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第五十八話『ひばりと秋人』


「そういえば沢井君、何で商店街に? 買い物でもあったんじゃ……」

 買い物袋を下げた秋人とともに商店街を歩き始めたひばりは、ふと疑問に思ったことを訊ねた。

 央華学園の生徒が放課後に羽根を伸ばすとなれば、やはり繁華街。西側の区画の方がそういう設備が整っている。

 商店街に来るのは、ひばりのように、生活雑貨を求めるような人間が大半だ。

 繁華街にも無くはないが、都市計画の一環により、そういった雑貨は商店街方面に集中している。

 新たに出店する場合でもこちらに配されることが多いのだが、それはそれであつれきがあるらしい。

 ともかく、商店街側に来る学生と言えば、一人暮らしをしている者や経済的に厳しい人間が生活必需品や食料を安く仕入れるために訪れるのが常である。

 だからこそ、ひばりは娯楽の要素が少ない(全く無いわけではないが)商店街に姿を見せた秋人が不思議だった。

 そんな彼女の呈した疑問に、秋人は軽く笑った。

「あー、それな。俺んち商店街にあんだよ」

「え?」

 こともなげに言う秋人に、ひばりは目を丸くした。

 しかし、彼は構うことなく続けた。

「商店街にある、中華屋の“華川はなかわ”ってあるだろ? あれが俺んちなんだよ」

 笑いながら言う秋人に、ひばりは開いた口がふさがらなかった。

「え? あっ! じゃ、じゃあもうすぐ家に着くところだったのっ?!」

「まあそうなるな」

「そ、そんな! わ、悪いよっ!」

 慌ててひばりは秋人から買い物袋を取り上げようとするが、秋人はそれをひょいと避ける。

「な、なんで避けるのっ?!」

「まあ、落ちつけって。俺が好きでやってんだし」

 声を上げるひばりに、秋人が笑いながら言う。

「け、けど……」

 だが、ひばりは納得しない。すると秋人がまじめな顔になった。

「だから気にすんなって。道ばたで困ってる女の子がいたら助けるってのが、沢井家の家訓なんだよ」

「え? そ、そうなの?」

 したり顔で言う秋人。ひばりは驚いて動きを止めた。

 と、秋人が舌を出す。

「いや、嘘」



 すぱぁんっ!!



 派手な音ともに小烏丸が振り切られ、秋人の頭がブレた。

「一瞬、信じちゃったでしょっ!?」

 小烏丸を片手に肩をイカらせ柳眉を逆立てるひばり。

 その足元で秋人が轟沈していた。

「うぐぐ……ただのハリセンなのになんて威力だ……」

 つぶやく秋人だが、買い物袋は高々と掲げて守った辺り、大したものである。

「まったくもう!」

「はは、悪い悪い。けど、おやじが口癖みたいに言ってるのは本当だしな。朝のお礼も兼ねて運ばせてくれよ。な?」

 身を起こした秋人が、くったくなく笑いながら言うと、ひばりは仕方ないとばかりに息を吐き出してから笑みを浮かべた。

「しょうがないなぁ。それじゃあ運ばせてあげるよ」

「へへー、誠心誠意を以て運ばせていただきまする」

 軽く胸を反らして言うひばりに、秋人があわせてうやうやしく頭を垂れた。

 と、どちらからともなく吹き出してしまい、二人で笑った。




「ところでそのハリセン、どこから取り出したんだ?」

「企業秘密です」

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