第三一四話『鷹の剣《イーグルセイバー》』
「で? 策はあるのか? 吉田」
綾香と楓が周囲に散り、その場に残って剛と対峙した雪菜が、巨人から目を離すことなく同じく対峙する鷹久に訊ねた。
鷹久は、それに対して口の端を持ち上げるようにして笑う。
「……正直に言うと、無い」
「……やはりか」
鷹久の率直な物言いに、雪菜は嘆息した。ある程度は想像していたようだ。
「……けど、可能性があるのは僕たちふたりだと思う」
しかし、鷹久は笑みを崩さずに言う。
「根拠は?」
とりあえず、といった体で雪菜が聞いた。と、剛が腕甲をドリルへ変形させ、ふたりへ叩きつけんと振りかぶった。
ふたりは左右に散ってやり過ごし、叩きつけられたドリルが大地を砕いて弾けさせた。
「あのふたりは手数は稼げるけど、一撃一撃は軽いからね!」
「なるほど確かにな!」
言葉を交わしながらも二人の視線は剛から離れない。
『お前ら、たったふたりで俺に勝つつもりかよ。上等だ!』
剛は声を上げながら足を踏み出し、左腕で薙ぎ払った。
それらを避け、交い潜る鷹久と雪菜。と、ふたりはほとんど同時に切り返した。そのまま雪菜は剛の足へと十文字槍を突き出し、鷹久は大型ナイフを旋回させながら腕へと叩きつけた。
槍の穂先は易々と防具を貫き剛の足に突き刺さったが、大型ナイフはわずかに傷つけただけで弾かれてしまう。
「くそっ!」
鷹久は思わず悪態をついた。
“巨大化”によって巨大なアバターと化した剛は、相応の防御力を持つらしい。だがそれは、想像の範疇だ。
「……やっぱり一撃に賭けるしかないね」
離脱しながら鷹久がつぶやく。向こうでは雪菜が跳ねるようにして距離を取っていた。
「……鷹丸、黒崎さんにメッセージを頼むよ」
『心得た』
自分の電子使い魔に頼み、メッセージを作成して雪菜へ送る。その間にも、巨大なアバターの攻撃は止まず、鷹久は回避に専念した。
と、雪菜からの返信が視界内にポップアップした。
内容は、『心得た』の一言のみ。しかし、それで十分だ。
「……よし、やるよ鷹丸! リミットリリース“武装解放”!」
『武装出力二百パーセント。臨海点へ。カウントダウン開始』
鷹久のタレントが解放され、両手両足首に取り付けられた旋回式の大型ナイフとブレイドが、激しい光を噴出する。そんな鷹久を見て、剛は顔をしかめた。
『ちぃっ! 情報の無いタレントかぁっ!』
両手を振りあげ、叩き潰すべく振り降ろす。
轟音が響き、地面が破裂した。
『なんですのっ?!』
『しーちゃんっ!』
『わわわっ?!』
『地震だあ〜』
『うわっとぉ』
『ちょっとぉっ?!』
『タカっ!?』
大地を揺らすそれに、七・八組の面々が驚く。が、舞い上がった砂煙を貫き、鷹久が空高く舞い上がった。
『てめえっ!?』
剛の視点をして見上げるほどの跳躍。“武装解放”によるエネルギー噴出効果を推力に利用したのだ。
『たたき落としてやら……あぁっ?!』
自分を見下ろす鷹久に、剛が吼えた。が、足に受けた衝撃に顔が歪む。
「足下が留守だぞっ!」
声とともに、剛の足へ雪菜が突撃したのだ。
雪菜のタレント“貫通”は、あらゆる防御を貫く。それに“跳ね馬”の突撃力が加われば、雪菜自身が徹甲弾のようなものだ。その威力を以て、剛の両足を貫く雪菜。
足に受けた大打撃に、剛は思わず尻餅を着いた。
それが狙いだ。
「食らえええぇぇぇええっ!!」
叫びとともに、鷹久が両手首の大型ナイフからエネルギーを噴出させ、蹴りを放つ。
両足首のブレイドが旋回して下を向き、巨大なエネルギーの刃を作り上げた。
そして鷹久は、一本の光輝く巨大な剣と化す。
『くっそおおぉぉおっ!』
立ち上がることが出来ない剛は、両腕の腕甲を盾へと変形させて防御した。
が、光の剣はそれごと巨人のアバターを貫いた。
そして大地をえぐるように着地する鷹久。視界の端で、カウントダウンタイマーがゼロになる。
『カウントアップ。リミットオーバー』
鷹丸のその言葉とともに、ナイフから吹き出していたエネルギーが止まった。
と、同時に剛の巨体が光の粒子と化していく。
『……っきしょうが……』
そんな声を残し、剛の姿は消えて無くなった。
それを見計らったかのように、鷹久のナイフとブレイドが砕け散った。
「無理させすぎたか……」
砕けた刃を見て苦笑いする。そこへ。
「吉田っ! 避けろっ!」
響いた雪菜の声に、顔を上げる鷹久。
その視界いっぱいに、刃が迫った。




