第三十七話『目覚めた雲雀』
「風華? ここは……?」
歓声を上げる風華を見て、目をしばたたかせたひばりは、身を起こしながら風華に声をかけた。
『はい、ここはアバターの中枢部です。いきなりマスターが現れてびっくりしました』
答える風華の声を聞きながら、ひばりは周りを見回した。
周囲は暗く、なにも見ることは出来ない。
「……暗い……ね」
『本来ならアバターはマスターの実体データに重なるように構築されますから、見るべきものは無いんですよ。ですが、ここに居ることで、出来ることもあります』
言いながら風華はディスプレイを展開した。
映し出されたのは、ボロボロの綾香とアキの姿。それを見たひばりは思わず声を上げていた。
「綾香ちゃん! アキちゃん! ひ、酷いよ。誰がこんなことを……」
『……マスター。落ち着いてください。順番に説明します』
顔を青くするひばりに対して、風華は落ち着いた調子で続けた。
「け、けど……!」
『お二人を助けるためです』
あせった様子のひばりに、ぴしゃりと言い放つ風華。
それでひばりも言葉を飲み込んだ。
その様子を見て、風華は状況を説明しはじめた。
「そ、そんな……。それじゃああたしが二人を攻撃しているの?」
風華の説明に愕然となりながらつぶやくひばり。しかし、彼女の小さな相棒は首を振った。
『それは違います。これは、アバターが自動で攻撃しているにすぎません。暴走と言っても良いでしょう』
「で、でも……」
悲しげにまつげを揺らし、顔を伏せるひばり。
風華はそんな主の悲しみを感じてまなじりを下げた。
が、それを振り払うようにかぶりを振って、口を開いた。
『……マスター、悲しむのは後です。まずは綾香さんとアキさんを助けないと』
風華の強い口調に、ひばりは勢い良く顔を上げた。
「で、できるの?!」
『できます。本来なら、マスターがアバターのコントロールに関しては上位の権限を持っています。前は中にアクセス出来ませんでしたのでダメでしたが……』
「今は中にいる」
『はい』
風華の言葉に、ひばりは真剣な顔で答えた。
「どうすれば良いの? 風華」
『本来の仕様なら、マスターが私に命じれば止まります』
「じゃあ止めて? 風華」
ひばりの言葉にしかし、風華は力無く首を振った。
『……申し訳ありません。今アバターをコントロールしているのは私では無いんです』
「?」
風華の言葉に首を傾げるひばり。
『いま、このアバターをコントロールしているのは私たちの知らない何者かです。それを探し出して、マスターがその権限を以てお命じになれば、アバターは止まるはずです』
風華の説明に、ひばりは少し考える素振りを見せたが、即座に立ち上がった。
「よし。それじゃあその誰かを探そう風華!」
『はい、マスター!』
鞭のようにしなりながら伸びる日本刀の刃を大剣で弾きつつ、レオタードに身を包んだ金髪碧眼の少女が宙を舞い、重厚な装甲で身を固めた仲間の少女の元へ降りたった。
「はぁっはぁっ……だいぶ……パターンは……見えてきたな」
「はい。各能力のあらましもわかってきました」
肩で息をしながら言う金髪の少女、綾香の言葉に、砕けた頭部装甲から顔をのぞかせたアキがうなずいた。
あれから何度も切り結んだ綾香は、この強力すぎるアバターの行動が、半自動対応であることを看破していた。
アキもまた、綾香を援護しつつも様々に入れ替わる能力を観察していた。
「能力は八つ。その組み合わせでスタイルも変わるマルチコンバットスタイル……」
その能力も、風の緑、火の赤、幻影の黄、水の水色が右半身。格闘の黒、六尺棍の白銀、ハンドガンの青、日本刀の紫が左半身。
この、四×四の計十六ものコンバットスタイルがあることがわかった。
「つーか、すげえ凶悪なタレントだな」
「ほとんどトップレベルだと思います。使いこなせれば」
呆れるような綾香に、アキが答える。
事実として、それがこのタレントの大きな欠点であろう。
なにせ、十六ものコンバットスタイルに習熟しなければならないのだから。
しかし、現状には関わりない。
「だけど、ある程度行動パターンがあることはわかってきてんだ。そろそろ攻略できるだろ」
疲れを見せないように、軽い調子で言う綾香。アキもそれにうなずいた。
「……んじゃ、さくっと攻略……?」
飛び出そうと身構えた綾香の顔が、おやっ? となる。
援護のためにガトリングガンを構えたアキも同様だ。
そんなふたりの視線の先に、虚空を見つめて身を揺らすひばりのアバターの姿があった。




