第三九四話『地に伏すは』
「ふんぎぎぎ……」
『……お前、マジで雑技団所属だろ……?』
小さく漏らした慎一郎の真下に、赤い光を纏ったナックルを、足裏で受け止めるフラウの姿があった。
正確にはタレント“天之道往”のフィールドで受け止めているのだが。慎一郎が降ってきた瞬間、タレントで強引に脚だけを移動させて倒立するように真上に向けたのだ。ハードラッシャーに押さえつけられた腕はそのままなので不自然にねじられている。
「……だから、そんなわけあらへんつったやろ!」
叫んで、フラウは“天之道往”を再度使用する。ナックルのエネルギーと、“天之道往”のフィールドが激しく干渉し合い、結果……。
「ぐっ……?!」
『チィッ?!』
『?!?!』
ナックルとレガースが同時に砕けた。その衝撃で、ハードラッシャーはフラウを放して尻餅を着き、慎一郎は再び空中へ。
「……く」
そしてフラウはその場にうずくまる。両腕と両脚のダメージは決して小さく無い。しかし、それでも彼女は立ち上がろうとする。
そこへ。
『まだだっ!』
『charge!!』
慎一郎の声と電子音が響いた。
「嘘やろっ?!」
慌てて見上げたフラウの目の前に円錐が展開し、慎一郎がそれに蹴りを叩き込んだ。
その瞬間、円錐はフラウに撃ち込まれ、ドリルのように彼女を貫いて消えた。
「か……はっ……」
衝撃に呼気が漏れてライフバーがすべて失われる。そしてフラウのアバターが光に還る。
「はぁ~今回ええとこ無しやなあ……ったく……」
小さく悪態をついて、フラウの姿は仮想空間の戦場から消えた。
それを見て、慎一郎は大きく息を吐いた。
「……強いな」
六組の“音使い《サウンドマスター》”の支援は、慎一郎にも当然及んでいる。距離が離れるほど効果が低下する、精神付加が大きいなど、欠点や制約の多いタレントだが、その効果は絶大だ。現に慎一郎は距離的にかなり離れてしまってはいるが、パラメータに1.6倍もの補正が入っている。にも関わらず、フラウを倒すのに特殊攻撃を二回も使用してしまった。
慎一郎はスタイルチェンジによってサイクロップスアーマーのエネルギーを回復可能だが、他のメンバーはそうはいかない。やみくもに大威力攻撃を繰り出しても、七・八組のエース級の面々は凌いでしまうかもしれない。
『……地力が違うってことか』
つぶやいて、慎一郎はエネルギーを回復し始めた。五組との対戦のデータを以て再調整した結果、特殊攻撃のエネルギー消費量は軽減されたが、それでも一回で三割近いエネルギーを消費する。それだけ高威力で有ることは確かだが、エネルギーを使いすぎては、サイクロップスアーマーの最大の特徴である防御耐久性が発揮できない。
余裕があっても諸刃には違いないのだ。
『とにかく、神崎の援護に向かうか』
相手フラッグ付近まで行ってしまえば、“音使い《サウンドマスター》”の支援効果は最低レベルだろう。守りにも十中八九エース級が配されているはずだ。
『よし行くぞ。バイクにもどれ』
『formchange』
慎一郎の指示にしたがってハードラッシャーがバイク形態に戻り、彼はそれに跨がった。




