第五十九話『お買い物☆』
「ところで、どうして僕はこんなところで買い物かごを下げているんだろう……」
スーパーの生鮮食品コーナーで、つぶやく鷹久。
そして、その周囲を行ったり来たりしている金髪碧眼の少女は楽しそうに笑う。
「気にしな〜い♪ 気にしな〜い☆」
綾香の『ひばりと仲良くなる』宣言の後、彼女は鷹久を振り返り『よし! これからタカんちで作戦会議だ! さらにあたしは腹が減ってるから夕餉も所望する!!』と一方的に告げて彼を商店街のスーパーへと引っ張ってきた。
そのまま料理の材料を買い込むべく、彼を伴い食料品コーナーへと向かう。
一方で鷹久は、綾香に買い物かごを持たされて引きずられるようにしていた。
己の進む道を見つけた黄金の少女の推進力と牽引力は生半可なものではないのだ。
まあ、無理矢理引きずられては来たものの、綾香の楽しそうな姿が見れることは、鷹久にとって嬉しいことには違いないだろう。
今も食材を選んだり、運んできたりしている彼女の姿に、小さく笑みを浮かべていた。
「っと、この材料なら……」
綾香が持ってくる食材を見て、鷹久は軽く思案する。
出てくるレシピに適当な分量を換算し、余りがどの程度出るかを判断し、また、それらを以て別の一品を仕上げる事が出来るかを測っているのだろう。
そうでなくとも彼の部屋の冷蔵庫はそれほど大きくはない。
央華に入学してから一人暮らしをしてきた鷹久は、両親からの仕送りと、バイトで稼ぎながらなんとかやってきている彼にとっては、無駄は省きたいところではある。
そうして頭の中で献立を吟味していると、綾香が両手にいっぱい抱えながら満面の笑みで鷹久を見た。
「後、これな〜♪」
「……だめ。一個にしなさい」
綾香が持ってきたのは、十個近いプリンだった。
結局、問答の末にプリンは綾香と鷹久の分の二個となった。
レジで精算する際には、なぜか全額鷹久が払うことになったが。
「なんで僕が……」
「さっき抱きしめた時、やーらかかっただろ☆」
その一言に、鷹久は口をつぐむしかなかった。
スーパーを辞した二人は、寄り添うように歩きながら鷹久のアパートへ足を向けた。
その背後で彼らと入れ違うように小柄な体躯にボリュームのあるポニーテールの女の子がスーパーに入っていったのはまた別の話であろう。
それから、商店街の喧噪やサイレンの音をBGMに、ふたりで今日のことを話し合う。
「なるほど、タレントの効果や強さはピンキリってわけだ」
「ああ。だから後は装備ツールの工夫と、チューナーの技量。それに発想ってとこだな。タカのはどんな装備にしたんだ?」
鷹久に答えながら訊ねる綾香。しかし、鷹久はそれに答えなかった。
綾香はいぶかしげに思って彼を見る。
鷹久はまるでなにも見ていないかのような瞳で前方を凝視していた。
つられて綾香もそちらを見た。
そこで彼女の蒼い瞳に飛び込んできた光景は、真っ黒焦げに焼け落ちた、鷹久が住んでいたアパートだった……。




