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第三一五話『凶獣』


「?!」

 迫る刃に鷹久は一瞬動けなかった。大技の直後の隙だ。

 かろうじて両腕で防御の姿勢をとった。そんな彼の目の前に、影が立った。

 雪菜だ。

「くぅっ?!」

 立てた十文字槍でその刃を受け止めるが、思ったより重い一撃に声が漏れた。

「チッ!」

 舌打ちとともに、雪菜が受け止めた刀身の長い山刀マチェットが、柄先から伸びる細いチェーンを引かれて戻っていく。その先には、アサルトライフルを右手で構えた河上浩一の姿。と、短音が連なるような音が響いた。

 アサルトライフルのバースト射撃だ。雪菜と鷹久は思わず体を投げ出してそれを避ける。


 元よりろくな照準も無く片手という不安定な体勢での発砲に当たり目など期待できはしない。せいぜいが牽制だ。

 だからこそ、ふたりは避けることが出来た。

「まさか剛の奴がやられるとは思わなかった。だが、もう終わらせるリミットリリース“凶獣化”《ベルセルク》!」

 手にしたアサルトライフルを消しつつその言霊を紡ぐ浩一。その体に、真っ赤な紋様が浮かび上がる。いや、それだけではなく、武器が、鎧が、ボディスーツが、そして彼の素肌が黒く染め上がっていく。そして、二本目の山刀マチェットを呼び出しつつ、天を仰いだ。

「ヴゥオ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛アッ!!」

 雄叫びが轟き、それが圧倒的な圧力を伴い鷹久と雪菜に吹き付けた。その衝撃波をこらえ、鷹久は新たにガントレットを格納領域から呼び出して装着し、構える。雪菜もまた槍を構えた。

「……すごいプレッシャーだ」

「同感だ」

 ふたりで警戒するように浩一を見る。と、浩一が一歩踏み出した……瞬間!

「ヴァッ!」

 声とともに低空跳躍し、そのまま二本の山刀を振った。それを鷹久はガントレットで弾こうとしたが、思わぬほどの早さと鋭さと重さに失敗。右手が大きく弾かれた。

「くっ?!」

 とっさに左腕一本でガード。

 山刀が、ガントレットに激突する。と、硬い岩が爆ぜるような音が響き、鷹久は大きくはね飛ばされた。

「ぐうっ?!」

「吉田! おのれっ!」

 そんな鷹久に雪菜は声を上げてから浩一をにらむと、そのまま十文字槍を彼めがけて突き出した。

 その十字の穂先から横に伸びる刃に右の山刀をふるって受け止めた。

 そのまま左足を雪菜の方へ踏み出す。自然、体は反転し雪菜の間合いを侵略し、左の山刀を彼女の右側頭部めがけて振るった。

 刹那、雪菜の足先が地面を蹴った。瞬間、騎兵の突撃力が浩一の山刀を弾き、そのまま彼の横を駆け抜ける。そして、一挙投足に切り返し、さらに跳ねた。

 その速度に浩一はしかし反応し、振り向いた。

「ヴァアッ!」

 振り向きざまに振るった山刀が、雪菜の十字槍と激突し、その突撃を食い止めた。が、雪菜はその状態からさらに突撃をせんと足先に力を込め、跳ねた。

 と、同時に浩一がもう一本の山刀を叩きつけるように振るった。

 そして、鋼の砕ける音が響いた。

「グァガッ?!」

「くぅっ?!」

 生まれた衝撃波に吹き飛ばされ、浩一と雪菜は声を上げる。そして、同時に得物を構えた。

 砕けた一本の山刀と、穂先の無くなった槍を。

「グッ?」

「チィッ!」

 一瞬驚いて、浩一は山刀を投げ捨て、雪菜は新たな槍を出現させた。

 と同時に二人は互いへ踏み込む。突き刺すように繰り出された槍を、残った山刀が弾く。

 が、即座に引き戻された槍は再び突き出され、またも山刀に弾かれた。しかし槍はさらに繰り出され、山刀が弾く。

「ヴァアッ!」

「はぁあっ!」

 槍が突き、山刀が弾く。

 突き、弾き、突き、弾き、突き、弾き、突き、弾き……そのサイクルが序々に早くなり、互いに嵐のように武器を繰り出し始めた。

 互いに狂ったように武器を繰り出し続け、鋼と鋼がぶつかる音がけたたましいほどに戦場に響いた。

 永劫に続きそうなそれは、しかし唐突に終わった。

 浩一の頭部に、大きな衝撃が走る。彼の側頭部に、膝がたたき込まれたからだ。

「……邪魔して悪いね。けど、今回は集団戦だから」

 吹き飛ぶ浩一を見送り、膝を放った少年、吉田鷹久はつぶやいた。

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