第四一二話『信じて頼るもの』
「……覚えときなさいよ? あんた……」
そう言いながら光の粒子に変換されていく楓。それを見送って、慎一郎は重く息を吐いた。
『はあ……まさか八秒もつかっちまうなんてな……』
ぼやく彼の視界の隅に、カウンターがあった。
それは00:00:01:98となっていた。
残り一秒98。
慎一郎が加速能力を使える限界……否、彼のアーマーが加速に耐えうるタイムリミットである。
最大十秒。それを越えての使用はアーマーの崩壊を意味する。楓にはリスクが全く無いように振る舞った慎一郎だが、その内実はかなり綱渡りだ。
加速による空気抵抗摩擦を相殺しうる形態ではあるが、そのためにアーマーの物理防御力は低下しており、攻撃を受ければ致命的な損害を受ける可能性も否定できない。
摩擦に対する防御を優先し、パワーアシストにもエネルギーを振っているため、それ以外の機能は低下している。
『楓~~っ!』
お陰で索敵性能などは劣悪で、今のように敵の接近に気づけない。
見上げれば、拳を構えた蒼い瞳に太陽のように煌めく金髪の少女が自分目掛けて落下してきていた。
だが、時間に余裕がある。
加速する必要もないと踏んで、慎一郎はバックステップして彼女の一撃を避けた。
が。
ダキャンッ!
と、派手な音が響き、彼女の軌道が変わった。
「なんだとっ?!」
とっさに加速して、慎一郎はその一撃から逃れた。繰り出された拳が大地を抉り、カートリッジを弾く音と共に、地面が破裂した。
その砂礫のすべてを避け、慎一郎の加速が終わる。
「……チッ」
今の行動だけで、0.03秒消費した。
慎一郎の目の前で綾香がゆっくりと立ち上がる。
その身にダメージはない。落下の衝撃は大地を殴った際の衝撃で相殺したのだ。
こちらを睨む蒼い瞳に、慎一郎はファイティングポーズをとる。
そして、互いに一歩。
「“幻想舞踊”!!」
『starting!!』
踏み出した。
無数の綾香が出現し、単眼の戦士が超速世界へと突入した。
そして、慎一郎は驚愕する。
目の前には、明滅する綾香の姿。それも、数十体。
そのすべてが虚か実か不明だ。
『……なら! 端から倒してやる!』
叫んで走り出す慎一郎。その拳が目の前の綾香を打ち貫いた。
戦闘を始めた慎一郎と綾香に、ひばりは援護すべく降りていく。
そのとき、いきなり綾香が何人も現れ、慎一郎の姿が掻き消えた。
その瞬間。
綾香の出現させた虚像たちが、次々に砕けて消えていった。
その戦場へ、ひばりが降り立つ。
同時に慎一郎の姿が現れ、綾香もまた残った虚像達が消えて、ひとり佇んだ。
不意に、慎一郎のサイクロップスアーマーが、変形し始めていた展開していた装甲がすべて閉じていき、白銀に輝いていたラインが赤に戻った。
そして、真っ赤に染まっていた単眼もライトイエローに戻った。
『……チッ。タイムオーバーか』
悪態をつく。綾香とひばりには、その意味は推し量れない。だが、彼にとって良くない事が起きたのは事実だろう。
「チャンス!」
綾香が足を踏み出……
「待って綾香ちゃん! あたしにやらせて」
そうとして止まった。
「良いのか?」
「任せて。それとも、あたしじゃあ頼りない?」
訊ねる綾香に、ひばりは笑いながら答え、さらに訊ねる。
綾香はニッと笑うと、小さなひばりへ拳を向けた。
それに、小さな少女が拳を当てる。
「任した!」
「任された!」
綾香に応えたひばりの声を聞いて、綾香は右足のカートリッジを弾いて足元で炸裂させて、大きく跳躍した。
『行かせるかッ!』
クロスガンを構え、綾香を狙わんとするが、その足元に風弾が撃ち込まれた。慎一郎の動きが止まり、小さな少女を見る。
「あなたの相手は私だよ! 関くん」
そして小さな少女、支倉ひばりは堂々と宣言した。




