第四〇三話『戦域拡大』
「いざ!」
「うわっ? 待てって!」
勇躍して切り込んでいく雪菜を追うように、綾香が走る。
それに反応しきれずに、ひばりが置いていかれた。
「ちょっ! 待ってよ!」
慌てて駆け出すも、二人の姿はその場にたゆたう霧の中へ。
直径にして五メートルほどの白い霧の塊だが、その濃密さゆえに中をうかがい知ることはできなかった。
「ならっ!」
ひばりの右半身がエメラルドグリーンに染まった。
『It's over drive Windy!!』
電子音が響き、六尺棍に渦巻く風がまとわりついた。
「えーい!」
六尺棍を頭上で旋回させて、えいやっとばかりに地面へと思いきり叩きつける。すると六尺棍にまとわりついていた風が解放される!
「いっけえ!」
突風が吹き荒れ、ドーム状の霧の塊を吹き飛ばさんと殺到する。
が。
「えええっ?!」
突風は霧の表面を撫でただけで霧散してしまう。
中に居る綾香や雪菜にダメージを与えないために、収束率は落としていたものの、直径五メートル程度の霧を吹き飛ばすには十分な風速があった。
にも関わらず、この霧のドームは吹き荒れる突風を弾いたのだ。
タレント由来とはいえただの霧ではないことは確かなようだ。
「うう、とにかくふたりと合流しないと!」
決心してひばりは二人を追って霧の中へと飛び込んでいった。
青く、高い空に、赤と白の輝点が舞う。それは大きく弧を描いたり、上昇したり、下降しながらターンして離脱したりと、様々な軌跡を描いていた。
その赤い輝点は、薙刀を構えて飛翔し、クリーム色の髪をなびかせながら、白い輝点、白き鎧の単眼戦士へと向かう。
「やああぁぁあっ!」
裂帛の気合いを以て振るわれた薙刀は、しかしひらりと躱されてしまう。
『YEAAAAH!!』
お返しとばかりに、左腕のクロスガンを連射する白い単眼戦士。迫る弾幕に、赤い輝点の少女、朱羽 南波の纏う鎧が航空機に変形し、南波は機体をロールさせて避ける。それを追撃しようと羽を広げた白い戦士の鼻先を、ライフル弾が掠めた。
離れた場所で槍型ATライフルを構えた銀甲の女騎士。
彼女の青い瞳には、タレントによって出現した狙撃眼鏡能力かま備わり、数倍から数十倍の直感望遠能力により、最大二十キロ先の対象にすら照準を合わせられる。銃身の挙動もこれに連動するため、静止目標であれば何十発でも同じ場所へと命中させられる。
そんな彼女の支援狙撃が、南波と、“音使い《サウンドマスター》”の支援を受けた白い単眼戦士の能力差を覆していた。
正確な狙撃を避けるため、ランダム機動回避をする単眼戦士。その隙を突いて、上昇していた南波は再び機体をアーマーに変形させて反転した。
「はああっ!」
逆落としに迫りながら薙刀を構える。
その声に彼は気づいて迎撃しようとするが、絶妙のタイミングでライフル弾が彼を脅かす。
推力と重力加速を利用した突進に、彼の回避は間に合わない。
だからこそ、
彼は、
切り札を切った。
「きゃああっ?!」
突然に銃撃を受けて姿勢を崩す。左腕の銃口は女騎士、クリスを牽制していた。ならばどこからか?
疑問に思う南波の視界の端に、バックパックか、せり出したクロスガンが見えた。
「肩にも装備をっ?!」
驚きの声を上げながら離脱する。それを見た白い単眼戦士は、クリスをにらみ、飛翔した。
「ウエストロードさんっ?! 離脱して!」
思わず叫ぶ南波。しかし、金髪の銀騎士は口許に笑みを浮かべた。
「いいよん♪ おねーさんが、空中戦をれくちゅあしたげるよん☆」
余裕を持った顔で、クリスはウインクした。




