾には見えそうになかった。

「うぅ……見えない……」

「くっそ、邪魔だっつーの。こうなりゃ……」

 うなだれるひばりの横で毒づく慎吾だが、おもむろに目の前の人壁へと突入していった。

「し、慎吾君危ないよっ?!」

 そんな慎吾の行動を、ひばりはやめさせようとするが、慎吾は、大丈夫大丈夫。ちょっくら見てくるわ。などと言いながら、人と人の間へと体を割り込ませていった。

「いっちゃった……うぅー見えないよー。すいませーん」

 ひばりはなんとか掲示板が見えないものかと背伸びしたり、声をかけたりしたがまるでだめだ。

 と。いきなり視線が持ち上がった。

「わわわっ?! なになになにっ?!」

 突然のことにあわてるひばり。その背後に天真爛漫な笑顔が現れた。

「こ、琴代ちゃんっ?!」

「えへへ〜♪ 肩車するよ〜♪」

 琴代がひばりの体を持ち上げたのだ。驚くひばりをよそに、琴代は彼女を高い高いするように持ち上げた。

「って?! 高っ?! 怖っ?!」

 あまりの高さに顔を青くするひばり。琴代はそのまま彼女を肩車してしまう。

 一気に二倍近い高さの視点になり、ひばりは黒々とした敷物を眼下にして顔に風を受け、開けた視界に感嘆の声を上げた。

「わぁ……」

「これなら見えるでしょ? ひばりちゃん」

「うん! ありがとう琴代ちゃん♪」

 そんなふたりの様子に、綾香は眉根を寄せた。

「むむっ!? これは負けてらんないぞ☆ タカ! こっちもフォーメーションZだ!」

「なんだよフォーメーションZって……」

 綾香の突然の物言いに、鷹久が渋面を作った。

 しかし綾香は気にすることはなかった。

「肩車に決まってるだろ! 早く早く!」

「やらないからねっ?!」

 せかす綾香につっこむ鷹久。それを聞いて綾香は口をとんがらかせた。

「なんだよ、あたしの太ももで顔を挟まれるんだぞ? 役得だろ?」

「絶対にやらない!!」

 ブーブー文句を言う綾香に、鷹久はNOを突きつける。

 その瞬間、周囲の男子から『じゃあ代われっ!!』という邪念と殺気に満ちた視線をダース単位で撃ち込まれる鷹久だが意にも介していないように鼻を鳴らした。

 と、その時。

「あっ?! あったよ琴代ちゃん♪ あたし達同じクラスだよ♪」

 そんな声が響いた。

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