第三十二話『暴走』
「ッ!?」
伸びてきた殺気を感じ、綾香がアキを突き飛ばしながら反対方向へと転がった。
その間の空間を、炎をまとった弾丸が切り裂いていった。
「ひばり! シャレになんないぞっ?!」
すぐさま体勢を整えた綾香が声を上げた。その蒼い眼を赤と青の銃士から離さない。
一方、突き飛ばされたアキも身を起こしながら彼女の様子をうかがった。
「……これは」
訝しげに眼を細めるアキ。
しかし、そうする間にも彼女は動き出した。
綾香に向けて走り出しながらハンドガンを綾香に向ける。
それを見て即座に右へ走り出しながら即座に切り返した。
引かれたトリガーに応じて炎の弾丸が吐き出されるが、それは空しく宙を焼いた。
「ひばりっ! やめろっ! あたしだっ! 綾香だっ!」
「…………」
声を上げつつ走り回る綾香。
二度三度と炎弾を撃ち放っていた赤と青の銃士が足を止めると、赤かった右半身から色が抜け落ちていき、それを追うようにサンライトイエローに染まっていく。
揺らめくような『M』のイニシャルが黄色く輝きながら彼女の前に顕れ消えた。
そして、ふたたびハンドガンが吼えた。
「くっそっ!?」
悪態を吐いて、綾香はさらに走り出し、照準を攪乱しようとする。だが、吐き出された光をまとった弾丸は、まるで意志を持つかのように軌道を曲げて綾香に襲いかかった。
「うげっ?! マジかよっ!?」
声を上げてブレーキングする綾香。幸い弾丸の早さは早くはない。
素早く長剣とガントレットを振るって飛来する光弾を迎撃。たたき落とす綾香。
「くっそ、本物じゃあ無いってわかっていても、気分良くないな!」
そう言いつつ迎撃に専念する綾香。
「アキ! 理事長に連絡着かないか?! いったん三人ともリンクアウトして貰えれば……」
「ダメですね。この空間に来てから連絡を取れなくなってますし、リンクアウトも出来なくなってます。もっとも、モニタリングもしていますでしょうし、なによりあの人がこの状況でなにもしないわけがありません。今は耐えましょう」
綾香に答えながら、アキが立ち上がった。
「綾香さん一人では荷がかちしすぎです。こちらも援護しますので、ひばりさんを攻撃してください」
「!? そ、それは……」
戸惑うように顔をゆがめながらも、曲がりくねりながらも自身を狙う弾丸を切り裂いていく綾香。それを見て、銃士はトリガーを引きながら走り出した。
その様子を見ていたアキが、そうはさせじと大砲で牽制する。
「聞いてください。おそらくですが、ひばりさんは気絶しています。何故かはわかりませんが、アバターが自動で戦闘行動を継続してるんです」
「なんだそれっ?! あり得んのかっ?!」
そう問い返しながらも、アキの放った砲弾を跳躍して避けながら迫ってくる銃士を迎え撃つ綾香。
空中で、銃士の左右の色が抜け落ち、エメラルドグリーンとシルバーホワイトに染まり、着地と同時に『W』と『A』のイニシャルが浮かんだ。
そのまま伸び上がるように走り出した彼女の手の中で、ハンドガンが光の粒子に還り、二メートルほどの金属製の棍に変化した。
「いいっ?! 今度は六尺棍かよっ?! なんでもありかっ?!」
叫びながら素早く後退する綾香。そこへ横薙ぎの一撃が走った。かろうじてそれを空かすが、さらに追撃するかのように風が走り綾香に襲いかかった。
「ぐっ?!」
衝撃が全身を駆け抜け、央華の制服が引き裂かれていく。
「綾香さん!」
声を上げて砲弾を二発撃ち放つアキ。
しかし、それに素早く反応し、手にした鉄棍で弾き跳ばす緑と銀の棍士。
明後日の方向で炸裂する砲弾を後目に、アキは素早く移動しながら口を開いた。
「本来アバターが独自に戦闘行動するなんてあり得ません。けど、ひばりさんのファミリアには、マスター権限を以てしても解除できないロックがありました。それに関わるとすれば……」
「……無いとは言えないわけだ。っと。せりゃっ!!」
アキの解説を聞きながら、綾香は鉄棍の乱舞を捌き、お返しとばかりに長剣でカウンターを取りに行く。
しかし、鉄棍が素早く回転し、それを弾きながら逆にカウンターの一撃が飛んだ。
「わっ?!」
あわてて突き出されたそれをかわした綾香はそのまま踏み込んでいく。
棍士の表情が揺らいだように見えた。




