第三十一話『彼女の、力』
周囲が見守る中、ふわりと降り立ったひばり。
その出で立ちは、それまでとは大きく違っていた。
ポニーテールだった長い黒髪を結っていたリボンは無く、ロングヘアーとなり、そこに白い羽根飾りが両側に着いたカチューシャを着け、体のラインが出るようなオブシディアンブラックとエメラルドグリーンで左右に色分けされたレオタード状のボディスーツ。
その腰回りには前が大きく開いた、鳥の翼のような意匠のスカート。そして肩にもやはり鳥の翼のような意匠を盛り込んでいる。
さらにヒジから下にはガントレット。それも右側はエメラルドグリーンで、左側はオブシディアンブラック。
丁寧な彫り物細工が施されたそれには、甲の辺りにガントレットと同じ色をしたひし形のクリスタルが埋まっている。
また、足下に視線を転じれば、やはり丁寧な彫り物細工が施され、ヒザとくるぶしにひし形のクリスタルのはまったレガース。
その色合いは、ガントレットと同じく右がエメラルドグリーンで左がオブシディアンブラック。
黒と緑で左右に色分けされた、白い翼の少女が降臨していた。
その少女の目が、鋭く‘ヒドラ’をにらみつけた。
軽く腰を落としながら身構え、右足が、大地を踏み切った。
瞬間。
ドンッ!!
と、衝撃波が広がり、風をまとって砲弾のように低空を飛翔する。
そのまま瞬きをする間もなく‘ヒドラ’の懐へと飛び込むように、小さなつむじ風を絡ませた右腕を突き出し、その手のひらを胴体へと撃ち込んだ。
刹那。
腕に絡んでいた風が解放され、‘ヒドラ’を吹き飛ばした。
「こ、これは……」
「ス、スゲ……」
その威力に、アキも綾香も呆然となった。
それを後目に、構えを解いて立つひばり。
そのまま左腕を真横に振ると、黒かった左半分の色が左方向へ抜け落ちていき、さらにサファイアブルーに染まっていく。
そして顕れる『B』のイニシャルとともに、左手の中に光が集まり、大型のハンドガンとなった。
それが形成しきらないうちに、ひばりは体を左へひねりながらまるでコンパスを左回転させるように回りながらトリガーを引く。
風をまとった弾丸が四発。正確に四匹の‘ゴブリン’を撃ち貫き、データの残滓に還元していった。
まるで、“機械のような正確さ”に、綾香もアキも、ただただ見ることしかできない。
と。
『キシャアアァァッッ!!』
と、雄叫びが上がった。
吹き飛ばされていた‘ヒドラ’が身を起こして彼女を威嚇したのだ。
だが、彼女はそちらを一瞥すると、右手をゆっくり真横に持ち上げた。
エメラルドグリーンの色合いが、右方向に抜け落ち、それを追うように真っ赤に染まっていく。
それが指先まで達したとき、炎で出来た『F』のイニシャルが浮かんだ。
そこに渦巻き始める力に、綾香もアキも息を呑んだ。
ただ、それを感じることの出来ない単純なプログラム体でしかない‘ヒドラ’が、彼女へ突進していく。
『It`s Overdrive Flame!!』
電子音が鳴り響いたかと思うと、彼女は銃口を‘ヒドラ’に向けた。
そこに顕れる炎で象られた『F』のイニシャル。
そして、引かれた引き金とともに、膨大な炎のエネルギーが‘ヒドラ’に向けて放射された。
その真っ赤な炎は、あっという間に‘ヒドラ’を飲み込み、断末魔すら上げさせずにひどくあっけなく焼き尽くした。
「すげえな……」
「全くですね……」
綾香は、アキ抱き起こしながらつぶやいていた。
アキも呆然とした様子でそれに答えていた。
「なんにしろ、終わったって事かな?」
少し疲れたように笑う綾香に、アキもほほえんだ。
「おーい、ひば……り……?」
顔を上げ、功労者を労おうとした綾香の動きが止まった。
「? どうしました?」
そんな綾香の様子にアキは訝しげに訊ねた。
「……まずいかも」
答えた綾香の蒼い視線の先で、赤と青の銃士が彼女をにらみつけていた。




