第五十一話『青い瞳』
「だれですの?」
「……理事長」
突然の声にそちらを見たシモーヌが不思議そうにつぶやき、綾香がジト目で吐き出すように言うと、シモーヌが「えっ?」となった。
しかし、そんな事はお構いなしに翔華はふたりの元へやってきた。
「今朝ぶりね? 夏目綾香さん」
「はあ……」
にこやかな翔華に対し、綾香はとまどい気味である。
そんなふたりを交互に見て、シモーヌは訝しげになった。
「あ、あの、質問があるのですがよろしいでしょうか?」
シモーヌの声に、翔華がそちらを見る。
「ん? いいわよ? シモーヌ=ブリギッタさん」
「わ、わたくしの名前をご存じなんですのっ?!」
応じた翔華が自分の名前を出したことに驚くシモーヌ。
しかし、翔華は当然と言わんばかりの顔だ。
「全校生徒の名前と顔ぐらいは覚えてるわよ? それにこんな美人白人系の子を、あたしが放っておくわけ……」
「……んんっ!」
いらないことまで口走りそうな翔華をせき払いで牽制する者がいた。アキだ。
翔華が口をつぐんで横目で彼女の方を見ると、ジト目でこちらを見ていた。
「……個人でリンクネットの感覚変換機をセット購入した珍しい子だからね。覚えていて当然よ」
その言葉に、シモーヌが焦ったような顔になり、綾香の眉が跳ねた。
綾香がジト目でシモーヌを見れば、彼女は目をそらし始めた。
「……シモーヌ」
「な、何でしょう?」
「……おまえ、もうリンクネット内でさんざん活動してるだろ?」
「……」
綾香の問いに、シモーヌの目は泳ぎまくりである。
綾香は軽く息を吐いた。
「……まあ良いや。あたしも今朝からリンクネットでちょっと濃い活動したからな。まあ対等とは言わないけど有りってことにしとくよ」
「? 八組はダイブの授業がまだですわよね?」
「……いろいろあったんだよ」
不思議そうに訊ねるシモーヌに、綾香は珍しく歯切れ悪く答えた。その態度に、シモーヌが一瞬眉をひそめた。
「詳しくは話してくださらないんですの?」
「ん? ちょっとな……」
少し不機嫌そうに聞いてくるシモーヌに、綾香ははぐらかした。
シモーヌの顔が、みるみる不機嫌そうになっていく。
その様子を見ていたひばりは、あわてて仲裁に入ろうとした。
「あ、あのっ! それには訳があって……」
「ひばり、無理に話す必要ないぞ?」
言い募ろうとするひばりを制止する綾香。それは、ひばりをおもんばかっての言葉だったが、シモーヌはそうは受け取らなかった。
「そうっ! 話したくないなら別に構いませんわ! とにかく! わたくしと二年七組の精鋭達が、あなたをけちょんけちょんにしますわよ!」
顔を伏せ、傲然と言い放つシモーヌ。綾香はすこし困惑気味にたちあがった。
「どうしたんだ? シモーヌ。興奮し過ぎだぞ? 落ち着けよ」
言いながらシモーヌへと手を伸ばす。
が、それは彼女に振り払われた。そして、顔を上げた彼女を見て、綾香は小さく息をのんだ。
綾香より少しだけ薄い青い瞳の端に軽くにじみ出たものがあった。それを見て、綾香はめずらしく狼狽してしまった。
その間隙を突くように、シモーヌがきびすを返して歩き始めた。その背中に、綾香は声をかけられなかった。




