第四〇一話『その少女は……』
「……」
「木野っ?!」
「木野くんっ?!」
響いたふたつの声に、地に伏し消えゆく修平の横で自分の右腕を眺めていたメイロンが顔を上げた。駆け寄ってくるのは、軽く撫で付けた無造作ヘアの黒髪に、学生服の上にプロテクターという独特の装備をしている高遠 祐介と、その幼なじみである黒髪ポニテにフレームレス眼鏡の神薙 御鳥の姿。
それを認めてメイロンが笑みを浮かべた。
「や♪ 祐介に御鳥。一昨日ぶりかな?」
「……メイロン」
「……メイ」
一方で、祐介と御鳥は警戒するように足を止めた。メイロンの、実力を知るがゆえに。
しかし、メイロンは気負いも何も無く、ごく普通に右腕を見せてきた。
「見てよこれ」
そこを守るはずのガントレットが砕けていた。
完全にいなしたはずの修平の剛剣は、メイロンのガントレットを砕いていたのだ。そら恐ろしい威力である。
しかし。
「……大したものだよね」
メイロンは嬉しそうに笑う。
「凄いね? 彼。見た感じ才覚は無さそうなのに、この剛剣だけに限れば、一流以上。明らかに“達人級”だよ。まだ若いのにこのレベルに達するなんて、素晴らしい努力だよね。世が世なら武芸者として大成していたかもしれないね」
「……」
メイロンはにこやかに続けるが、祐介達は表情を固くしたままだ。
「……千年生きてきてなお、未だに驚くことがあるよ。かくも世界は驚きに満ちているね」
「……お、おい」
メイロンの言葉に、祐介は慌てる。メイロンは人間では無い。龍が人の姿に化身した、仙人だ。まだ千年しか修行していないので位階は高くないが、その実力は計り知れない。もっとも、その事実は隠蔽されなければならない事実で、その能力の大半は封じられている。
それでもだ。修平のような才に恵まれぬ凡庸な男が、努力によって身に付けたただ一刀が、龍である彼女に届いた。
その驚きと嬉しさが、彼女を饒舌にしていた。
「あはっ♪ 大丈夫だよ? 祐介。周りに人はいないし、この仮想空間を造り出した人は、こちら側の人間だ。そうそうバレたりしないよ」
心配げな祐介と御鳥に、メイロンは笑って見せた。
「ともあれ、こうして敵味方として出会った以上、やることはひとつだよね?」
「!」
メイロンの纏う気配が臨戦態勢に移行したのを感じて、祐介は剣を構えた。それを見てメイロンは満足げにうなずいた。
「……前から一度、祐介や御鳥と戦ってみたかったんだよね。宝貝も使えないけど、ここなら死んじゃうこともないだろうし、本気でやろうよ祐介。御鳥の支援もあって良いからさ♪」
楽しげなメイロンに、祐介が喉を鳴らし、御鳥が和弓を構えた。
「じゃ、いくよ!」
メイロンが音もなく前進する。それを受けて、祐介は迎え撃つ姿勢を見せた。
「来いっ!」
メイロンに祐介が応え、御鳥がにらむように目を細めて、弓弦を引いた。
ここに、メイロンと祐介達の戦いの火蓋が切って落とされた。




