第四〇八話『暗中模索』
「じゃあ、いくよっ!」
ひばりが声を挙げると彼女の右半身がサンライトイエローに染まり、左半身がブルーに染まった。
ミラージュバレットスタイル。
幻惑の射撃手の姿だ。
左手の銃をホルスターに戻し、目を閉じて軽く手を開いた両腕を前へと突き出した。その身がうっすらと光り始め、何かが起きようとしていた。
『It's overdrive Mirage!!』
電子音が響き、ひばりが目を開く。同時に身体を覆っていた光が広がった。
そして、ひばりの双眸が青く染まった。
そのままひばりはピクリとも動かなくなる。
と。
タタタン!
と、軽快な発砲音が響いた。が、飛来した三発の銃弾は、綾香のリボルガントレットの表面に弾かれる。
「……なるほどスキャン中か。ならあたしの役割は守りだな」
呟いて、綾香は軽く腰を落としながら半眼になり、全周囲警戒の体勢をとった。
その間もひばりは微動だにせずにいた。
幻影を操るミラージュと、射撃のために感覚が強化されるバレット。このふたつのスタイルを以て、ひばりはこの霧の中に潜む相手を見つけるつもりだ。
本来なら特殊攻撃を発動させるoverdriveだが、一時的に能力の出力強化を行うために裏技的な使い方をしている。こうまでしてなお、専用タレントとスタイルチェンジ内の能力には差がある。
だが、もともとひばりの感知能力が良いこともあり、霧の中のスキャンは確実に進行していた。
ひばりから広がった光が、霧を侵食する。
それを阻止せんと、時折銃撃されるが、いずれも綾香が防いでいた。
「ひばり、まだか!」
「もう……ちょっと」
焦れたような綾香の声に、ひばりは落ち着いて答えた。
実際、危険な状況ではある。
綾香は本来、被弾を極力避けて攻撃する高機動戦闘タイプだ。タレントもそれ向きで戦闘スタイルや装備などはその方向で構築しており、お世辞にも直接防御能力は高くない。
それでも、護身の技を以て、飛来する攻撃に反応してガントレットやレガースで受けることに辛うじて成功している。
これは、彼女が無意識に“幻想舞踊”を以て被弾する未来を選択して受け流しているからだが、当の本人はまだその事実を自覚していなかった。
ともあれ、ひばりの索敵行動の守りを綾香は完全と言って良いほどにこなしていた。
だがこれは、常に攻撃にさらされ続けるというストレスを受け続けながら集中し、心を乱さずにいるという苦行となる。
当然、精神的疲労の蓄積がすさまじい。
しかし、今はひばりの索敵に掛けるしか打開方法は思い付かなかった。
「もうちょっと……もうちょっと……」
呟きながら、ひばりは次々に霧の中を探っていく。攻撃が来た方向は真っ先にスキャンした。だが相手の空間支配力のパワーが強すぎるため、即座に探査できるわけでは無い。スキャンできた頃には攻撃者は移動してしまっていたようで空振りに終わった。
しかし、その軌跡はたどれる。
そういった小さな痕跡を一つずつ丁寧に掻き集めていって、とうとうひばりはそこに行き当たった。
「! 見つけた!」
「どっちだっ?」
「あっち!」
言うが早いかひばりはクイックドロウよろしくハンドガンを抜き放つ!
『It's overdrive bullet!!』
銃身にまとわりつくように金と青の光弾が九発ずつ現れ、ひばりがトリガーを引いた瞬間に、それらが螺旋を描くように発射された。
そしてそれが霧の向こうに消えて少しすると、くぐもった悲鳴が上がった。




