第二十九話『そして目覚める……』
「だぁーっ?! キリが無ぇっ?!」
鉈を持った小柄な怪物を切り捨て、綾香が声を上げた。
それもそのはず、その小柄な怪物……プロテクトモンスター‘ゴブリン’は、倒される端から一匹登場するサイクルで綾香とひばりに襲いかかってきていた。アキはといえば、巨人タイププロテクトモンスター‘オーガ’相手に手こずっていた。
耐久力と攻撃力に特化されているこのプロテクトモンスターは、正面からの殴り合いで勝つために作られており、本来なら火力支援向きにセッティングされているアキとは相性が悪かった。さらに言えば、リンクネット内での戦いに慣れていない綾香やひばりにこの強敵を充てるわけにもいかず、アキは不利な戦いを強いられていた。
にも関わらず、接近戦で互角以上に渡り合っている辺り、大したものである。
『にしても大したもんだな。あの二人は』
「カヲルさん?」
不意に相棒から声を掛けられ、アキはそちらにも意識を割く。
『夏目はこの短時間でかなり操作に慣れてきてるな。センスが良いんだろう。支倉は操作は並だが……』
「どうしたんです?」
‘オーガ’の棍棒を避けながらカヲルに訊ねるアキ。
動作サポート状態のため、姿は消えているが、アキにはカヲルの困惑する顔が見えた気がした。
『支倉は、操作は並だ。だが、さっきから被弾がほとんどない。攻撃がどこから来るのか前もって解っているかのような動きをしてるな。おそらくは……』
「空間把握力、及び空間認識力。見当識が優れてる……」
カヲルの話を聞いて、一瞬だけひばりの方へと目をやったアキが応えた。
『ああ。それもかなり優秀な部類だ。支倉はファミリアのサポートを受けていないんだからな』
「!」
カヲルの言葉に、アキは軽く目を見開いた。
本来、リンクネット上でアバターは、ファミリアのサポートを受けて動くものだ。
故にスムーズに動けるのだ。
それも無しに‘ゴブリン’の攻撃を九割がた回避しているのだ。それは、瞬時に誰がなにをして、どこになにがあるのかを把握することが出来る以上、被弾率は最低限で済んでしまうのだ。
しかし。
「きゃっ!?」
「ひばりっ!」
やはり、多勢に無勢である以上、やがて限界はやってくる。
‘ゴブリン’の鉈に押し負けてしまったひばりは悲鳴を上げて尻餅を着いてしまった。
間髪入れずに襲いかかってきた‘ゴブリン’の鉈を、なんとか倭刀で防いでしのぐ。
その様子に気づいた綾香が援護に向かおうとするものの、二匹の‘ゴブリン’を振り切れず、盛大に舌打ちした。
アキもそちらへ向かいたくはあったが、なかなか‘オーガ’を仕留め切ることができず、顔をゆがめた。
だが、そんなことは知らないとばかりに‘オーガ’は棍棒を振りかざした。
「……ジャマです!」
アキの眠たげな目が鋭く細まり、頭を狙って振り下ろされた棍棒を紙一重で避けながら‘オーガ’の背中に回り込むと、そのまま大砲の砲口を押し当てながらトリガーを引いた。
鈍い重低音とともに爆圧が‘オーガ’の体を貫き、このプロテクトモンスターを電子データの残滓に変換せしめた。
「やっとですか。ラボ内だからと武装ツールの大半を外してきたのが裏目に出ましたね」
やっとのことで‘オーガ’を倒し、一息つくアキ。そんな彼女を相棒が叱咤した。
『グチは後だ。支倉を助けに……アキっ!? 後ろだっ!?』
「!」
カヲルの悲鳴のような声に反応し、アキは振り向きざまに大砲を突きつけトリガーを引いた。
その砲口から吐き出された砲弾は、見事に相手に突き刺さって炸裂した。
と、同時にアキの腹と胸、両肩に左の太股に衝撃がはしり、アキは大きく吹き飛ばされた。
「アキっ!」
「アキちゃんっ!?」
大きくダメージを受けたアキの姿に、綾香とひばりが声を上げた。アキはすぐさま起きあがろうとするが、ダメージが大きくなかなか身を起こせずにいた。
「く、難敵を倒して気が抜けたところに最大の戦力を投入ですか。敵もなかなかやるものですね」
『言ってる場合か! このタイミングで‘ヒドラ’かよっ!?』
「おそらく‘オーガ’撃破をトリガーにしてあったんでしょうね」
つぶやくようにカヲルへ応えるアキ。
‘ヒドラ’。‘オーガ’より大型で、七つの蛇頭を持つプロテクトモンスター。七つの首より放たれる七連撃の破壊力は、重防御タイプのアバターでも耐えきれないと言われている。
目の前のそれは、首の数が五本しかなかった。
アキの振り向きざまの一撃が直撃し、二本の首を吹き飛ばしていたからだ。
七本全部を受けていたら、アキは即座に強制リンクアウトさせられていたであろう。
もっとも、このままでは多少先延ばしになっただけであるが。
ゆっくりとアキに近づいていく‘ヒドラ’。
「くそっ! アキ!」
「アキちゃん!」
綾香とひばりは声を上げた。
助けに行きたくとも、‘ゴブリン’がジャマをする。
じりじりと、アキに迫るその脅威。
‘ヒドラ’の残された五つの頭が鎌首をもたげ、アキを見下ろした。
観念したかのように目をつぶった彼女を見た瞬間。
ひばりの中で何かがはじけた。




